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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
121~130

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130/150

報告と再会

 ラミエルとの戦いが終わり、数日が経った。

 燃え尽きた街に残る焦げ跡を背に、僕たちは再び――ダータルカーンへと戻っていた。


 街門をくぐると、懐かしい喧騒が耳に届く。

 鍛冶場の金槌の音、冒険者たちの笑い声、香ばしい屋台の匂い。

 どれも、かつてと同じはずなのに、胸の奥に沁みる温かさが違っていた。


「セージさんっ! 本当に戻ってきたんですね!」

 ギルドの若い受付嬢が駆け寄り、目を潤ませる。

「ラミエルの軍勢が壊滅したって、みんな噂してました!」


 僕は軽く頭を下げて微笑む。

「ええ。……でも、被害は小さくありませんでした」

「……そう、ですか」


 沈む声。だが、その向こうに灯る希望の色は、確かに本物だった。


 リンカが静かに息を吐く。

「この街は無事でよかったよ。あの時は、どうなるかと思った」

 夕陽が銀色の髪を照らし、狐耳が柔らかく揺れる。その横顔に宿るのは、戦いを終えた者の安堵と、次を見据える鋭さだった。


「……匂い、変わってない」

 ルミナスが屋台を見ながら呟く。

「前より少し、甘い」

「それ、焼き菓子のせいだろ」

「ふむ。……なら、あとで買う」

「はいはい、あとでね」


 思わず笑いが漏れた。

 その光景に、セレスがそっと祈るように微笑む。

「平和……ですね。戦の後とは思えないほど」

 彼女の手には、花束。ラミエルとの戦いで散った命への供花だった。


 あの戦いで、救えなかった命もあった。

 でも――守れた命も、確かにある。

 僕は静かに目を閉じ、胸の奥で短く祈った。


◇◇◇


 ギルド本部の執務室。

 重厚な扉を開けると、机の向こうでギルド長グラドが腕を組んでいた。


「戻ったか、セージ。……まずは礼を言う。ラミエルを討った功績、王国全土が耳にしておる」


「ありがとうございます。でも、まだ終わりじゃありません」

 僕は真剣に言葉を返す。

「ラミエルが残した“呪いの血”は、完全には消えていません。各地に、まだ――教団の残滓が蠢いているかもしれません」


「……黒砂の教団、か」

 グラドの声が低く落ちる。

「ベアストリア教団の残党どもが、南方で暗躍しているという報告がある。しかも、奴らの動きに合わせて“街そのものが沈む”という異常が確認されている」

 彼は書類をめくり、眉間に皺を寄せた。

「報告では、遺跡群の近くで教団の痕跡が見つかっているらしい。黒い砂を詰めた壺、古代文字で刻まれた祭壇……。表沙汰にできぬほど、禍々しいものだ」


「沈む……?」

 リンカが耳をぴくりと立てる。

「それって、地震とかじゃなくて?」

「いや、もっと――生きているようなものだ。国境沿いのメルダナが、その第一報を上げてきたきり、沈黙した」


 沈黙が落ちた。

 ルミナスの金眼が細められる。

「……また、喰う奴」

「喰う?」

「ラミエルは血。次は、腹だと思う」

 その言葉に、僕は思わず息を詰める。――直感が、告げていた。


「行くべきだな」

「そう言うと思っていた」

 グラドが頷く。

「王都からも正式な召喚状が届いている。陛下直々の命令だ。国境の向こう――砂の国《ザハル王国》で異変が起きている」


「……砂の国、ザハル」

 セレスが祈るように目を伏せる。

「ベアストリア教団がかつて“神の門”を築こうとした地ですね」

「ああ。教団が最初に異端を宣言された土地だ」


 僕は深く息を吸う。

 闇はまだ続いている。


「分かりました。すぐに王都へ向かいます」

「気をつけろ。……今度の敵は、“呪い”ではなく“災害”そのものかもしれん」


◇◇◇


 夜。

 丘の上の焚き火を囲み、僕たちは黙って空を見上げていた。

 戦の煙が消えた夜空には、星々が澄み渡る。


「……また旅か」

 リンカが呟く。

「そうだな。戦いのない旅ならいいんだけど」

「セージ君がいる限り、平穏な旅なんて、たぶん来ないよ」

 その笑みに、僕も苦笑した。


「……でも、それでも行くんだね」

「ああ。だって――僕らは《奈落の希望》だから」


 風が、焚き火の炎を撫でていった。

 夜の静寂の中で、それはまるで次の戦いを予告する鼓動のように響いた。


◇◇◇


 夜明け。

 王都ルインハルドへ向かう馬車が、朝靄の街道を走っていた。


 ルミナスは窓辺に頬を預け、朝焼けを見つめている。

「……空、赤い。血の匂いがする」

「やめてよ、縁起でもないこと」

「事実」

 リンカが苦笑し、セレスが小さくため息をついた。

「……ふたりとも、静かに。祈りの時間です」


 馬車が石畳に差し掛かると、街の輪郭が見え始めた。

 塔の尖端が光を反射し、空へ突き刺さるように伸びている。

 ――王都ルインハルド。


◇◇◇


 城門前。

 煉獄の騎士団の赤髪の青年が待っていた。


「よく来たな、セージ君」

「アテンさん……!」

「ああ。煉獄の騎士団は王都防衛任務だ。俺たちは中には入らん。君たちに託す」

「はい。僕たちが行きます」


 アテンはうなずき、短く言った。

「国境の先、砂漠の王国ザハル。その国境沿い――交易のメルダナで、“暴食の災い”が確認された」

「暴食……」

 セレスが小さく息を呑む。


「炎でも氷でもない。ただ、すべてを跡形もなく消し去る災厄だ。建物も人も、砂さえも飲み込む。――災害そのものが歩いているかのようだ」


 アテンの声が重く響く。

 僕は拳を握りしめた。


「わかりました。必ず真相を掴んで帰ります」

 その言葉に、彼は微かに笑った。

「頼んだぞ――《奈落の希望》。この国の“黎明”は、お前たちの剣に懸かっている」


◇◇◇


 王都の玉座の間。

 王が静かに立ち上がり、僕たちを見下ろした。


「セージ・タブリンス。汝らの功績、国全土に知れ渡っておる。――だが、新たな脅威が迫っている」


 背後の地図には、赤い印が三つ。

 それは、ザハルとの国境沿いの街の位置。


「三つの都市が、一夜で消えた。建物ごと、命ごと、砂の中に沈んだ」

「……暴食の魔将ベロク」

 セレスの声が震えた。

 かつて神代に記された七魔将の一体――“大食”の異名を持つ災厄。


「確認は取れておらぬ。だが、あの地で動くものがある。……セージ、頼めるか?」

「はい。僕たちが行きます」


 ルミナスが短く呟く。

「……喰う奴なら、焼けばいい」

 リンカが笑う。

「うん、燃やそう。残さずに」


 セレスが小さく祈る。

「どうか、この旅路に光あらんことを……」


 王は静かに頷いた。

「行け。《奈落の希望》。――黎明の英雄たちよ」


◇◇◇


 謁見の間を出て、王城の風を受けながら僕は剣の柄を握った。

 熱を帯びた金属の感触が、次の戦いの予感を伝えてくる。


 リンカが隣で微笑む。

「セージ君。今度の敵は……強そうだね」

「うん。でも、負ける気はしない」

「だよね」


 ルミナスが小さく呟く。

「……腹を空かせた奴なら、満たしてやる」


 セレスが静かに祈りを結ぶ。

「願わくば、その炎が正義のために」


 僕は振り返らず、ただ前を見据えた。

 ――砂の国ザハルへ。

 そこに眠る“暴食の咆哮”を討ち果たすために。









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