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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
131~140

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胎動 ―― 暴食神核の覚醒 

 風が止んでいた。

 夜明けの光が砂を照らしはじめたというのに、空気が凍りついたように動かない。

 メルダナの砂丘が微かに震えている――まるで、地の底で何かが“息をしている”ように。


「……おかしい」

 リンカが弓を構えた。

 銀の耳がぴくりと動く。

「地面の下、鼓動みたいな波動がある。……セージ君、これ、普通の魔物じゃない」


「祈祷陣の残滓、反応してる」

 セレスが聖印を握りしめる。

 淡い光が、まるで脈を打つように点滅していた。

「祈りが……何かを呼び起こしているようです」


 胸の奥で、嫌な感覚が走った。

 あの“喰う災厄”。


 完全に消えたはずの気配が、また戻ってきている。


「ッ、みんな下がれ!」


 叫ぶより早く、地面が爆ぜた。

 砂柱が天へ突き上がり、光の中から巨大な影が姿を現す。

 咆哮が空を裂いた。


「ガァァハハハハァッ!! 見つけたぞォ、セージィィィィィ!!」


 現れたのは――あの“暴食のベロク”。

 だが、姿が違う。

 肉体の輪郭は黒砂に変わり、腹の裂け目から神聖な光が漏れている。

 その光は“祈り”の輝きに似ていた。


「……どうなってる?」

 僕が呟くと、リンカが目を細める。

 彼女の瞳が淡く輝き、【分析】が発動した。


〈分析開始〉

 対象:暴食のベロク

 観測結果:神位結晶との融合反応を検知。

 新種分類――暴食神核(ベル=ベロク)。

〈解析完了〉


「……セージ君、こいつ、もう“魔将”じゃない」

 リンカが低く告げる。

「神の欠片を喰ってる。体内に“神位結晶”を取り込んで、存在そのものが変質してる」


「神位結晶を……喰った?」

 セレスが息を呑んだ。

「黒砂の教団が祈祷陣に封じていた“神の欠片”――それが、ベロクの腹で目覚めたのです」


「おいおい、そんな高級なもんだったのかよ」

 ベロクが笑う。

 その声は地鳴りのように重く、空間そのものが揺れる。

「腹の中で暴れてやがるぜ……神の味ってやつは、クセが強ぇなァ!」


 背から腕が伸びる。

 四本だったはずの巨腕が、六本に増えていた。

 掌の中心に眼がひとつずつ埋め込まれ、開くたびに光が漏れる。


「分析結果から言うと――あれは“祈り”そのものをエネルギー化してる」

 リンカの声が緊張を帯びる。

「つまり、祈るほど喰われる。普通の魔力戦じゃ太刀打ちできないよ」


「……つまり、“祈り喰い”の神ってことか」

 僕は息を整える。

「もう、災厄でも魔将でもない――“暴食神核《ベル=ベロク》”」


 ベロクが咆哮した。

 砂の大地が波打ち、空が反転する。

「見ろよォ、セージィ! 俺の腹はもう無限だ! この星ごと、腹の中で燃やしてやる!!」


 大気が焼ける。

 砂が浮き上がり、重力が歪む。

 その存在は、もはや“世界そのもの”を喰らう神の顎だった。


「セージ様!」

 セレスの聖印が悲鳴を上げる。

「祈りが……喰われていく! 人々の信仰が、今も吸い上げられています!」



「くそ……」

 僕は剣を抜いた。

 その瞬間、祈りの光が脈を打った。


〈祈りストック:8000/8000〉

〈魔力ストック:4000/4000〉

〈共鳴率:安定〉


 ルミナスが指を鳴らす。

 背に光炎の輪が灯った。

「セージ、今回は逃げない。喰う側を、燃やし尽くす」


「援護は任せて!」

 リンカの弓が輝く。

「喰われる前に、撃ち抜く!」


 僕は頷いた。

 光が集まり、祈りが熱を持つ。

 胸の奥で――確かに聞こえた。

 奪われた祈りを、取り戻して。


 砂が鳴動する。

 暴食神核《ベル=ベロク》が咆哮し、世界を裂いた。

 それは、神と人との“境界”を喰らう声。


「いくぞ――!」

 僕は剣を構える。

 炎と祈りと光が、一つに融けた。

 神を喰らう者と、祈りを放つ者。

 どちらが“正しさ”を残すのか。


 砂の海が反転し、光が弾けた。

 ――暴食神核との最終決戦が、始まった。




 太陽でも炎でもない――“祈り”が燃えている。

 暴食神核《ベル=ベロク》が開いた口は、世界そのものを喰らおうとしていた。

 その咆哮が響くたび、砂が宙へ舞い、空気が震える。


「……全部、飲み込む気かよ」

 吐き出した息が、すぐに熱に呑まれた。

 六本の巨腕が天を覆い、掌の“眼”が一斉にこちらを見据える。

 そこから放たれる光線は、祈りそのものを分解する破壊の奔流。


「セージ君!」

 リンカの声。弓弦の音が走る。


 雷の矢が一条、空を裂いた――だが、その光は巨体の周囲に吸い込まれて消えた。


〈分析更新〉

 対象:暴食神核(ベル=ベロク)

 観測結果:外殻が“祈り吸収層”に変質。あらゆる属性攻撃を祈りごと吸収・同化。

〈解析補足:再生核に“神位因子”を確認。〉


「セージ君、ダメ! 外殻が完全に神位層化してる! 祈りごと吸われる!」

「つまり、今の俺たちの攻撃は“ごちそう”ってわけか」


 吐き捨てるように言い、剣を構えた。

 肌が焼けるような圧に包まれても、体の奥で“光”が脈打っている。

 それは――セレスの祈り、仲間の想い、そして僕の決意。


〈祈りストック:8000/8000〉

〈共鳴率:安定〉

〈想念同期:良好〉


 セレスの声が届いた。

「セージ様! “神位因子”……それは、かつて祈りを創った神々の残滓。 祈りで創られたなら、祈りでしか滅ぼせません!」


「祈りで、祈りを斬る……か」

 胸の奥で、光が強くなった。

 僕の中で、誰かの声が囁く。

 “恐れるな。ためろ。受け止めろ。”


 僕は剣を地に突き立て、深く息を吸った。


「――“ためる”」


〈祈りストック:限界突破 8000/8000 → 16000/16000〉

〈共鳴祈装:完全展開〉


 世界が震える。

 砂が浮き、光がねじれ、音が消える。

 ルミナスの目が見開かれた。

「……セージ、それ、もう“人”のため方じゃない」


「それでも構わない」

 僕は笑う。

「祈りを喰うなら、その何倍も祈ってやる」


 光が爆ぜた。

 六本の巨腕が一斉に振り下ろされる。

 大地が裂け、空が崩れ落ちる。

 その中心で、僕はただ一歩、前へ踏み出した。



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