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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
31~40

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闇オークション、始まる

【sideリンカ】


「ん……こ、ここは……?」


「目が覚めたか、説教女」


「ハ、ハーカルっ……! いった……。これは……」


 意識が覚醒すると同時に、背中から冷たい鉄の感触が伝わった。後ろ手に鎖で繋がれ、粗末な石牢の壁に押し付けられている。

 暗い部屋の中、灯りは乏しい。だが獣人族の夜目がすぐに働き、次第に視界が開けてくる。


 目の前に現れたのは、いやらしい笑みを浮かべ、わざと顔を近づけてくる男――ハーカル。思わず平手を飛ばそうとして、動けない自分を思い出す。


「くっ……。あなた、どこまで恥さらしになれば気が済むのよ」


「減らず口をたたけるのも今のうちだ。喜べ説教女、もうすぐお前は俺達の“資金源”として、貴族様のお手元に納まる」


「な、なんですってっ……⁉ くっ……。これ……やっぱり……!」


 首筋に感じていた違和感の正体がはっきりした。

 ――隷属の首輪。

 私はそれを填められたはずなのに、今は自由に言葉を発している。


「安心しろ。お前と話すために一時的に隷属を解除してやってるだけだ。もうすぐ出荷だからな。最後に挨拶してやろうと思ってよ」


「ま、また私を売るの……?」


「ああ。最初は俺様の奴隷にしてパーティーでこき使ってやるつもりだったが……もっと良い値がついた。お前はこれから王都のオークションにかけられる」


「どこまで……どこまで腐り落ちれば気が済むのよっ!」


「うるせぇっ!」


「――ッ!」


 ドスッ。下腹に鈍い衝撃が走る。思わずうずくまる私を、ハーカルは冷笑で見下ろした。


「おい、大事な商品を傷物にするなよ」


「……分かってるさ、ベガルト。だから顔は殴ってねぇだろ」


「ベガルト……シェリル……」


 牢の中には、かつて共に戦った仲間の姿があった。

 そしてその後ろには――黒い仮面とマントで全身を覆った、不気味な人物が立っている。性別すら分からない。まるで人形のように微動だにしないのに、その場の空気を圧迫する異様さを放っていた。


「……例え傷が残らなくても、値が下がっては困ります。暴力はそのくらいにしていただきましょう」


 仮面の下から響く声は二重に割れて聞こえ、人の声とは思えない。喉を震わせるのではなく、直接頭の奥に響いてくるような……。寒気が背筋を走った。


「チッ……。俺様はなぁ、本当はお前の処女を貰ってやろうと思ってたんだよ。だがな、そうすると値段がガクッと下がるらしい。残念だったな、“初恋”が叶わなくてよ」


「……は? 初恋? 誰が……誰に……?」


 この男、本気で何を言っているの……? まさか、私が自分を好きだとでも勘違いしていたの?


「照れるなって。昔俺を拒んだのも照れてたからだろ? 分かってるさ」


「……は? はぁ? はぁぁ⁉」


 理解不能。言葉を交わしているはずなのに会話が成立しない。背筋に冷たいものが走る。


「バカ言わないで! 私はあなたに異性としての感情なんて、一度も持ったことないっ!」


「分かってるさ。だが心配するな。貴族に飽きられて放り出されたら、俺が買い取ってやる。その時は“ちゃんと使ってやる”よ。安心しろ」


 狂気じみた妄想。会話にならない。こんな人間と、私は仲間だったの……? 思い返すだけで吐き気がした。


「ベガルト、シェリル……。あなた達はそれでいいのっ⁉ こんな道を踏み外して、平気なのっ⁉」


「ははっ、また始まったよ。説教女の十八番が」


「そうよ。そういう“良い子ぶった態度”がずっと気に食わなかったの。何度、娼館に売ってやろうと思ったことか」


「……っ!」


 胸を抉られるような衝撃。仲間だと信じていたのは、私だけだったの……?

 いや……心のどこかで分かっていたはず。それでも「いつか分かってくれる」と耐えてきた。全てが無駄だったのだと悟った瞬間、涙が零れ落ちる。


「もうお別れの時間です。王都へ向かいましょう」


 黒マントの声が牢を支配した。

 首輪の魔術が再び発動する。抵抗する間もなく意識が締めつけられ、叫ぶ。


「いやっ! そんなの嫌っ! ――セージ君っ! セージ君、助けてぇっ!」


 声は虚空に吸い込まれ、誰にも届かない。

 私はただ、心の底から、初めて一人の男性を求めていた。


(セージ君……。会いたい。助けて……。あなたに一度でいい、好きだって……伝えたかった……)


 涙を拭ってくれる人はいない。頬を濡らす雫は冷たく、やがて暗闇に沈んでいった。


【sideセージ】


「王都も……久しぶりに感じるな。待ってろ、リンカ。必ず助ける」


 リンカ救出のため、一か月の準備を積み重ねた。

 できることは、全てやった。――そう、言い聞かせるしかない。


 僕らはエリス嬢の案内で、ミルミハイド商会が所有するトトルムさんの別宅に腰を落ち着けていた。

 王都の闇オークションは表向き「繁華街の一等地」に建つ堂々たるオークションハウス。地下には秘密の特別会員施設があり、そこで“人”が売られるのだという。


「セージ様、お手持ちの魔石はすべて現金に換えてまいりました。ギルドで得た資金と、わたくしの資産を合わせれば……十分に戦えますわ」


「ありがとうございます。本当に……感謝しています、エリスお嬢様」


 ルミナスの新能力で魔石の品質を高め、資金を大量に確保できたのも大きい。アテンさん達の協力もあり、資金調達は順調そのものだった。


 けれど胸の奥では、不安が渦巻いていた。

 ――相手は闇ギルド。簡単に事が運ぶとは限らない。

 準備を尽くしたはずなのに、心のどこかで「何かが足りない」と囁く声が消えない。


「セージ様。何度も申しますが、わたくし達は婚約者同士ですわ。夫たるあなたが、妻を様付けでは示しがつきません」


「ご、ごめん……。え、エリス」


「そうですわ♪ 堂々となさってくださいませ。夫は妻を引っ張るもの。そして妻は三歩下がって支えるのが役目ですわ」


 それって確か古い文献に出てくる更に古い価値観だったような……でも、エリスお嬢様、いや、エリスにはそれが似合っているような気がしてくる。


「……分かった。堂々と、だね。行こう、エリス」


「はいですわ♪」


 心強い仲間がいる。だが僕は――リンカを必ず救い出すと誓った。

 それは“準備万端”だからではない。

 たとえどんな困難があろうとも、彼女を見捨てることだけは絶対にできないからだ。


 大貴族や大商人の邸宅が立ち並ぶ中央街の一角。

 光り輝く繁華街の真ん中で、人知れず闇が口を開く。


 僕たちはオークションハウスへと足を踏み入れた。

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