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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
121~130

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穢れの都グランデル

「な、なんだこれっ」

「どういうこと⁉ グ、グランデルの街がっ」


 ほんの数日前まで、僕たちが拠点にしていた街――グランデル。

 煉獄の騎士団との合同作戦に向け、準備を進めていたはずのその街は、

 わずかの間に、まるで何年も経ったように変わり果てていた。


 街の門をくぐった瞬間、空気が変わったのがわかった。

 風はぬるく、湿っていて、鼻を刺す血のような匂いが漂っている。

 商人の声が響いていた通りは沈黙し、石畳には赤黒い染みが点々と続いていた。


「……まるで、街そのものが息をしていないみたいだね」

 リンカが尻尾をしゅんと垂らし、僕の隣に立つ。

 あの快活な笑みは、今は影もない。


 ほんの数日前、この場所では酒場で笑い声が響き、

 冒険者たちが武器を磨きながら次の依頼を語っていた。

 それを知っている僕らにとって、この光景はあまりにも異様だった。


(……たった数日で、ここまで……)

 胸の奥が冷たくなる。

 呪いとは、これほどまでに早く、人の営みを腐らせるのか。



「セージ様」

 セレスが祈りを込めるように言葉を紡ぐ。

「この街には、神の加護が届いていません。まるで……“時間”さえ、呪いに飲まれています」

「時間を……?」

「はい。流れそのものが歪められている。だから、数日で何年も経ったように見えるのです」


 ――そうか。

 なら、あの不自然な変化も説明がつく。

 呪いは、土地そのものの時を狂わせている。


 アテンさんが前に出て、剣の柄を握りしめた。

「報告通りだな。ここも“血翼の呪陣”に覆われている」

 隣のフェンネルが冷ややかに微笑む。

「嫌な気配ね……空気が腐ってる。まるで、氷を置いても溶けそうな温度」

 シズカは腕を組み、真剣な顔つきで周囲を見渡した。

「拙者の気配探知にも反応があるでござる。地の下、何かが蠢いておる」



 ルミナスが一歩前に出て、目を細めた。

「血の臭い。……多い。たぶん、“媒介”がいる」

「媒介……つまり、人を使った呪陣の核か」

「うん。あちこちにある。ぜんぶ壊さないと、この街、戻らない」


 アテンさんが頷く。

「よし。私たちは北区の大聖堂を調べる。セージ君たちは南区を」

「了解です」

 僕は答え、剣の柄に指を添えた。


◇◇◇


 南区へ向かう途中、風景はさらに異様さを増していった。

 家屋の影には干からびた獣の死骸が転がり、壁には血で描かれた紋章。

 それらが、まるで“見ている”かのように視線を送ってくる。


「セージ君、あれを」

 リンカが指差す先――家の扉に、赤黒い魔法陣が刻まれていた。

「血紋……! まさしく国境沿いで見た呪陣だ」


 扉を押し開けると、重い腐臭が鼻を刺した。

 部屋の中央には、血の壺が鎮座している。


 赤い液体が波打ち、その中で何かが、ゆっくりと動いた。


「……っ!」

 セレスが顔を覆う。

 ルミナスが低く呟いた。

「中に、人間。生きてる。呪い、媒介にされてる」

「助けられるか?」

「今のままじゃ……壺を壊した瞬間、魂ごと崩壊する」


 僕は唇を噛み、剣を握り直した。

 助けたい。でも、このままでは街全体が呑まれる。

 ためらいが胸を締めつける。


「……セージ君」

 リンカの声が、静かに響いた。

「彼らを、これ以上苦しませないで」


 その一言に、迷いが晴れた。



「分かった。セレス」

「はい……ホーリー・リストレーション」


 淡い光が魂を包んでいく。だが、そこにあったのは人の形をした成れの果てだった……。


「……なんてこと……。救えなかった」

 セレスが祈りの手を組む。

「だけど、彼らは、もう苦しまない」

「まだ終わりじゃない。呪いの核は他にもある」


 ルミナスが顔を上げ、南の方角を指した。

「もっと強い気配。……大聖堂。そこが本命」

 僕は頷き、剣を握る。

(ここで止めなければ、この国が……人の未来が喰われる)


 霧の奥で、赤い光が一瞬、笑うように瞬いた。

 まるで、ラミエルそのものが僕らを試しているかのように。


◇◇◇


 僕らはアテンさん達と合流し、ルミナスが気配を感じとった教会の調査をすることにした。


 ルミナスが無造作に指を鳴らした。

「地下。たぶん、教会跡。……前に崩れた、ベアストリア教団の支部」

 彼女の声は淡々としているのに、どこか鋭い。

(やっぱり、あの教団の残滓か……。ゴルドールの時と同じ匂いがする)


 僕らは路地を抜け、崩れた煉瓦塀の奥へと進んだ。

 やがて視界の先に、半ば地中に沈んだ古い教会が現れる。

 ステンドグラスは砕け、祭壇は倒れ、石畳の隙間から黒い蔦が這い出している。


「……ここだ」

 フェンネルさんが杖を掲げると、冷たい風が吹き抜け、床下に微かな魔力の流れが浮かび上がった。

「地下に魔法陣。しかも、複層構造。普通の呪術師には無理よ、これ」


「行くぞ」

 アテンさんの短い号令に、僕たちは一斉に動いた。

 ルミナスが炎の光を灯し、シズカが前方の罠を探る。

 やがて、崩れた礼拝堂の奥にぽっかりと開いた階段が現れた。


◇◇◇


 地下は、まるで別世界だった。

 壁一面に血で描かれた文字と紋様が刻まれ、湿った空気の中で蠢いている。

 生臭い匂いが濃く、足を踏み出すたびに“何か”を踏み潰す感触がする。


「これ……人の骨だ」

 リンカの声が震える。

「ここ、儀式場に使われてたのね……」

 セレスが胸に手を当て、祈りの言葉を紡ぐ。

「罪なき魂に、永遠の安息を……」


 だが、その祈りを遮るように、低い唸り声が響いた。

 闇の中、ゆっくりと形を成していく影――。

 今度のそれは、明らかに“ただの魔物”ではなかった。


 白骨化した体に、黒い脈が走り、無数の眼球が皮膚から覗いている。

 ひとつひとつが、血を吸うようにぎょろりとこちらを見た。


「……ラミエルの使徒級、か」

 アテンさんが低く呟く。

「血翼の軍勢の“番犬”だな。呪陣の核を守っている」


「なるほど……だから気配が途切れなかったのね」

 フェンネルさんが杖を構え、氷の結晶を散らす。

「さっきまでの比じゃないわ。全力で行くわよ、セージちゃん」


「了解です!」

 僕は剣を抜き、仲間たちと息を合わせる。

 胸の奥が熱を帯びる――【フィーリングリンク】発動。


 ルミナスの魔力が流れ込んでくる。

 炎と氷が混ざり合い、剣先が紅白の光に染まった。


「――【雷光一閃】!」

 踏み込みと同時に、剣閃が走る。

 触手の一本を切り裂いた瞬間、ザークさんの盾が横から衝撃を弾き返す。

「セージ、今だッ!」


 フェンネルさんが詠唱を重ねる。

「《フロスト・バリア》重ねるわ! ルミナス、援護!」

「了解。《ノヴァ・インフェルノ》」

 轟音が走り、紅蓮の炎が闇を焼く。

 だが――。


「まだだ、後ろだ!」

 アテンさんの声が飛ぶ。振り返ると、天井の血文字が光り、背後に新たな影が生成されようとしていた。


「増援まで!?」

 リンカが叫び、矢を連射する。【重ね撃ち】の光が飛び、影の生成を一瞬だけ止める。


 セレスが一歩前に出る。

「――《サンクチュアリ・ウォール》!」

 眩い聖光が炸裂し、闇を押し返す。

 その光の中で、セレスの顔に強い意志が宿る。


「この呪い……感じます。これは、“魂を繋ぎ止める鎖”です。

 ――セージ様、私に少し時間を!」


 僕は頷いた。

「任せた、セレス!」


 セレスが再び詠唱を始める。

 《ホーリー・リストレーション》――あの光が再び、闇を包み込む。

 けれど、路地で見たような確かな反応はない。

 光は届いているのに、呪いの奥で“何か”がそれを拒んでいる。


 彼女は震える声で言った。

「……届きません。この呪いは、魂そのものに干渉している……神位の力です!」


 僕は剣を構え直す。

「なら、俺たちで“形”を断つ!」


「了解!」

 アテンさんが前へ出て、僕と肩を並べた。

「ここからは、英雄同士の仕事だ!」


 紅と黒の光がぶつかる。

 影の守護獣が咆哮し、地下の壁が砕ける。

 轟音の中、僕とアテンさんは剣を振り抜いた。


「――【共鳴連斬】!」

 二本の剣が同時に閃光を走らせ、影の核を切り裂く。

 爆ぜるような光が、地下を満たした。


 視界が戻ったとき――

 血の紋様は薄れ、地下に満ちていた呪気が静まり始めていた。


「やったか……?」

 リンカが息をつく。


 アテンさんは剣を納めながら、ゆっくりと首を振った。

「いや……核は崩れたが、まだ残滓がある。向こう側に――本陣がある」


 フェンネルさんが目を細め、青い髪を揺らす。

「向こう側、ね……つまり、次が“本体”」


 セレスが膝をつきながらも微笑んだ。

「セージ様……道は開かれました。どうか、次の闇を断ってください」


「もちろん。――みんな、行こう」


 崩れた祭壇の奥、裂けた床の向こうには、さらに深い闇が口を開けていた。

 その先から吹き上がる風が、血と鉄の匂いを運んでくる。

 ――その奥に、ラミエルがいる。




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