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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
121~130

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堕天のラミエル ― 血翼の開戦

 地下の奥底。

 砕け散った呪紋の残滓は、まだ微かに赤い光を放っていた。

 その中心から――低く、重い鼓動が響く。


 “ドクン……ドクン……”

 まるでこの地そのものが、何か巨大な生き物の胎内になったかのようだった。


「……聞こえるか?」

 アテンさんが剣を抜き、暗闇を見据える。

「これは、血の流れる音だ。――呪術の源がまだ生きている」


 ルミナスが眉をひそめる。

「いやな音。……まるで心臓。動いてる」


 フェンネルさんが周囲の空気を分析するように、杖を地面へ突き立てた。


 氷の粒がふわりと舞い、赤い軌跡を描く。

「……やっぱり。魔力が一点に吸い込まれてるわ。中心は、この先――地下のさらに下よ」


「つまり、“巣”があるってことだね」

 リンカが弓を握り直し、矢羽に指をかける。

「ラミエルの……血翼の巣」


 アテンさんが短く頷く。

「全員、準備を整えろ。ここから先は、奴の結界内だ」


◇◇◇


 奥へと進むほど、空気が重く、肌を刺すような冷たさが増していった。

 壁にはびっしりと刻まれた血紋――それらがまるで“血管”のように脈打っている。

 歩くたびに、靴底がべたりと濡れた音を立てた。


「……これはひどい」

 ザークさんが顔をしかめる。

「人間の血でここまで……まさに地獄の工房だな」


「拙者でも鳥肌が立つでござる」

 シズカが額の汗を拭い、軽く息を吐く。

「だが、この恐怖を越えてこそ忍び――違うか、セージ殿」


「そうだな」

 僕は小さく笑い返した。

「恐怖を感じるってことは、まだ“人間”でいられる証拠だ」


 ルミナスが呟く。

「人間……いい言葉。セージが言うと、少しだけ温かい」


 その言葉に、フェンネルがにやりと笑う。


「ふふ、ルミナスが照れてる~。やっぱり仲いいわね、あんたたち」

「照れてない」

「はいはい」


 緊張の中でも、そんなやりとりが少しだけ心を軽くした。

 けれど、次の瞬間――。


 壁全体が、脈打つように揺れた。


「来る!」

 アテンさんの声と同時に、天井が裂け、黒い液体が滝のように流れ落ちた。

 それは血だった。

 無数の羽がそこから溢れ、形を成していく。


 ――“血翼の従者”。


 無数の血の羽を持つ人型の魔物たちが、天井から降り注ぐように出現した。

 その眼は虚ろで、だが確実に“知性”を帯びていた。


「守護部隊か!」

 フェンネルさんが叫び、杖を振り上げる。

「《フロスト・バリア》展開! ルミナス、右側お願い!」

「了解。《ファイア・ランス》」


 氷と炎の二重魔法が、血翼たちの群れを焼き払う。

 吹き荒れる風圧で視界が真っ白になる。


「リンカ、援護射撃!」

「任せて! 【ウィンド・アロー】連射――!」

 矢が風を裂き、次々と血翼を撃ち抜いた。

 翼の破片が宙に散り、赤い光が爆ぜる。


 その隙を縫うように、シズカが地を滑る。

「影走り!」

 残像を残しながら背後の敵を切り裂く。

「うむ、手応えあり!」


 だが、敵の数は減らない。

 天井から次々と再生し、血の流れそのものが“生き物”のように動いている。


「キリがねぇな!」

 ザークさんが盾を構え、地を叩きつける。

「【大地震圧】!」

 衝撃波が走り、血翼たちを一瞬宙に浮かせた。


「今だ、セージ君!」

「――【重ね斬り】!」

 十の斬閃が閃光となって走り、宙を舞う血翼を切り裂く。


 その中央で、アテンさんが剣を振り上げる。

「《煉獄一閃》!」

 紅蓮の炎が一直線に走り、通路ごと焼き払った。


「アテンさん、今のは」

「君の雷光一閃を見て編み出した。私もまだまだ成長している」

「すごい……さすがです!」


 爆発音が止むと、血翼の群れはようやく沈黙した。

 黒い羽が灰となって舞い落ちる。


◇◇◇


 息を整えながら、僕は剣を下ろした。

「……やっと片づいたか」


 しかし、フェンネルの顔はまだ険しい。

「魔力の流れ、止まってない。むしろ、もっと下へ……“吸い込まれてる”」


「つまり――まだ核心がある」

 アテンさんが頷く。

「ここから先が、“巣の心臓部”だ」


 セレスが祈るように手を組む。

「感じます……血と魂が一つに溶け合い、何かを形づくろうとしています」

「降臨の準備だな」

 アテンさんが短く言い切る。


 僕は一歩、前へ進んだ。

 崩れた壁の向こうから、熱と冷気が入り混じった風が吹いてくる。

 血の匂い、焦げた鉄の臭い、そして――何か“神聖な”気配すら混じっていた。


(ラミエル……。お前が、これを作り出したのか)


 ルミナスが隣に立つ。

「セージ。……ここから先、戻れない」

「分かってる。それでも行く」

「なら、ルミナスも行く。セージと一緒に」


 アテンさんが剣を構え、仲間全員を見回す。

「全員、最終陣形。――煉獄と奈落、ここに結束する!」


 その言葉に、誰もが頷いた。

 光と闇の混じる通路を、僕たちは歩き出す。


 その先――血の繭に包まれた巨大な祭壇。

 そこに、天使のような影が佇んでいた。


 赤い翼、銀の鎧、そして――歪んだ微笑。


 血の祭壇の中心。

 そこに立つ存在は、まるで神聖と邪悪が混じり合った彫像のようだった。


 白金の鎧。

 だが、その表面には血脈のように赤黒い紋様が走っている。

 翼は天使のものに似ていながら、羽先は刃のように鋭く、赤く輝いていた。


 “血翼の魔将・ラミエル”。

 闇の底から、静かに瞳を開いた。






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