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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
81~90

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遠征軍の出撃

 タブリンス領都の奥深く。領主館の大広間に、怒声が響いていた。


「小さな村ひとつに過ぎぬというのに、兵を退けただと……!?」


 玉座にふんぞり返ったゴルドール・タブリンスの顔は真っ赤に染まり、血管が浮き出ている。

 報告をした家臣は土下座し、震える声で弁解を繰り返した。


「そ、それが……まるで魔将を退けた時のような力で……」

「黙れ!」


 椅子の肘掛けを拳で叩きつけ、ゴルドールは立ち上がった。

 肥え太った体から放たれる怒気に、周囲の家臣たちは顔を伏せる。


「このまま反乱の芽を見過ごせば、領都まで火が回る」



 こうして、数百の兵と重装騎士団、さらに教団から与えられた尖兵を含む大軍が、村へ向け進軍を開始した。



◇◇◇



 一方その頃。

 僕たちは村の広場で、炊き出しを受けながら体力を取り戻した人々と共にいた。

 鍬や鎌を槍のように構え、農民兵がぎこちなく訓練している。


「セージ君……やっぱり来るんだよね」

 青髪に変装したリンカが、弓を抱えたまま顔を曇らせる。


 僕は小さく頷いた。

「遠からず、領主の軍は差し向けられる。あれだけの騒ぎを起こしたんだ。黙ってはいない」


 その言葉を裏付けるように、リンカの耳がピクリと動いた。

 【分析】の光が彼女の瞳に宿り、広域に広がる敵影を探る。


「……数百規模。騎士団と、奇妙な兵の気配が混じってる。早ければ二日で到着するわ」


 彼女の報告に、訓練していた若者たちが顔を青ざめさせた。

 数百。まだまともな鎧も武器も揃っていない農民たちにとって、それは絶望の数字だった。


「やっぱり……勝てるわけがねえ」

「俺たちじゃ、ひとたまりもねえ……」


 怯えが広場に広がり、士気が崩れかける。


 僕は剣を抜き、月明かりに煌めかせた。

 その音に人々の視線が一斉に集まる。


「恐怖に屈すれば、ここで終わりだ。けれど僕たちは、もう歩き出したんだ。……生き残るために戦う。それが反乱と呼ばれても構わない」


 声を張り上げると、村人たちの目にわずかな光が戻る。

 ルミナスがその隣で、炎を掲げた。


「ルミナスは見た。あんたらが逃げずに立ち向かったのを。……なら次もできる。ルミナスたちと一緒に」


 炎が夜空に大きな狼の姿を描き出し、兵士や村人たちが息を呑む。


「俺たちは獣みたいにしぶとい! 何度でも立ち上がるんだ!」


 セレスが祈りの言葉を重ねる。

「勇気を示す者には、必ず光が差します。……皆さん、どうか信じて」


 その声と共に、広場を柔らかな光が包んだ。


 その翌日。

 遠征軍が領都を発ったとの報が村に届いた。

 数百の兵が迫る――その現実に、空気が張り詰める。


「来るぞ……!」

 槍を持った若者が震える声で呟いた。


 僕は剣を握り直し、静かに答える。

「恐れるな。必ず迎え撃つ。僕たちが前に立つ」


 仲間たちが並び立つ。

 リンカが弓を構え、ルミナスが火を灯し、セレスが祈りを胸に抱く。


 夜明けを待たず、決戦の幕が上がろうとしていた。


◇◇◇


 夜明け前。

 地平の彼方から響く鉄蹄の音と鬨の声が、村の空気を震わせた。

 数百の兵、重装騎士団、そして黒い靄を纏った尖兵の群れ――まさに圧倒的な戦力だった。


「来たぞ……!」

 槍を握る若者たちの声が震える。だが彼らの足は、もう退いてはいなかった。




 戦いは苛烈を極めた。

 農民兵は粗末な槍と鍬で必死に食い下がり、冒険者たちが前線で盾となる。

 リンカの矢が敵の弱点を射抜き、ルミナスの炎が陣形を崩す。

 セレスの祈りが傷を癒し、倒れかけた者たちに再び立ち上がる力を与えた。


 そして――僕は仲間の“ため”を束ね、一撃必殺の剣を振るった。

 【破魔斬光陣】の閃光が尖兵を消し飛ばし、【重ね斬り】が騎士たちの列を断ち切る。

 土煙と血の匂いの中で、農民たちが雄叫びをあげた。


「俺たちにも……できる!」

「英雄様と一緒なら……!」


 その叫びは恐怖を押し返し、戦列に広がっていった。


◇◇◇


 戦いの果てに、大軍は押し返された。

 尖兵は灰となり、騎士団は壊走。領主の軍勢は村を制圧するどころか、逆に敗走を余儀なくされた。


 村は焼け、犠牲も出た。だが、生き残った者たちの瞳には確かな光が宿っていた。

 もはや彼らはただの農民ではない。自らの意思で立ち上がった反乱軍だった。


 炎と煙の中で、僕は剣を突き立てた。

「見たはずだ。恐怖は乗り越えられる。……次は領都だ。必ずこの地を取り戻す!」


 歓声が上がり、村は新たな決意に包まれる。

 こうして僕たちは、領都決戦への道を踏み出したのだった。




 村を包んでいた炎と煙はようやく収まりつつあった。

 だが燃え残る木材の匂いの中、領民たちの瞳には確かな光が宿っている。

 絶望ではなく、希望の色――。


「……勝った、のか」

 土に座り込んだ農民兵が、震える声でつぶやいた。

 仲間の肩を借りながら立ち上がる若者もいる。泣き笑いしながら抱き合う母子もいた。


 犠牲は出た。痛みは残った。だが、彼らは生き残った。

 村を守り抜いた――その誇りが、怯えを超える力に変わり始めていた。


 夜更け、炊き出しの煙が立ち上る広場に、自然と人々が集まってきた。

 誰もが疲れ果てていたが、その瞳は熱を帯びている。


「セージ様……いや、旅のお方。俺たちに戦い方を教えてくれ!」

「もう引くつもりはねえ。領都を取り返すんだ!」

「子供たちに、こんな地獄を残したくねえ!」


 次々に声が上がる。

 反乱は、もはや恐る恐るの囁きではなく、村全体の意思となっていた。


 僕は剣を握り、ゆっくりと掲げた。

「ならば、共に進もう。領都を――タブリンスを、取り戻すために」


 その言葉に、村人たちは歓声をあげ、武器を掲げて応えた。

 夜空に響くその叫びが、確かに一つの軍勢の産声となった。


◇◇◇


 数日後。

 僕たちは村で集められた農民兵と共に、密かに領都への進軍を開始した。

 街道は避け、森や川を縫うように進む。敵の斥候をリンカが察知し、ルミナスが焼き払い、セレスが傷を癒す。

 やがて遠くに、黒煙を吐き出す領都の城壁が見えた。


「……あれが、タブリンス領都」

 僕は小さく息を吐き、剣の柄を握り直した。


 父と弟の支配する街。

 僕が追放された場所。

 けれど今は、取り戻すべき仲間と民の未来がある。


 ――必ず、終わらせる。


 胸の奥に決意を刻みながら、僕たちは領都の城門を見据えた。



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