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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
31~40

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セージが培ってきた絆の力

 トトルムさんはエリスお嬢様を呼び出した。


 彼女とはフィーリングリンクで繋がっている。しかも会っていない間も感情ゲージは上がり続けており、リンカと遜色ない数値になっていた。


 やがて扉がノックされ、トトルムさんが許可を出し……入ってきた瞬間駆け足を始める。


「セージさまぁあ♡ お会いしたかったですわぁあっ♡」


「おおっ……飛びつき」


「おわっとっ! エリス様、淑女がいきなり男性に抱きつくのははしたないですよ」


 や、柔らかい……。僕より年下だけど、その豊かな膨らみがふにょんと潰れて非常に……うーん、大きい。


 あまりに突然のことで固まってしまい、動けなくなる。


 扉が開いた瞬間、真っ直ぐに僕の所へ飛びついてくる女の子。


「だってだってっ、エリスは寂しかったですわ。セージ様ったら中々会いに来て下さらないんですもの」

「す、すみません。冒険者の方に夢中になってしまって……」


「分かっておりますわ。わたくしは理解のある女ですもの。殿方の帰りを待つのが貞淑な妻の勤め」


「い、いや僕らは結婚しているわけじゃないので」


「もちろん、この気持ちはわたくしの片思い。それに、今はそんな事を言っている場合ではございません」


「エリスや、パパへのご挨拶もスルーして男性に飛びつくのははしたないよ」

「あ、お父様、要らしたんですのね」


「パパが呼んだんだよぉ」


 お父様、涙を拭いてください。


「さて、冗談はこのくらいにして、わたくしがここに呼ばれた理由。既に理解しておりますわ」


「こほん。エリス、リンカさん奪還のため、お前の力を」



「ええ、委細承知しておりますわ。リンカお姉様を救い出すため、わたくしも力になりたいと思っています」


「なにか秘策があるのですか? 一体どのような。今は少しでもプラスになるならそれに頼りたい思いです」


 (わら)にもすがる思い、とはこのことだ。


「ええ。具体的には、わたくしを闇オークションに連れて行ってくださいまし」



「ええっ⁉ そ、それは危険ですよ」


「もちろん理解しております。しかし、オークション参加には貴族か、それに類する財力の持ち主でなければ参加資格を得るのは容易ではありませんわ」


「そ、そうか……。参加資格のことまでは考えてなかった」


「確かに参加そのものはできます。しかし財力の証明ができればVIPでの参加が可能になりますわ」


「VIPだと何が違うのでしょうか」


「まずはオークションで特別席に座ることができます。そこでは入札に優先権が与えらえる事になりますから、リンカお姉様を取り戻すために条件を有利にすることができますわ」


「そうか。お金の有無で優先順位が変わるのか」


「ええ。良くも悪くも、この世界は力ある者に有利になるようにできております。だったらそれを利用しない手はありませんわ」


「確かに」



「ですからわたくしと一緒の方がリンカお姉様を助けられる可能性が高くなりますの。お願いします。わたくしにも協力させてくださいまし」


 彼女の決意は本物らしい。これは危険だからと止めるのは失礼に当たるな。


「分かりました。僕が危険から守ってみせます。リンカを取り戻すのに協力してください」


「もちろんですわっ! わたくしにとっても大切なお人ですもの。全力を尽くしますわ。そしてもう一つ、これこそがわたくしの用意した秘策ですわ」


「まだあるのですか」


「ええ、むしろこちらの方が本命。いくらわたくしがミルミハイド商会の跡取り娘とはいっても、今はただの小娘に過ぎません。ですからセージ様」


 ある意味で、彼女の決断力と行動力の凄まじさを思い知る事になる。


「わたくしと、結婚してくださいませ」


「ええっ⁉」


 いきなりの発言に驚くしかなかった。


「ど、どういうことですか。結婚?」


「ええ。あなたに、このミルミハイド商会の長になっていただきます。そうすればこの商会の財産は全てあなたのものになり、リンカお姉様を救う事も容易になるでしょう」


「し、しかし……それは流石に……トトルムさんにもなんて言えば」


「お父様は納得してくださっていますわ」



「はい、私も了承しております」

「そ、そうなんですか」


「用が済んだら離縁すればいいだけ。あくまでお姉様を救い出すまでの暫定処置にすぎませんから」


「ですが、いくらリンカを救うためとはいえ、エリス様の大切な結婚をそんな事のために使わせるわけには参りません」


「セージ様……あなたのそんな所を、わたくしはお慕い申しておりますわ」


「エリス様……」


「このような時に、卑怯な事を申し上げます。わたくしはあなたをお慕いしております。そしてリンカお姉様を、どうしても助けたい思いは同じです。ならば、婚約ならどうでしょうか」


「こ、婚約……でも、それは」


「ええ、婚約という形を取れば、実際に後で結婚しなくても世間体はそれほど悪くなりません。つまりあなたには事実上の跡取りという形でオークションに参加していただくのです」


「……な、なるほど。あなたの立場を利用するようで心苦しいですが」


「違いますわ。わたくしがあなたを利用するのです。セージ様は、これからもっともっと大きな事を成し遂げる御方になるでしょう。そんな将来性バツグンの金のなる木に恩を売っておきたいだけなのです」


「……あ、、あっはは……なるほど……これは一本取られたみたいですね。分かりました。思う存分利用してください。見事リンカを救い出した暁には、ミルミハイド商会に莫大な富をもたらすお手伝いをさせてもらいますよ」


「ええ、わたくしは、あなたに未来を感じました。自分の将来を捧げたいと思うほどに……」


――――――

【エリス LV3】

・感情ゲージ  50/50にアップ(リンク状態LV5にアップ) 


――――――


「こ、これは……以前から感じていた心の繋がりが、いまハッキリと見えました。これがセージ様の力なのですね」


「そうです。実はお会いした翌日には繋がっていたのですが、なんだかんだで言いそびれておりまして」


「ええ、でもなんとなく感じておりましたわ。これでハッキリしました。そう、これで、本当にあなたの力になれる。恩返しをすることができますわっ。セージ様、わたくしはミルミハイド商会の全てを結集してあなたのお役に立って見せます。だから」


「分かりました。リンカの助け出した暁には、あなたの気持ちにちゃんとしたお返事をさせてください。今はそれしか言えません。すみません」


「謝らないでください。わたくし達は一蓮托生。既にわたくしは生きるも死ぬも一緒と覚悟しております」


 頼もしい仲間がまた1人増えた。


 エリス様にルミナス。


 オークション当日まで、僕たちにできる事を目いっぱいやってやる。



◇◇◇



 トトルムさんの協力を得てリンカ奪還のために動き出した僕たち。


 できるだけ高額の報酬がでるクエストを受け、闇オークション開始までに可能な限り多くの資金を集めるのだ。



「話は聞かせてもらったよ、セージ君」

「アテンさん」


 トトルムさんの屋敷を出てギルドに到着したところで、アテンさんを初めとした煉獄の騎士団の面々と再会した。


 どうやら討伐遠征の換金処理を終えた所らしい。


「リンカ君を助けるために巨額の資金が必要になるのだろう? だったらその救出、私達にも手伝わせてほしい」


「え、ええっ」


「拙者達はセージ殿に命を救われたでござる。ならば困っているセージ殿を助けるのは自明の理。闇オークション開催日までに、可能な限り稼いで稼いで稼ぎまくるでござる」


 他の面々も同じ意見らしい。更に、あの場に参加していたアルファチームを始めとした他の冒険者チームも同じように協力を申し出ているとアテンさんは言う。


「皆さん、ありがとうございます! 正直助かります」


「恐らくダータルカーンのギルドだけじゃ資金が足りなくなるだろう。トトルム氏から周辺の全支部にも資金を集めるように通達したそうだ」


「本当ですかっ。助かりますっ」


「期日までに納品した魔石やアイテムの換金に必要な資金が揃うだろう。ここで足りない分は王都の支部で資金を受け取るといい」


「分かりました、ありがとうございます。これから魔の森に向かう予定です。僕たちはダータルカーンの北側を攻めるので、皆さんは東西をお願いします」


「分かった。私達はこれからすぐに出かける。君たちも頑張ってくれ」


「よろしくお願いします」


 頼もしい協力者がまた増えた。本当に嬉しい。


 それからギルド内では一緒に討伐に参加した冒険者チームの人々から称賛と謝辞の嵐を受ける事になった。



「俺達の命は君に救われた。本当にありがとう」

「僕たちもアテンさんから聞いたよ。あの女の子を取り戻すために協力させてほしい」


「皆さん」


 声をかけてくるのは皆一流の冒険者達ばかりだった。


 皆口々に命を救われた事にお礼を言ってくれて、僕は恐縮してばかりだった。


 だけど、こんなにも多くの人達から賛美され、必要とされた事は初めてだった。




(嬉しい……リンカ、君の為にこんなにも協力してくれる人達がいるんだよ)


 感動を禁じ得ない。協力してくれる皆さんの為にも、必ずリンカを奪還しようと決意を新たにした。



「ところでそちらの彼女、あの時の魔族の女じゃないか。どういう事だ?」

「彼女はハーカル達に利用されていた奴隷の女の子です。既に隷属の魔法は解呪されて本来の意思を取り戻しました。違法奴隷なので保護の対象になります」


「なるほど。だが彼女の魔法で私達が死にかけたのも事実。このままお咎め無しとはいかないのでは?」


「はい。ですからトトルムさんにお願いして、ハーカル達の捕縛とリンカ救出に協力するように正規の奴隷契約を結びました」


 つまりルミナスは自ら再び、今度は正規ルートでの奴隷となり、リンカ救出まで決して僕らを裏切れないように自ら契約を申し出た。


 如何に魔法に特化した魔族といえども、自ら受け入れて発動した奴隷魔術は打ち消すことはできない。


 つまり魔術的な縛りにおいてもルミナスは信用する要素は持っているということになる。


「なるほど。その方法なら彼女の無実を証明することができるか」

「はい。彼女は自ら協力を申し出てくれました。既に騎士団には通報済みです。ハーカル達が捕縛されれば本格的に無実の証明になるでしょう」


「ふむ、ハーカル達の悪行は我々冒険者全員が目撃している。罪は免れないだろうな。分かった。そういうことなら彼女の処遇は君に一任しよう。彼女は本当に敵意はないのだな?」


「はい。奴隷契約の際にそのように約束しました。僕は彼女を信じ、何かの際には責任を取るつもりです」


 なにより、彼女とはフィーリングリンクで繋がっている。僕はリンカ救出に協力を申し出た彼女を信じたい。


「なるほど。全ての人間が納得はしないだろうが、私は君を信じる事にしよう。ルミナスと言ったな。本当にリンカ君救出のために動くつもりはあるんだな?」


「ある。言葉は不要。ルミナスは行動で示す」


「なるほど。分かった。私は君を信じたセージ君を信じるとしよう。必ずリンカ君を救ってくれ」


「全力を、尽くす…」


 アテンさんは自分の口からルミナスの件は他の冒険者達に取りなしてくれると申し出てくれた。

 本当にありがたい。


 ともかくルミナスと協力して、少しでも多くの依頼をこなすとしよう。

 


◇◇◇


「ルミナス、魔族。必ず役立つ。その魔結晶、売るより有益になる」


「……分かった。君を信じよう。これはルミナスに預けるよ」


「感謝……必ず、報いてみせる」


 まずは衣服を整えるために服屋へと赴き、彼女の装備一式を整える。




「手始めに一番近い場所から攻めよう。ルミナス、君は本当に戦えるんだな」

「問題無い。まだ本調子じゃないけど、隷属の首輪、もう外れてる。魔石吸収すれば、もっと調子取り戻す」


「そうか。ならこのツインヘッドダークドラゴンの魔結晶も君に譲渡しよう。これで僕を手伝ってほしい」


 本来は売れば相当なお金が手に入るが、高額になるため換金するのに時間がかかる。



 それに、僕は何故だかルミナスという存在に大きな可能性を感じたのだ。


 単純なお金に換えるよりも、遙かに高い価値がある。


 女の子を物の価値に換算することには抵抗があるけど、リンカもきっと同じ事を感じたような気がする。


 そういう直感があったのだ。だからそれに従う事にした。


「よし、早速出かけるとしよう。防具もある程度揃えないと」


「問題ない。魔族、鎧は必要ない。魔力、鎧、同じ。動きやすい方が、いい」


「なるほど。僕は魔族には詳しくないけど、魔法に関して右に出る者はいないって、話には聞いてる。僕は基礎的な魔法以外はほとんど使えないから助かるよ」


 それに、これまでなんだかんだ使う機会のなかった魔法の【ためる】にどんな可能性が秘められているかも期待したいところだ。

 


 既にフィーリングリンクで繋がっているので、彼女も僕のギフトの影響下にある。


 

「ツインヘッドダークドラゴンにヘルガロウム。どっちも最高の、素材。これなら、力、かなり取り戻せる……」


 二つの魔結晶を受け取り、何かを唱え始めるルミナス。


 

 以前に見えていた身体中の紋様は消え去っている。


 手に掲げていた魔結晶が体に取り込まれ、新しい紋様が体に浮かび上がっている。


 彼女はセパレートタイプのおへそを中心に素肌が見える露出の多い服を選んでいた。

 

 なんでも体の紋様が見えている状態でないと魔法を行使できないとか。



 格好はまるで酒場の踊り子が着ているそれであり、彼女の神秘的な美しさと相まって非常に眩しい。


 耐熱効果のあるマントを一緒に購入し、普段はそれを着て隠してもらうことにした。


 いくらなんでも踊り子みたいな格好で外をウロつかせるわけにはいかないからね。


 本人は気にしてないみたいだけど、僕が困る。


 やがて魔結晶を取り込み終えたルミナスは、ふぅ、と息を吐き出して背伸びをする。


「感謝。これで、魔法、使える。新しい技、増えた」


「魔法はどのくらい使えるの?」


「攻撃魔法、一通り使える。回復魔法、ちょっとだけ。身体強化、自分になら沢山。他人には、使った事ない」


「なるほど。新しい技は攻撃に使えそうか?」

「使える。かなり、凄い」


「よし、それなら早速依頼をこなしに行こう。悪いけど今は一分でも時間が惜しい」


「理解。足手まといなら置いていって構わない」

「いや、流石にそこまではしないけどね。早速出発しよう。まずは魔の森の近くにレベルの高い魔物の群生地が発見されたらしい。広い範囲に分布しているから効率よくいこう」


「そう……なら、ルミナス、早速、お役立ち、可能」


 まずはルミナスの実力を見せてもらうため、僕らは急いで魔の森へと向かうのだった。



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