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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
141~150

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沈黙の神殿 ― 祈りの再生 ―

 光が弾け、足元の空間が歪んだ。

 ルミナスの《リ・テレポ》が収束し、空気の密度が変わる。

 瞬きのあと――僕らは、ルインハルド王都の中央広場に立っていた。


「……帰ってきた、か」

 熱の残る空気が肺を満たす。

 湿原の臭気も、血と砂の味もしない。ただ、懐かしい街の風の匂いがした。


 リンカが弓を背負い直し、広場を見回す。

「王都、無事みたいだね。前線で時間かかったけど、被害報告はなさそう」

「うん。転移の座標、ぴったり」

 ルミナスが淡々と呟く。金の瞳が細められ、周囲をなぞるように見渡した。

「空気、きれい。……もう“喰われて”ない」


 セレスが両手を胸の前で組み、深く息を吐いた。

「神の加護が……戻りつつあります。ベロクの“暴食”が途絶えた証です」


 彼女の祈りの指先が、微かに震えている。

 ――それだけ、長い戦いだった。


 王城の塔が見える。金色の旗が揺れ、鐘の音が空を裂いた。

 それは、帰還の合図だった。


「行こう。報告を済ませよう」

 僕が頷くと、リンカが笑った。

「セージ君、また勲章ひとつ増えるね」

「勲章より休息が欲しいかな」

「ふふ、珍しく弱音ですね」

 セレスの柔らかな声が重なり、ルミナスは無言で僕の後ろを歩いた。


 玉座の間には、凛とした空気が漂っていた。

 国王は静かに立ち上がり、僕たちを迎える。


「セージ・タブリンス――またしても国を救ってくれたな」

「任務の完了を報告します。『大食の魔将ベロク』、討伐完了」

 僕は膝をつき、短く言葉を並べる。

 国王の隣には、王国騎士団長、それにギルド長の姿もあった。


「七魔将のうち、すでに六体が滅んだ。もはや貴殿らは伝説の域だ」

「……まだ終わっていません」

 僕は立ち上がり、静かに言う。

「最後の一体――《奈落の魔将》ダゴンが、まだ残っています」


 王の眉がわずかに動く。

「ダゴン……か。名だけは記録に残っておるが、実在するとはな」


「存在していました。

 湿原の奥で“神の鼓動”を守るように鎮座していました。

 奴の背後には、七魔将を生み出した何者か――“創造神”の影が見えます」


 言葉を発した瞬間、広間の空気がぴんと張りつめた。

 誰もがその名を恐れていた。


 沈黙を破ったのは、柔らかな声だった。

「創造神ベアストリア――」

 振り向くと、そこにリシェル=ザハル王女が立っていた。

 白銀の髪が陽に透け、蒼衣の裾が揺れる。

 彼女はすでにこの国に保護されており、静かに祈りを続けていたらしい。


「あなた方の戦いを、ずっと聞いていました。

 ……ザハルの民は、もう神の沈黙に怯えることはありません」

「リシェル王女……」

 セレスが一歩進み、胸の前で手を組む。

 二人の祈りが、静かに共鳴した。


 リシェルは微笑む。けれど、その瞳の奥は痛みを宿していた。

「でも――私はまだ、神の沈黙の理由を知らなければなりません。

 あの災厄も、七魔将も、神が生み出したのなら……私たちは何を信じればいいのか」


 彼女の言葉に、広間が凍りつく。

 けれどセレスは、まっすぐにその瞳を見返した。

「祈りを捨てないこと。それが、信じるということです」

 その声は、炎のように優しく、強かった。


 リシェルはわずかに目を伏せ、静かに頷いた。

「……セレス様。もしよければ、教えてください。

 “ためる”という祈りの形を。私は、それを見たい」



 セレスは微笑む。

「ええ。――あなたも、きっと“ためられる”方です」

 その一言に、リシェルの頬がほんの少し紅潮した。


 そのとき、扉の向こうで騎士が駆け込む。

「陛下! 西方より急報――“神の瘴気”が再び発生!

 観測班が確認した位置は、旧ザハル領……メルダナの地下域です!」


「……また、あの地か」

 僕は剣の柄に手をやる。

 ルミナスの瞳がわずかに光り、低く呟いた。

「感じる。……“創造神の心臓”、まだ動いてる」


 リンカが口笛を吹いた。

「七魔将を倒してもまだ終わらない、ってわけね。

 セージ君、どうする?」


「行くしかない。

 あの地に“何か”がいる。

 そして、それが終われば――本当にすべてが終わる」


 僕は静かに剣を握り、王へ頭を下げた。

「再び、出撃の許可を」

「……もはや止めはせぬ。行け、英雄よ」


 玉座の間に光が差し込む。

 戦いは終わっていない。

 だが、確かに希望の気配はあった。


 その隣で、リシェル王女が小さく呟いた。

「今度は……私も、祈ります。

 あなた方の光が、神をも照らすように――」


 彼女の祈りが、静かに僕の胸に届いた。

 光が、また一つ“ためられた”気がした。


◇◇◇


 夜の王都は、久しぶりに静かだった。

 戦の喧騒も、鐘の音もない。

 ただ、遠くで大聖堂を修復する職人たちの灯だけが、ゆっくりと瞬いていた。


 僕たちは王城を出て、その光を目指して歩いていた。

 ルミナスが肩を並べて言う。

「……王、よく話を聞く。珍しい」

「戦が終わったからな。誰もが“次”を探してる」

「次、ね。……多分、“終わり”も近い」


 ルミナスの金眼が月光を反射した。

 それはどこか、予感のようでもあり――覚悟のようでもあった。


 セレスとリシェルが少し前を歩いている。


 二人の聖衣が風に揺れ、重なるたびに淡い光が漏れた。

 祈りを失った王女と、祈りを取り戻そうとする聖女。

 並んで歩く姿は、まるで“信仰そのもの”のように見えた。


 大聖堂は、まだ完全には直っていなかった。

 瓦礫の下から引き上げられた聖印、焼け焦げた祭壇。

 それでも、誰かが毎日祈りを捧げていた。

 ――リシェルだった。


「ここが……かつての祈りの中心。

 でも、神はもう応えてくださらなかった」

 彼女の声は静かだった。

「この国も、私も、祈ることを恐れていました。

 “無駄”だと笑われるのが怖くて……」


 セレスが膝をつき、焦げた石畳に指を這わせる。

「……いいえ。祈りは消えていません」

 淡い光が、彼女の指先から滲み出た。

 それは焚き火のように小さく、けれど確かに温かい。


「“ためる”という行為は、祈りそのものなんです。

 失われたものも、届かなかった願いも……

 誰かが“ためて”、次に“放てば”届く」


 セレスの言葉に、リシェルが顔を上げる。

 その目には涙が浮かんでいた。

「……セレス様。

 あなたのその光を、私にも分けてください。

 私も、もう一度……祈りたい」


 セレスは微笑み、そっと頷いた。

「では、一緒に。祈りの形を――正しく“ためましょう”」


 僕は少し離れた位置から二人を見守っていた。

 胸の奥で、静かな高鳴りがあった。

 あのとき――ベロクの暴食を断った瞬間に感じた“祈りの流れ”。

 それが、今また世界の底から湧き上がってくる。


 セレスとリシェルが、同時に目を閉じる。

 光が重なり合い、揺らめきながら昇っていく。


〈祈りストック:上昇〉

〈共鳴率:45%→72%〉

〈想念同期:安定〉


 光の粒が宙に舞い、瓦礫の上に小さな花を咲かせた。

 聖堂の天井が少しだけ輝く。

 失われたステンドグラスの代わりに、祈りが光を描いていた。


 ルミナスがぽつりと呟く。

「……これが、“祈りの回復”」


「そうだ。神が応えないなら、人が光をつなぐ」

「セージ、強くなった。……でも、優しくなった」

 そう言って、ルミナスはそっと笑った。


 光が天に昇りきった瞬間――

 空気が、震えた。


「……セージ様?」

 セレスが振り返る。

 そのとき、僕の視界の端に“それ”が映った。


 大聖堂の壁の奥――古い石碑が、脈動していた。

 まるで心臓の鼓動のように。


「これは……」

 リシェルが顔を青ざめさせる。

「この鼓動、間違いありません……創造神の“心臓”です!」


 瞬間、石碑の中央が裂け、淡い光が噴き出した。

 それは温かく、同時に冷たかった。

 まるで、神の呼吸そのものだ。


〈未知の波動を検出〉

〈識別不能エネルギー:創造神ベアストリア由来〉

〈警告:神格干渉率 上昇中〉


 リンカが弓を構え、ルミナスが詠唱を開始する。

「来る……っ!」


 大聖堂全体が震えた。

 床から、黒い影が湧き出す。

 それは人の形をしていたが、顔がなかった。

 まるで“祈りの亡霊”。


 セレスが祈りを掲げる。

「これは……祈りを奪われた者たちの影!」

「つまり、神の沈黙が生んだ“残響”ってことか」

「はい! 彼らを救うには、祈りを放つしかありません!」


「了解」

 僕は剣を抜き、光をためる。


〈攻撃力ストック:4000/4000〉

〈加速ストック:4000/4000〉

〈祈りストック:8000/8000〉


「――【共鳴祈装ルミナリエ・モード】!」


 光輪が展開し、世界が反転する。


 影たちが苦悶の声を上げ、空間が白に染まる。

 祈りの刃が走り抜け、影を一つ残らず包み込んだ。


 闇が祈りに溶け、消える。

 やがて静寂が戻った。


「……セージ様」

 セレスが駆け寄る。

「いまの光……“神の力”を上書きしました」

「うん。これは神を滅ぼす力じゃない。

 “祈りを取り戻す”力だ」


 リシェルが膝をつき、震える声で呟く。

「これが……本当の祈り……。

 神に与えられるものではなく、人が生み出すもの……」


 彼女の瞳に、確かな光が宿った。

 それは王女としてではなく、一人の祈り人の光だった。


 夜明け前の鐘が鳴る。

 空に淡い橙色の光が滲む。

 僕は剣を収め、空を見上げた。


 神の心臓は、まだ静かに脈を打っている。

 けれど、もう怯えはなかった。

 祈りは届く――その確信だけが、胸の奥に灯っていた。



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