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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
131~140

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136/150

祈りの真名「ルミナリエ」

 夜明けは、やけに静かだった。

 砂の街の残骸が、朝日に照らされて赤く光る。

 風はまだ熱を運んでいたが、どこか遠くで鳥の声が聞こえた。


「……戻ってきたね」

 リンカが弓を背負いながら息をつく。

 その横で、ルミナスが砂を払って座り込んでいた。

「喉、痛い。空気、まだ喰われてる」

「砂の成分が変わってるんだ。祈祷陣の影響だろう」

 僕は短く答え、地面に手をついた。


 砂の下には、まだ熱が残っている。

 まるで、地下のあの反転陣が今も“息をしている”みたいだった。


「セージ様」

 セレスが小さく呼ぶ。

 彼女の手には、焦げた聖典。


 地下で拾い上げた、黒砂の祈祷書の一部だった。


「この書……“反転祈祷”の原文が残っています」

「読めるのか?」

「ええ。少し崩れていますが、聖語の形跡が。

 ただ……ところどころに、見たことのない単語が混じっていて」


 セレスは指で文字をなぞる。

 黒い線が、光に触れるたびに淡く揺れた。


「“祈りの真名”――ルミナリエ」


「ルミナリエ?」

 リンカが首を傾げる。

「どういう意味?」


「おそらく、“祈りの核”を指す言葉です」

 セレスの声が静かに響く。

「祈りという行為そのものには、発音できない“本質”がある。

 それを古代では、“ルミナリエ”――光の名、と呼んでいたのかもしれません」


「光の……名」

 ルミナスが小さく呟く。

 その声には、どこか懐かしさが混じっていた。


「セレス、それはどう使える?」

 僕が問うと、彼女は聖典を胸に抱いたまま頷いた。


「反転祈祷陣は、“祈り”の形を反転させて呪いに変える仕組みです。

 ならば――“名前”を持つ祈りは、反転できない」


「つまり、“ルミナリエ”を通せば、あの陣の反転効果を上書きできる?」

「はい。ですが、問題があります」

 セレスの表情が曇る。

「ルミナリエは、通常の祈りでは発動できません。

 “人の祈り”と“神の祈り”を繋ぐ媒介が必要です」


「媒介……?」

 リンカが眉をひそめる。

「それってつまり――」


「……セージ様の【ためて・放つ】です」

 セレスがはっきりと答えた。

「祈りを“ため”、想いごと“放つ”。

 それこそが、神に近づく唯一の力です。

 あなたのスキルが、“神の祈り”の形式に一番近い」


 僕は短く息を吐いた。

 たしかに、あの空間で感じた“反転”は、祈りを逆に流していた。

 ならば、“正しい祈り”を放つことで打ち消せる可能性はある。


「セージ君」

 リンカが笑う。

「なんかもう、神様相手でも勝てそうだね」

「勝つんじゃない。正すだけだ」


 僕は空を見上げた。

 夜明けの光が砂を照らし、まだ黒ずんだ街を少しずつ照らしていく。


「……祈りを取り戻す」

 その言葉を、誰に聞かせるでもなく呟いた。


 セレスが微笑む。

「“光の名”――ルミナリエ。

 この祈りを正しく紡げれば、きっと闇を祓えます」


 彼女の指先から、小さな光が零れた。

 それは炎でも魔力でもなく、ただ“祈り”だった。

 淡く、静かに――砂の上で灯る。


 ルミナスがその光を見つめながら言う。

「祈り、溜める。……放つ。

 セージ、あなたのスキル、やっと本当の意味に近づいてる」


 リンカが軽く笑った。

「じゃあ決まり。次は、祈りを“武器”にしてやろう」


 僕は頷いた。

 風が吹き抜け、光が揺れる。

 黒砂の影はまだ遠くに蠢いている。

 だが、今度は――こちらが“光を喰わせる番”だ。



 セレスは聖印を広げ、ルミナスは静かにその光を見つめている。

 リンカは矢を磨きながら、いつでも援護できる位置にいた。


 この夜は、ただの夜じゃない。

 ――祈りを“ためる”という未知の試みを、今ここで行う。


「セージ様」

 セレスが振り向く。

 その顔は、いつもの祈りの時とは違っていた。

 覚悟を宿した聖女の眼。


「これから私が詠唱するのは、“祈りの真名”――ルミナリエ。

 ですが、この言葉は単体では意味を持ちません。

 あなたのスキルを媒介に、“ためる”必要があります」


「……分かった。合わせるよ」


 僕は目を閉じ、呼吸を落とす。

 頭の中に、無数の“光の粒”が浮かび始めた。

 それは、これまでに救った人々の笑顔、仲間の声、そして――失われた命の記憶。


 セレスの声が、静かに響く。


「――ルミナリエ・インヴォーク」


 聖句が空気を震わせる。

 祈りというより、歌に近い。

 けれど、その旋律には確かな“想い”があった。


 胸の奥に、何かが流れ込む。

 それは魔力でも力でもない――“感情”だ。


〈祈りストック:4000/4000〉

〈共鳴率:上昇〉

〈想念同期:安定〉


 心臓の鼓動が、セレスの鼓動と重なる。

 音がひとつに重なり、世界が透き通る。


「セージ様、感じますか?」

「……ああ。

 これは、“祈り”じゃない。

 ……“共鳴”だ」


 僕はゆっくりと目を開く。

 周囲が光に包まれていた。

 光はただの輝きじゃない。ひとつひとつが“人の願い”そのもの。


「祈りは言葉ではなく、心そのものです」

 セレスの声が、風に溶けるように柔らかく響く。

「あなたのスキルが、“ためる”という行為の中で、

 この想いを“形”に変えてくれます」


 ――想いを、ためる。

 それは力を溜めるよりも、ずっと繊細で、危うい行為だった。


 ためるほどに、心が痛む。

 誰かの悲しみや、無念や、祈りが流れ込んでくる。


 だが、逃げなかった。

 僕はそのすべてを、受け止めることを選んだ。


〈祈りストック:限界突破 4000/4000 → 8000/8000〉

〈スキル進化:共鳴祈装ルミナリエ・モード


 世界が震えた。

 焚き火の炎が弾け、風が止まる。

 セレスが目を見開く。


「……成功、です。

 セージ様のスキルが、“想い”を扱えるようになりました」


「これが……ルミナリエの本質か」

 僕は掌を見つめた。

 そこに宿る光は、炎でも雷でもない。

 “願い”そのものだった。


 ルミナスが静かに言う。

「それ、きれい。……でも、重い光」

「そうかもな」

 僕は小さく笑う。

「これは“誰かの祈り”の重みだ。軽いはずがない」


 リンカが弓を掲げる。

「じゃあ――その光で、反転を打ち抜こう」


「……ああ。次は、光を喰う者を、祈りで喰う」


 朝日が昇りはじめる。

 砂の海の向こう、かすかに黒砂の影が揺れた。

 “反転の主”が、次の動きを見せる前兆のように。












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