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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
121~130

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128/150

神滅光輪陣 ― 絆の共鳴 ―

 赤い空が裂けた。

 血の雲が渦を巻き、そこから零れ落ちるように黒い羽根が降る。

 一枚、また一枚――それぞれが小さな悲鳴を上げながら地に落ちた。


 堕天したラミエルの姿は、もはや“天使”のそれではなかった。

 六枚の翼は黒く変色し、ところどころが溶けたように崩れ、

 代わりに血の線が空間中を走っている。

 まるで、世界そのものを支配する“血管”のように。


 その中心に立つ彼の瞳は、哀しみと憎悪を等しく湛えていた。


「……これが、神に見放された者の末路か」

 アテンさんが静かに呟いた。

 剣の切っ先が震える――それは恐怖ではなく、怒り。


「ならば、我らが正義を示そう」


「正義、か」

 ラミエルが微笑む。

「それを語るのは、いつも光の側だ。

 ならば問おう――お前たちが“救えなかった者”は、どこへ行く?」


 その言葉に、セレスの肩が震えた。

「……それでも、私は祈ります。

 あなたがどんな過ちを犯そうと――魂は、きっと光に還ると」


 ラミエルが手を伸ばす。

 瞬間、空間が悲鳴を上げる。

 血と光が融合し、巨大な魔法陣が足元に展開された。


 アテンさんの目が見開かれる。

「これは……“降臨陣”!? この世界の理そのものを書き換える気か!」


 地面が赤く染まり、圧力がさらに増す。

 空間が歪むたびに、骨の軋む音が聞こえた。

 まるで大地が苦しんでいるようだった。


「セージ君!」

 アテンさんの声が響く。

「もう温存はできん。君の最終陣、見せてもらおうか!」


 僕は頷いた。

 体の奥で、魔素が唸るようにうねる。

 胸の鼓動と共に、ギフトの力が限界まで膨張していく。


 視界の隅で、仲間たちの姿が見える。

 リンカが弓を構え、矢に光を宿す。

 ルミナスが炎と雷を同時に展開し、詠唱を始める。

 セレスが両手を胸に当て、祈りの言葉を紡いでいた。


(――みんなが信じてくれるなら。俺はもう、迷わない)


 魔素が一気に収束し、世界が静止する。

 その静寂の中で、剣が光を帯びた。


「――【神滅光輪陣】」


 地面に光の輪が走る。

 その輪は瞬く間に空へ広がり、円陣を描く。

 まるで天と地を繋ぐ“輪”のように。


 次の瞬間――世界が反転した。

 光が奔り、空気が震え、空間が軋む。


 放たれた一撃は、ラミエルの全翼を貫いた。

 血と光が入り混じり、爆風が世界を飲み込む。


「馬鹿な……この力、神すらも……!?」

 ラミエルが声を失う。


 その背から光が溢れ、黒い翼が一枚、また一枚と崩れ落ちていった。

 空が裂け、血の雲が散る。


 だが、その中で、ラミエルは微笑んでいた。

「なるほど……“ためて、放つ”か。

 お前たちは、希望をため続けたのだな……」


 その声は穏やかで――どこか、救われたように聞こえた。


 やがて彼の姿は光に包まれ、霧のように消えていった。


◇◇◇


 静寂。

 風が戻り、崩れた大地に陽が差し込む。


「……終わったの?」

 リンカが弓を下ろし、かすれた声で呟く。


 ルミナスが火の粉を指先で消しながら答えた。

「終わり。でも、始まりでもある」


「え?」


 セレスが彼女の言葉を引き取るように続けた。

「堕天した魂は光に還りました。けれど……その断末魔の祈りは、まだ空に残っています」


 アテンさんが剣を納め、静かに頷いた。

「ラミエルの残した“血の連鎖”は、まだ各地に残るだろう。

 我々の戦いは、ここからが本当の始まりだ」


 僕は深く息を吐き、剣を地に突いた。

 仲間たちが集まり、背中に温もりが伝わる。


(……誰かが言ってた。光は闇に試されてこそ輝くって)



「よし」

 僕は笑った。

「次は、残った血翼どもを全部止めに行こう」


 ルミナスが呟く。

「セージ。疲れてる。……でも、笑ってる」

「当たり前だよ。みんなが無事だからな」


 リンカの尻尾がふわりと揺れる。

「ふふっ……じゃあ、まずは勝利の食事会だね!」


「……まったく。お前は本当に変わらないな」

 僕は苦笑しながら、彼女たちの方を見た。


 空に光が広がり、風が街を撫でていく。

 闇は去り、希望が――確かにそこにあった。


 戦いの余韻が、まだ空に残っていた。

 崩壊した祭壇の上には、血の痕跡が淡く光を放ち、やがて霧のように消えていく。

 その光は、まるで祈りの残滓。

 ラミエルが最後に遺した“何か”が、世界へ溶けていくようだった。


「……静かになったね」

 リンカがぽつりと呟く。

 銀の尻尾がゆらりと揺れ、風に溶ける。


「あぁ。あれだけ荒れ狂っていた魔素も、今は穏やかだ」

 僕は剣を地に突き立て、深く息を吐いた。

 肌を刺すほどだった魔力の圧が、嘘のように消えている。


「セージ」

 ルミナスが歩み寄り、僕の隣に立つ。

「空、見て」


 見上げると――血に染まっていた空が、ゆっくりと淡い金色に変わっていく。

 まるで夜明けのように。


「これ……まるで、夜が明けたみたい」

 フェンネルが小さく笑いながら言う。

「皮肉ね。堕天した天使が、最後に夜明けを呼ぶなんて」


 セレスがそっと両手を胸に当てた。

「祈りが届いたのです。

 ラミエルの魂は滅びではなく――“還り”を選びました」




「還り?」

 僕は問い返す。


「ええ。あの最後の光……あれは贖罪の祈りです。

 神に抗った者であっても、悔いを知るならば、魂は再び“黎明”へ導かれる」

 セレスの瞳が静かに光る。

「そして……あの光の一部が、今も残っています」


 そう言って彼女は手を差し出した。

 掌の上には、小さな羽――淡い蒼光を放つ羽片があった。

 それは血に染まることなく、澄み切った輝きを宿していた。


「……ラミエルの残した、“祈りの欠片”です」


「……これが、あのラミエルの……?」

 リンカが目を見開く。


「ええ。憎しみと狂気の果てに、それでもわずかに残った人の心。

 この羽は、完全な闇に堕ちた彼の最後の“光”」


 僕は静かにその羽を受け取った。

 触れた瞬間、わずかに温もりが伝わる。

 冷たくない。

 まるで――誰かが“ありがとう”と告げているような。


(……お前も、誰かを救いたかったんだな)


 胸の奥に、言葉にならない感情が広がる。


「セレス。この羽……どうすればいい?」

「浄化も破壊もできません。けれど――封じて祈ることはできます」

 彼女は一歩前に出て、静かに続けた。

「この“祈りの欠片”を封じ、黎明の聖樹のもとへ奉納しましょう。

 彼がかつて望んだ救いの形を、“人の手”で完成させるために」


 その言葉に、アテンさんが深く頷く。

「それが……人としての償いか。

 神の代わりに、人が人を救う――いい言葉だ」


 ザークさんが腕を組み、大きく笑った。

「がっはは! 戦いは終わっても、仕事は山積みだな!」



 フェンネルが肩をすくめる。

「ま、アンタが片っ端から瓦礫片付けてくれるなら助かるけど?」


「任せとけ! こういう力仕事は俺の専売特許だ!」


 笑い声がこだまする。

 血に染まった路地でさえ、その声が響くと少しだけ優しく見えた。



 その夜。

 僕たちはグランデルの丘に登り、街を見下ろしていた。

 炎の修復灯が並び、人々の影がゆっくりと動いている。

 崩れた街を、自分たちの手で少しずつ直しているのだ。


「みんな……強いな」

 僕の隣でリンカが呟く。

「怖い思いをしたのに、こうしてもう前を向いてる」


「ああ」

 僕は小さく笑う。

「だからこそ、俺たちは戦える。守るべきものが、ここにあるから」


「……セージ」

 ルミナスが風に髪を揺らしながら、短く呟いた。

「その笑い方、好き」


 不意を突かれて、僕は少し照れくさくなった。

「お、おい。急に言うなよ」

「本当。だから――忘れないで」

 ルミナスの指が、僕の胸を軽く突く。

「戦うだけじゃなくて、生きることも、“放つ”の一部」


 その言葉に、僕は一瞬、息を飲んだ。

(……そうか。俺は戦いばかりで、“生きるための放つ”を忘れてた)


「ありがとう、ルミナス」


 空を見上げると、雲の切れ間から星が覗いていた。

 その光は、確かに“黎明”の兆し。

 闇の向こうに、また新しい朝が待っている。






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