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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
121~130

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封印の儀 ― 聖樹に祈りを ―【第5部 完】

 夜が明けきる前、僕たちは街の外れへと歩いていた。

 風は冷たく、空気は澄んでいる。

 昨夜まで血に染まっていた空は、いまや淡い薄桃色に染まり、

 遠くで鳥の声が響いていた。


 目的地は――グランデルの北、丘の上にそびえる“黎明の聖樹”。

 かつてセレスが神託を受けた、清浄なる祈りの地だった。


 その根元には、白い霧のような光が揺れている。

 まるで世界そのものが息をしているかのように、穏やかな鼓動が伝わってきた。


「ここが……ラミエルの欠片を封じる場所なんだな」

 僕が呟くと、セレスが静かに頷いた。


「ええ。黎明の聖樹は、神と人の境を繋ぐ象徴。

 かつて多くの魂を導き、癒してきた“聖なる根源”です。

 彼の祈りの欠片も、ここでなら安らかに眠れるはずです」


 ルミナスがぼそりと呟く。

「眠る……つまり、“終わり”?」


 セレスは優しく微笑んだ。

「いいえ、“始まり”です。

 彼が流した血も涙も、いずれこの聖樹に吸われ、

 新しい生命を生む土へと還る。

 それが、“贖い”という祈りの形なのです」


 ルミナスは少し黙り込み、視線を聖樹へと向けた。

 柔らかな風が吹き、彼女の髪が揺れる。

「……優しすぎる。セレスは、世界にまで優しい」


「ルミナスちゃん」

 セレスは彼女の手をそっと握った。

「貴女も同じですよ。

 自分を責めているだけで、本当は誰よりも人に優しい」


 ルミナスが一瞬だけ目を見開き、

 それから、照れ隠しのように視線を逸らした。

「……うるさい」


 リンカが笑いをこぼす。

「ふふっ。二人とも、ほんと仲良くなったよね」

「ああ、そうだね」


 僕は苦笑しながら、ふと別の思いが浮かんできた。


(そういえば、ルミナスのこんな顔は初めて見る)


 考えてみると、僕はルミナスが魔の森の奥にある魔族の隠れ里から来た、ということしか知らない。


 いや、よくよく思い返してみると、彼女が奴隷として捕まっていた経緯を、僕は一度も聞いたことがなかった。


 なんで里の外にいたのか。どうして奴隷として捕まったのか。


 以前はどんな生活をしていたのか……。


 今までどうして気がつかなかったんだろう。


 僕は、妻であるルミナスの事を何も知らなかった……。


 だけど……。


(なにか、聞いちゃいけないような気がする)


 フィーリングリンクで繋がっているからだろうか、ルミナスのそういう気持ちが伝わってくるような気がするのだ。


 まだその時ではない。


 然るべき時がきたら、彼女は自分から話してくれるような気がする。


(今はそっとしておこう)


 セレスは、ルミナスの何かを感じとったのだろうか。


 それもいずれ分かる時がくるかもな。あとで聞いてみるのもいいだろう。


 フェンネルが後ろから肩をすくめる。

「いやー、こっちも見てると心が洗われるわ~。

 もうちょいギスギスした戦場の方が性に合うけどね」


 ザークさんが大声で笑う。

「がっははは! お前は戦場が恋人だからな!」


「うっさい!」


 そんな軽口が飛び交う中、

 セレスはゆっくりと聖樹の根元に跪いた。

 掌の上には、あの“祈りの欠片”――蒼光の羽。


 彼女の祈りの声が、風に溶けていく。


「――光の御名において、堕ちた魂を受け入れ、再び黎明の中に還しましょう。

 その祈り、いま一つの命となりて、世界を癒す礎とならんことを」


 羽が、ふわりと浮かんだ。

 光の粒となり、ゆっくりと聖樹の幹に吸い込まれていく。

 まるで、帰るべき場所を見つけたかのように。


 やがて聖樹が淡く輝き、枝葉の先から無数の光が降り注いだ。

 街を包み込むような光の雨。

 それを見た誰もが、言葉を失っていた。


 僕も――ただ、息を呑んで見守るしかなかった。


「……綺麗」

 リンカが呟く。

「まるで、世界がやっと息をしたみたい」


 アテンさんが隣で目を細める。

「ラミエルの祈りが、ようやく届いたのだろう。

 この光が消えぬ限り、人は再び歩き出せる」


 セレスは両手を胸に当てたまま、静かに微笑んだ。

「これで……彼も救われました。

 そして、この国もまた、ひとつの罪を赦されたのです」


「罪……?」

 僕が問うと、セレスはゆっくりとこちらを見た。


「はい。神に頼りすぎ、人を見失った罪。

 でも、セージ様。

 貴方がその鎖を断ち切りました。

 “ためて・放つ”は、もはや個の力ではありません。

 仲間の想いを“ため”、希望として“放つ”……

 それは、人の祈りそのものです」


 その言葉が、胸に深く響いた。

 戦いのたびに積み重ねた傷も、今だけは痛まなかった。



(……そうか。俺が放ってきたのは、ただの力じゃなかったんだ)


 ふと、風が吹き抜けた。

 聖樹の枝が揺れ、葉の間から光がこぼれる。

 その光は、まるで微笑むように僕の肩へと降りた。


「ありがとう、ラミエル」

 僕は静かに呟いた。

「お前がいたから、俺たちは“闇の意味”を知れた」


◇◇◇


 やがて儀式が終わり、皆が立ち上がる。

 リンカが弓を背に戻しながら、ふと振り向いた。

「ねぇ、セージ君、

 この聖樹って、タブリンス領にも伝わってたんでしょ?」


「あぁ。昔、母上が“聖樹の葉を見た”って言ってた」

「じゃあ……」

 リンカはにっこりと笑った。

「帰ろっか。

 今度は、あたしたちの手でタブリンスの大地に“黎明”を咲かせよう」


 その言葉に、僕は迷わず頷いた。


「……ああ。帰ろう。今度こそ、本当の意味で」


 風が吹き抜ける。

 聖樹の枝葉がざわめき、まるで祝福するように光を散らした。



~第5部 完~

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