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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
61~70

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消える純白の剣

 湿気と血の匂いが入り混じる暗い石造りの牢獄。

 その奥、鉄格子の中でうずくまる三人の人影があった。


 かつて《純白の剣》として名を馳せた冒険者達――

 リーダーのハーカル、重戦士ベガルト、魔術師シェリル。

 だが今は「リンカを奴隷に売り払った裏切り者」として囚われ、打ちひしがれた姿をさらしていた。


「……チッ、クソが。いつまでこんなとこに閉じ込める気だ」

 ハーカルが苛立ちを隠さず、牢の壁を拳で叩く。


「酒も女もねえ。冗談じゃねえぞ……」

 ベガルトが苛ついた息を吐き、腹を鳴らす。


「……いずれ出られるはずよ。私たちがこんな所で終わるはずがないわ」

 シェリルは淡々と呟きながらも、瞳の奥には焦燥を宿していた。


 それは不可能であった。いや、仮に出られたとしても、彼らに待っているのは地獄の贖罪である。


 それが分かっているからこそ、3人とも既に争う気力も残っていない。


 その時――。


 ――ギィィ……


 重い扉が軋みを上げて開く。現れたのは黒衣の一団だった。

 顔を覆う仮面、手には枷を外すための奇妙な金属器具。

 ただ者ではない。牢番の兵士はすでに倒れており、呻き声だけが遠くから響いてくる。


「あなた、……闇ギルドの」

 シェリルが息を呑む。それはかつて、リンカを売り渡す時にエージェントとして現われた不気味な仮面の男達。


 先頭の男が仮面越しに笑った。

「貴様ら、選ばれた。ここから先は……新しい力を授けてやろう」


「力だと?」

 ハーカルが鼻で笑う。

「俺をこんな所に閉じ込めやがった連中に仕返しできるってのか?」


「もちろんだ。お前の怒りも、欲も、すべて糧となる」


 冷たい声が石牢に響く。次の瞬間、黒衣の一団は三人に枷を嵌め直し、闇の布で顔を覆った。


「おい、どこへ連れて行く気だ!」

「俺はまだ死にたくねえぞ!」

「……ふふ、悪くないわね」


 叫びと笑いが交錯しながら、三人は闇に呑まれるように連れ去られていった。


 ――その夜、王都の地下牢から三人の囚人が忽然と消えたことを知る者は、ほとんどいなかった。

 闇に潜む「尖兵化の儀式」の始まりを告げる鐘の音は、まだ誰にも届いてはいなかった。


 ◇◇◇


 ギルドの酒場は、今日も昼間から冒険者達で賑わっていた。

 新しい迷宮の噂や依頼の取り合い、武勇伝や愚痴が飛び交うその場に、妙に重たい話が持ち込まれる。


「おい、聞いたか?」

「王都の地下牢から、囚人が三人まとめて消えたらしい」


 ざわめきが広がる。隣のテーブルに座っていたリンカの耳がぴくりと動いた。

 僕も自然と耳を傾ける。


「……三人って、誰だ?」

「いや、それが……例の《純白の剣》の3人だとよ」


 その言葉に、空気が一気に冷えた。

 リンカの表情が固まる。


「ハーカル……ベガルト……シェリル……」

 彼女は小さく名をつぶやいた。


 僕は唇を噛む。捕縛され、牢に繋がれていたはずの彼らが、なぜ。


「まさか脱獄……?」


「いや、牢番は全員殺されていたそうだ。おそらく闇の手引きだろう」

 噂を伝えた冒険者が低く言った。


「王都の連中は隠してるが、すぐに街全体に広まるぜ。なんせアイツら、処刑待ちの囚人だったんだからな」


 ルミナスが不安げに僕の袖をつまむ。

「セージ……悪い気配。嫌な予感……する」


 セレスも心配そうに僕を見つめる。

「彼らが、ただの人間のまま解放されたとは思えません。……何か、もっと禍々しい力が関わっているはずですわ」


 リンカは拳を握りしめ、声を震わせた。

「まさか……闇ギルド……」


 その一言に、僕たち全員の視線が交錯する。

 囚人消失の裏に、ベアストリア教団と繋がる闇ギルドの影。

 嫌な予感が、確信へと変わりつつあった。



 ◇◇◇


 木製の大きなテーブルを囲み、僕たちは顔を突き合わせていた。

 さきほど耳にした噂が、胸の奥で重く沈んでいる。


「……まさか、あいつらが牢から消えるなんて」

 僕は低くつぶやく。

 リンカは腕を組み、眉をひそめていた。

「ハーカル達は、もうまともじゃないはず。あれだけの罪を重ねて……。でも、消えたとなると、ただの逃亡じゃない」


 セレスが静かに口を開いた。

「わたくしもそう思います。王都の地下牢は堅牢を誇ります。正面から破ることはまず不可能。……ならば、裏に誰かが手を回したとしか」


 ルミナスがぽつりと言葉を落とす。

「闇の気配……感じる。ギルド……教団、繋がってる、かも」


 その名を口にした瞬間、室内の空気がさらに重くなる。

 ベアストリア教団。民衆には救いを説く大宗教、けれど裏では魔将達が支配する腐敗の温床。

 僕は拳を握りしめた。

「もし本当に教団が裏で動いてるとしたら……ハーカル達は尖兵として利用される可能性が高い」


「尖兵……」


 リンカが苦い顔でつぶやく。


「つまり、洗脳されて、完全に敵として差し向けられるってこと?」

「……ああ。生きているけど、もう人間として戻れない。そんな可能性もある」


 セレスは唇を噛み、両手を胸元で握りしめる。


「わたくしの無力が……また人を苦しめてしまうのですね……」


「セレス、違うよ」


 僕は即座に否定した。


「君が自分を責めることじゃない。悪いのは、彼らを利用しようとする連中だ。僕達の役目は、それを止めることだ」


 リンカも頷く。

「そうよ。セージ君の言うとおり。過去の仲間だからこそ……ちゃんと向き合わなきゃ」


 ルミナスが静かに続ける。

「敵になるなら……倒す。セージと一緒に。リンカも。セレスも」


 セレスは一瞬ためらったが、真っ直ぐ僕を見つめ、小さく頷いた。

「……はい。わたくしも、お二人と共に。どうか、力を尽くさせてください」


 その瞬間、まるで四人の絆が強まるのを感じた。

 かつてリンカを裏切った幼馴染み。

 今度は彼らが、教団の尖兵として僕たちの前に立ちはだかる。


「準備を整えよう。次は必ず……教団の影を暴く」


 ギルドの窓の外には、夕日が赤く街を染めていた。

 決戦の足音が、確実に近づいている。



◇◇◇


 湿った石の匂いと、燻る香の煙が充満する地下空間。

 牢から連れ出されたハーカル、ベガルト、シェリルは、鎖で縛られたまま黒衣の男たちに引きずられてきた。


「……ここは……?」

 目を開けたハーカルの視線の先にあったのは、歪んだ魔法陣。

 血のように赤黒い光が床を脈打ち、異様な鼓動を放っている。


「お前たちは選ばれし者だ」

 フードを深く被った男が、低く響く声で告げる。

「ベアストリア教団の尖兵として、新たな力を得るのだ」


 ベガルトが鎖を振りほどこうと暴れる。

「ふざけんな! 俺は牢から出たいだけで……ッ」

 だが、黒衣の男の合図で現れた呪術師が、額に黒い印を刻みつけた瞬間、ベガルトの体は石像のように硬直した。


「ひっ……!」シェリルが顔を引きつらせる。

「ま、待って……わたしは協力するわ……! あの女の居場所も知ってる……だからっ!」


 黒衣の男は冷笑する。


「必要ない。お前の口から聞くより、尖兵として動く方が確実だ」


 シェリルの悲鳴が響き、魔法陣がより強く赤黒く脈打つ。

 彼女の瞳が、ひとときで濁った漆黒に染まっていった。


 ハーカルは恐怖で青ざめながらも、なお虚勢を張る。

「お、俺は……世界一の剣士になる男だ! こんな場所で……!」


 黒衣の男は嘲るように肩をすくめる。

「ならば望み通りだ。剣と共に在り、剣と共に滅ぶ尖兵となれ」


 次の瞬間、ハーカルの胸に漆黒の魔石が押し込まれる。

 体内で何かが破裂し、黒い靄が全身を駆け巡った。


「……があああああああああッ!」

 絶叫と共に、彼の肉体は光沢のない鎧のように変貌していく。

 もはや人間ではない。闇の尖兵へと堕とされた。


 やがて三人の足枷は外れた。

 だが、代わりに瞳には理性の光はなく、ただ黒い忠誠心だけが宿っていた。


 黒衣の男は満足げに両手を広げる。

「これでよい。お前たちの過去も、悔いも、全ては不要。

 ――ただ教団の命じるままに、敵を屠れ」


 ハーカル達の唇が、同時に不気味な言葉を紡ぐ。

「……命ずるままに……」


 地下祭壇の赤黒い光が、一層深く、禍々しく明滅した。




 禍々しい燭火が揺れる広間。

 玉座のような椅子に腰掛けていたのは、枢機卿服を纏った壮年の男――だがその背後には、燃え盛る幻影のような影が立ち昇っていた。


「目覚めたか、我らが尖兵よ」

 声は低く、重く、冷たさの奥に熱を孕んでいる。


 床に跪くのはハーカル、ベガルト、シェリル。

 もはや瞳は濁りきり、人間だったころの光は消えていた。


「……我らは、教団の剣……」

 三人が同時に呟く。


 枢機卿の口元に薄笑いが浮かぶ。

「良い。お前たちには役割がある。――冒険者の町、ダータルカーン。その地に潜む芽を摘み取れ」


 ベガルトが重々しい声で問う。

「……誰を……斬る」


「セージ。リンカニア。そして彼らに連なる者すべてだ」

 その名が告げられた瞬間、三人の表情は氷のように無機質な殺意に変わった。


「承知……」


 玉座の背後、炎の幻影が揺らめき、赤黒い瞳が覗く。

 ――《烈火の魔将》イグニス。

 彼の低い声が、幻影越しに祭壇へと響いた。


「ふん……人間風情がどこまで抗うか、見ものだな。

 尖兵ども……その命、燃やし尽くせ」


 赤黒い炎が三人の体を舐め、漆黒の鎧がさらに禍々しく変貌する。

 もはや完全に、人間としての面影はなかった。


「命ずるままに……」


 ハーカルが剣を抜き、ベガルトが盾を叩き、シェリルが杖を掲げる。

 そして、禍々しい転移陣が足元に展開した。


「――行け。教団の影として。ベアストリアの名の下に」


 重苦しい轟音と共に、三人の姿は光に呑まれ、ダータルカーンへと送り出された。





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