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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
41~50

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戦いが終わったら……

 ――雷光が奔った。

 瞬きよりも速く、そして轟音と共に光が収束して消えた時、タブリンス家の別邸の半分が影も形もなく吹き飛んでいた。

 石造りの屋敷が跡形もなく蒸発したように崩れ落ち、ただ灼け焦げた瓦礫と土埃だけが辺りを覆っている。


「……はぁ……」

 深く息を吐いた僕は、自分の手のひらを見下ろす。さっきまでそこに宿っていた雷の残滓が、微かに痺れるような余韻として指先に残っていた。


『セージ君、安心して。死亡者ゼロよ。巻き込んだのは建物だけ』

『……ありがとう、リンカ。君がいてくれて助かった』


 脳裏に直接響くリンカの声。

 そう、彼女はほんの刹那の間に、僕の意図を理解して動いてくれたのだ。


 僕が技を放つ瞬間、【☆索敵】で敷地内を精査し、逃げ遅れた者がいないことを確認してくれていた。

 さらに【分析】と僕とのフィーリングリンクが重なり合ったことで、瞬時に状況を把握し、僕が望む結果を導き出してくれたのだ。


『実はね、発案はミレイユさんだったの。セージ君が大技を使うなら、何か手助けできないかって相談してくれたの』

『……ミレイユ。ありがとう。本当に心強い仲間だよ』

『お役に立てたのなら、光栄です』


 心の奥に温かなものが広がる。

 戦闘は、もう僕一人で背負うものじゃない。仲間と共にあってこそ、最大の力を発揮できる。

 その事実を実感できたのは、これ以上ない収穫だった。


 それに、この念話は驚異的な連携手段だ。思考が直接繋がる。戦場において、これほど強力なアドバンテージはない。

 そしてその効果は、僕の心に安らぎすら与えてくれる。


 ――その一方で。


 雷光に照らされた瓦礫の中で、青ざめた顔のマハルが膝をついて震えていた。

 金色の髪は汗と涙で顔に張り付き、剣は震える手から滑り落ちている。


「どうするマハル。まだ続けるか?」


「ば、ば……ばけものぉおおおおおっ!」


 絶叫と共にマハルが尻餅をつき、地面を這うように後退していく。

 彼の足元は濡れ、濃密なアンモニア臭が風に乗って漂ってきた。

 さらに……ズボンの前面が不自然に膨れ、彼自身の情けない状態を雄弁に物語っていた。


 僕は言葉を失った。いや、【☆夜目】で視覚が強化されたせいで、むしろ見たくもないものを細部まで見てしまったと言うべきか。


「……」

 顔を覆いたくなる気持ちを必死に堪えて、淡々と告げる。


「もう一度聞くぞ。マハル、まだ続けるか?」


「ひ、ひぃいいいっ、もうやめろぉおおお!」


 金髪を振り乱し、涙と鼻水を撒き散らしながら、彼は意味もなく転倒し、転んでは立ち上がり、また転んで――。

 やがて四つん這いになり、野犬のように情けなく吠えながら屋敷跡から逃げ去っていった。


「……ぷっ」

 横で見ていたリンカが思わず吹き出した。

「ごめん……笑っちゃダメなのに……セージ君、あんなのが兄弟だなんて気の毒ね」

「もう、どうでもいいよ」

 僕は肩をすくめる。怒りも憎しみも、もはや湧いてこなかった。ただ深い哀れみだけが残っていた。


「セージ様、これよりどうなさいますか?」

 セバスが一歩前に出る。彼の目には迷いも抵抗もなく、完全に従者の色が宿っていた。

 ルミナスの【ドミネイト】が作用している。

 確認したところ、この支配はルミナスが解除しない限り永続。僕の魔素から補給され続けるため、解ける可能性は皆無。


「……この四人のメイドを正式にタブリンス家から解雇する手続きを頼む。名目上でも、彼女たちがあの家に縛られないように」

「畏まりました」


 そうだ。ゴルドール・タブリンスにも釘を刺しておかないと面倒な事になるな。


「それから、マハルの事を報告するときはゴルドール・タブリンスに俺が生きている事は知られないようにな。まあ息子の醜態をもみ消すためにしばらく大変だろうけど」


「かしこまりました。お任せ下さい」


「念のためゴルドール・タブリンスを監視しておけ」


「心得ております」


 セバスは淡々と頭を下げ、そのまま残骸の整理へと向かった。

 彼を背に、僕は仲間たちへ振り返る。


「……さあ、帰ろう。今度こそ、みんなで帰還だ」

「「「「はいっ、セージ様!」」」」


 声を揃えて答えるメイドたちの瞳は、光に満ちていた。


◇◇◇


「お帰りなさいませ、セージ様」

 屋敷へ戻ると、エリスが待ち受けていた。彼女の声音には、どこか安堵が混じっている。

「決着は付いたのですね」

「ああ。マハルは……まあ、しばらく街中を走り回っているさ」


 実際、翌日には目撃情報が王都中に広まった。

 貴族然とした金髪の青年が、涙と鼻水と……言えないほどの汚物を垂れ流しながら絶叫して逃げ回っていたと。

 そしてルミナスは、それをわざわざ映像に収めていたらしい。


 これが父ゴルドール・タブリンスの耳に入るのも、時間の問題だろう。

 僕は「憎しみで戦わない」と誓った。けれど……ほんの少しだけ、胸がすっとしたのは否定できなかった。



 ただ、ちなみに言うとマハルはこの数日後に王都から失踪する事になる。

 セバスの報告によると今日の夜からしばらくして行方を暗まし、いずこかへ消えてしまったらしい。


 生きているならいずれ会うこともあるかもしれない。人に迷惑かけなきゃいいけど。


「セージ君、私……」

 隣に立つリンカが、不安そうに唇を噛む。

 彼女の言葉を遮って、エリスが前に出た。


「ご安心くださいませ。純白の剣の三名、すでに騎士団によって拘束済みです」

「……本当か?」

「当然ですわ。リンカお姉様を辱めた不届き者。断じて許しません!」


 その眼差しには、年相応とは思えぬ決意が宿っていた。

 リンカは一瞬驚き、それから小さく頷く。


「分かった……会わせて。ちゃんと、決着をつけなきゃ」


◇◇◇


 そして訪れた「純白の剣」三人との対峙。

 騎士団の留置所。鉄格子の奥で、ハーカル、ベガルト、シェリルの三人は、かつての威勢を完全に失い、青ざめた顔でこちらを見ていた。


「リ、リンカッ!? おまえ、生きて……」


「た、助けてくれよ! 俺たち仲間だろ!?」


「そ、そうよ! 幼馴染みじゃない! リンカ、助けてっ!」


 必死の形相で叫ぶ三人。だがその声は、哀願というよりも「当然の権利」を求めているかのように響いていた。

 リンカは冷ややかに答える。


「……これが、私と過ごしてきた人たちの正体だったのね……情けないわね。こんな人達と、私は命を懸けて旅をしていたの?」


 エリスが一歩前に出る。


「お姉様、この者達の処遇、いかがいたしますか? お望みとあらばこの場で斬首刑を始める事も可能ですわ」


 その一言に、三人の顔色がさらに悪くなる。


「ま、待てリンカ! 俺は悪くねぇ! 全部ベガルトのせいだ!」


「はぁ!? ふざけんなハーカル! お前が最初にリンカを金に換えようって言ったんだろうが! そもそも最初にこいつに嫌がらせを始めたのはシェリルだろうがっ」


「ちょっと! 二人とも勝手に私を巻き込まないでよ! あんた達がやれって言うから、私は仕方なく……!」


 三人の声が重なり、罵倒が飛び交う。

 互いを責め合い、裏切り合い、縋る相手はもうどこにもいない。

 それは、かつて「仲間」と呼んでいた存在を切り捨てる、最も醜い人間の姿だった。


 リンカは黙ってそれを見つめ、やがて深く吐息をついた。


「……もういいわ。あなた達には失望した。せいぜい、この牢の中で互いを罵り合いながら惨めに過ごしなさい」


「リンカ! 待ってくれ! 俺を見捨てないで!」


「そうよ! 私達幼馴染みでしょ!?」


「頼む! せめて……せめて助けてくれぇ!」


 哀願と悲鳴が鉄格子越しに響く。だが、リンカは一歩も振り返らない。

 その背中は、かつての仲間に別れを告げるには十分すぎるほど冷徹だった。


 やがて僕らは牢を後にした。


◇◇◇


 後から聞いた話だが――

 三人は正式に裁判を待つ身として投獄された。

 牢獄の中で互いを罵り合い、奪い合い、殴り合いながら惨めに日々を過ごしているらしい。

 食事すら分け合えず、深夜には互いの寝首を掻こうとして騎士団に叱責される有様だ。

 だが、まだお沙汰は下っていない。つまり「いつ処刑か、生涯奴隷か、鉱山送りか」が決まるまでは、この惨めな獄中生活を耐えねばならない。

 仲間として過ごした年月など、もはや砂のように崩れ去ってしまった。


 刑の執行を待つ間は、生きた心地がしないだろうな。すぐに処遇を決めなかったのは、ある意味で1番キツい処遇なのかもしれない。


 ――そして僕らは牢を出て、夜の街道を歩く。


「はぁ……終わった。これで本当に……終わったわ」


 リンカは背伸びをして、少し無理に笑みを作る。だが、その声は震えていた。


「リンカ」


「セージ君……」


 僕はそっとリンカを抱き寄せた。最初は驚いたように目を見開いた彼女だったが、やがて力なく僕に身を預け、両腕を回して抱き返してくれた。


「お疲れ様、リンカ」


「……うん。少しだけ……泣いていい?」


「もちろん」


 夜風の中、彼女のすすり泣く声が静かに溶けていった。

 エリスは気を利かせて先に馬車へ戻っている。

 だから今だけは――ただ僕とリンカだけの時間だった。


 僕は彼女の背を、優しく、いつまでもさすり続けるのだった。



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