家族となって
「お、おはようリンカ……」
朝日が差し込み、銀色の髪がキラキラと輝いていた。妻のリンカが微笑んでいる……はずなのに、僕の視線はどうしてもシーツから飛び出したふさふさの尻尾や、プリンと形の良いお尻に引き寄せられてしまう。
「ふふっ、エッチ♡」
ぎくっ。ああもう、なんでバレるんだ!
「ふ、不可抗力だよ!? 魅力的すぎるんだから!」
「んもう……♡ そういう嬉しい言葉で返すの禁止! ドキドキしちゃうじゃない」
甘い空気が漂い、抱き合って、自然にキスしそうになったその瞬間――
「おっほんっ!!」
「「ぎゃあっ!」」
ベッドの上で揃って跳ね上がる僕とリンカ。声の主はもちろん……。
「もうっ! 朝からイチャつきすぎですわ! この浮気現場に第二夫人を混ぜてくださいませ!」
ずかずかとベッドに飛び乗ってきたのはエリス。
そのまま僕に抱きつき、むにゅ~~~~んっと例の柔らかさを押し付けてくる。
「おはようのハグとキスを所望しますわっ♡」
「ちょっ、エリス待って!? 息がっ、息ができない!」
「ふふっ、いいわねぇセージ君。人気者でぇ」
リンカが涼しい顔で観戦している。
「助けてよリンカぁぁぁ!」
「ちゃんと愛してあげないとダメよ」
「無理だって! 数が多すぎるぅ!」
もはや収拾がつかないカオス。昨日まで女性経験ゼロだった僕には、朝から心臓に悪すぎる展開だった……。
◇◇◇
なんとか朝食にありつけた僕たち。だが今度は情報共有の場でエリスが爆弾を投下する。
「純白の剣の残党ども、獄中で毎日仲間割れをしているそうですわ。昨日だけで三回も説教されたとか!」
「えぇ……全然反省してないんだ……」
「余った元気は労働に回せ、ということで、過酷な奴隷労働がお似合いですわねっ♡」
笑顔で物騒なことを言うなこの子は!
「ちなみにグレンは鉱山送りですわ。借金も暴力も全部バレて奴隷堕ち確定。もう二度と戻れませんわ。昔の文献風にいうなら、二度と娑婆の空気は吸えません」
「あはは……強く殴っちゃったのに元気そうでよかったよ」
「ええ。筋肉だけは丈夫らしいですから。鉱山では“そっち方面”でも人気が出るかもしれませんわね」
「そ、そっち方面って何!?」
「知っても幸せになれませんから、知らなくていいのですわ♡」
怖すぎる! 僕は心に固く誓った。絶対に犯罪者にはならない、と。
◇◇◇
「うむ。そうそう、養女の話、受け入れていただきありがとうございます。私を父と呼べ等とは申しませんので――」
トトルムさんは落ち着いた声で言った。
が、その直後、ぶるぶると肩を震わせ、ぐしぐしと目尻をこすり始める。
「……ですが、でーすがぁぁ……! 本音を言えば……わしはずっと……ずっとっ……娘がもう1人欲しかったんじゃあぁぁぁぁぁ!!」
「えええっ!? ト、トトルムさん!?」
突然の爆弾発言に、リンカは耳と尻尾をぴんっと跳ね上げた。
だがその隙を与えず、トトルムさんはずいっと彼女に両手を差し伸べる。
「だから、パパと呼んでくれぇぇぇっ! いや呼んでくださいお願いします! 今日からはパパ上でも父君でも父様でも何でもいい! わしの夢を叶えてくれぇぇぇっ!」
「い、いやいやいやっ! そ、そんな急に言われても! 恥ずかしいし無理ですよぉぉっ!」
「遠慮などいらんっ! 娘よぉぉぉぉっ!」
「だ、誰が娘だぁぁぁっ!」
リンカは顔を真っ赤にして僕に視線を投げる。
「セージ君っ!? こ、これどうすればっ!? 助けてぇぇっ!」
「僕に振られても困るよ!? でも……呼んであげたら落ち着くんじゃないかな!? ここまで来てるんだし!」
リンカがわたわたしている横で、エリスがノリノリで拍手する。
「きゃー♡ いいですわお姉様! せっかくですから、思いっきり甘ったるい声で『パパ♡』って呼んで差し上げて!」
「えぇぇぇ!? な、なんでエリスまでぇぇぇぇっ!」
「お姉様が恥ずかしがるほど、パパはもっと喜びますわ! さぁ、勇気を出してっ!」
「勇気の使い方間違ってるぅぅぅ!」
リンカは尻尾をばたばたさせて必死に抵抗する。
「わ、わたしは冒険者で、妻で、戦う仲間で……そ、その、こ、子供じゃなくて……!」
「いや違う! わしの中ではもう娘なんじゃあぁぁぁっ! この胸に空いた大穴を、お前という存在が埋めてくれるのじゃぁぁぁっ!」
「セージ君!? 何とかしてぇぇぇっ!」
「僕だって混乱してるよ!? でもこのままじゃ家が揺れるくらいの大声で叫び続けるよ、この人!」
観念したリンカは、真っ赤な顔で小さくもじもじ。
「……パ、パパ……」
瞬間。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」
トトルムさんは床に膝をつき、両手を天に突き上げて大絶叫した。
「神よぉぉぉぉぉ! わしに娘を授けてくださりありがとうぉぉぉぉっ! この世に生まれてよかったぁぁぁぁっ!」
その声は屋敷の廊下を震わせ、外で庭仕事をしていた使用人たちまでびっくりして顔を上げるほどだった。
「お父様落ち着いてくださいまし。近所迷惑ですわ」
「黙れエリス! 今わしは父としての喜びをかみしめておるのだぁぁぁ!」
リンカは顔を覆って「もう恥ずかしくて死にそう……」と呟き、
僕は僕で「どうしてこんな家族になっちゃったんだろう……」と遠い目をするしかなかった。
◇◇◇
「なぁ、リンカ君……」
「は、はい?」
「そ、その……もう一度パパと呼んでくれんかのぉぉぉっ!」
「またぁぁぁぁっ!? 宴会の冒頭でも言ってましたよねぇぇっ!?」
会場がざわめき、楽団は思わず演奏を止める。
「お父様っ! いい加減にしてくださいまし! さすがに同じ事をこすりすぎですわっ!」
ずかずかと歩み寄るエリス。頬には青筋が浮かび、にっこり笑っているが目だけは全く笑っていない。
さっきはノリノリだったのに、何が腹に据えかねているのだろうか。
「まったくもう♪ 実の娘のわたくしは可愛くないとでも?」
「ひ、ひぃっ!? い、いやいや違うぞエリス! お前も世界一可愛い娘だとも! だがなぁぁっ!」
「だが、なぁ?」
エリスは持っていた扇子をバキバキに折ってしまう。
だけど完全にあっちの世界に入っているトトルムさんには見えていないようだった。
「は、初めて娘になってくれたリンカ君に……『パパ』って呼んでもらいたくてなぁぁぁっ!」
「お父様ぁぁぁっ!」
「セージ君、どうするの!?」
「僕に振らないでぇぇっ! なんで僕の結婚祝いが親子喧嘩に発展してるのさぁぁぁ!」
そんな中、リンカは顔を真っ赤にして尻尾をバタバタ。
「も、もう……なんで私が原因で家族が崩壊しかけてるのぉぉぉ!」
その声にもトトルムはめげない。
「リンカ君! 一度でいい、一度でいいから! 『パパ』と呼んでくれぇぇぇぇっ!」
「お父様ぁぁぁっ! 恥を知ってくださいましっ!」
「エリス、お前は普段から『パパ』と呼んでくれるではないか! だがリンカ君は! まだ呼んでくれてないんだぁぁぁぁぁ!」
「リ、リンカお姉様、私からもお願いしますわ……父の暴走を止められるのはお姉様しかいませんの……!」
「うぅぅ……わ、分かったわよぉぉ……」
場内が静まり返る。
リンカは耳まで真っ赤に染め、目をぎゅっと閉じると、震える声で――
「……パ、パパ」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ♡♡♡」
トトルムさんはその場で号泣。顔をくしゃくしゃにしながら、鼻水まで垂らして飛び跳ねた。
「うぉぉぉぉぉっ! 夢が! 夢が叶ったぁぁぁぁっ!」
「お父様ぁぁぁぁっ! 公衆の面前で泣き崩れるのやめてくださいましーっ!」
「パパって呼んでくれたんだぁぁぁっ! リンカ君が! ワシのリンカ君がぁぁぁっ!」
「も、もうっ、恥ずかしいから連呼しないでぇぇぇ!」
会場は大爆笑と大喝采に包まれる。
「いいぞー! もう一回言ってやれー!」
「よっ、新米お義父さん!」
「親バカここに極まれり!」
こうして宴会は「リンカ初めてのパパ呼び事件」として、ダータルカーンの歴史に刻まれることとなった――。
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