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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
131~140

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聖女の祈り

 夜風が、焼けた砂を撫でていく。

 肌をかすめるたびに、焦げた匂いが蘇る。

 あの戦いの爪痕は、まだこの地の空気に残っていた。


 私はひとり、砂の上に膝をつく。

 ここは、かつて“祈りの街”と呼ばれた場所。

 メルダナの大聖堂――いまはもう、崩れた礎石の影しかない。

 けれど耳を澄ませば、まだ聞こえる。

 瓦礫の下から、小さな声が。

 泣き声のようで、祈りのようで。


「……あなたたちは、まだここにいるのですね」


 私は指を組み、胸の前で静かに祈りの詞を紡ぐ。

 焼け焦げた聖印を撫で、息を整えた。


 ――あの災厄がすべてを呑み込んだ。

 けれど、希望までは呑み込めなかった。

 それだけは、確かにこの空気が覚えている。


「聖光に帰りし魂よ。還るべき場所へ――」


 言葉が静寂に溶けた瞬間、胸の奥で何かが“触れた”。

 光が、ひと筋。

 砂の上に淡く白い輪が広がり、夜気を震わせた。

 ――これは、いままでにない感覚。


 祈りがただの儀式ではなく、“届いた”という確信。

 その手応えに、私は息を飲んだ。


「セレス、また祈ってるのか」


 穏やかな声が、背後から届いた。

 振り向くと、焚き火の赤に照らされたセージ様が立っていた。

 その瞳は、砂の夜よりも深く、優しい光を宿していた。


「はい。……この地には、まだ声が残っています」

「声?」

「ええ。消えたと思っても、祈りは空に残るんです。

 それが夜空へ還る瞬間を……見たくて」


 セージ様は短く息を吐いた。

 夜風が髪を揺らし、焚き火の影がその頬を照らす。


「……俺たちの戦いって、壊すばかりじゃないんだな」

「ええ。むしろ、戻すための戦いです」


 私は微笑む。

「あなたが斬ったものは、破壊ではありません。

 呪いと汚れを、祈りの光で洗い流している。

 ――私は、そう信じています」


 セージ様の瞳が、少しだけ揺れた。

 焚き火の赤が反射して、わずかに潤んで見える。


「……ありがとう。そう言ってもらえると、少し楽になる」


 その言葉に、胸が熱を帯びた。

 彼はいつも、強さの裏で自分を責めている。

 それでも前を向く。その姿が、私の光だった。


「セージ様」

「うん?」

「どうか――この祈りも、“ためて”ください」


 その瞬間、彼の瞳がわずかに見開かれた。

「祈りを……ためる?」

「はい。あなたの力は、刃だけではありません。

 想いも、願いも、きっと“形”にできるはずです。

 だから……この地に残る声を、無駄にしないでください」


 セージ様はゆっくりと頷いた。

 右手を差し出し、私の祈りの光に触れる。

 そして――その瞬間。


〈祈りストック:4000/4000〉


 見たことのない光の表示が、彼の掌に浮かんだ。

 世界が微かに震え、風が止まり、漂う砂粒が静止する。

 遠くの星々が一瞬だけ明るくなり、夜空に還っていった。


 私は息を呑む。

「セージ様……今のは?」

「わからない。けど――感じた。

 “祈り”が、俺の中に入ってきた」


 彼の声は、どこまでも穏やかだった。

 恐れではなく、受け入れる響き。


「……ありがとう、セレス」

 セージ様が微笑む。

「この祈り、必ず放つよ」


 私は小さく頷き、空を見上げた。

 夜の星々が、いつもより多く瞬いていた。

 あの光のひとつひとつが、還っていった魂なら――

 この祈りは、きっと無駄ではない。


◇◇◇


 夜が、ようやく明けた。

 焼けた砂に差し込む光は、まだ冷たく、遠い。

 セレスが最後の祈りを終えた場所には、淡く残光が漂っていた。

 その光を見つめていると、胸の奥が微かに震えた。


〈祈りストック:4000/4000〉


 ――あの瞬間、確かに感じた。

 セレスの想いが、祈りのかたちで僕の中に届いた。

 力でも魔力でもない。もっと静かで、優しい“流れ”だった。


 試しに、意識をそっと向けてみる。

 魔素ストックのような数字の裏に、熱でも冷たさでもない、淡い脈動がある。

 それが胸の奥で灯のように揺れていた。


「……不思議なもんだな」

 言葉が漏れる。


 これまでも、仲間たちと繋がる感覚は確かにあった。

 けれど“ためる”なんて、戦いのための行為だと思っていた。

 祈りまでためるなんて、そんな発想は一度もなかった。


 風が吹く。砂丘を越えて、白い朝靄が流れていった。

 リンカが弓を背負い、肩越しにこちらを見た。

「セージ君、出発の準備できたよ」

「ありがとう。……どうだった?」

「街の外れまで見てきたけど、生きてる人はいなかった。でも――」

 彼女は少しだけ微笑んだ。

「空気が軽くなってた。きっと、セレスちゃんの祈りが届いたんだね」


 僕は頷く。

 それは、感覚的にわかる。

 祈りの余韻がまだ、この大地を包んでいた。


 ルミナスが焚き火の残りを見下ろしている。

「……燃え、綺麗」

「後で片づけるよ」

「ううん。消え方が、優しい。……祈りみたい」

 その横顔を見て、僕は少し笑った。

 彼女の言葉はいつも唐突で、でも核心を突いている。


「セージ様」

 セレスが近づいてきた。夜明けの光に包まれて、その白衣がほのかに輝いている。

「“あの光”を感じておられるようですね」

「うん。確かに、僕の中にある。……まだ上手く説明できないけど」

「きっと、それが“繋がり”の形。私たちの祈りが、あなたの力になる」


 その言葉に、胸の奥の光がまた揺れた。

 あたたかい。

 戦いで感じる緊張や興奮とはまったく違う、心を満たす静かな熱だった。


「行こう。バルまで一気に抜ける」

 馬の手綱を取ると、砂を踏みしめる音が広がる。

 遠くの地平では、まだ砂嵐の影が蠢いていた。


 僕たちは、祈りを抱えたまま進む。

 それは剣よりも脆く、けれど確かに強い。


〈感応リンク:安定〉

〈祈りストック:維持〉


 背後で風が街の残骸を撫でていった。

 あの風が、誰かの声を運んでいく気がした。


 ――次に出会うのは、喰らうものか、それとも救われぬ者か。

 それを確かめるために、僕はまた剣を握った。

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