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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
121~130

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121/150

血翼の眷属

 赤黒い霧の中――。

 低く唸るような咆哮が、森全体を震わせた。

 霧を押しのけて現れたのは、翼のような肉の塊を背負った異形。

 顔は人に似ているが、皮膚は赤黒く爛れ、瞳は血のように輝いていた。


「グルゥゥ……アァァァァァッ!!」


 その叫びと共に、周囲の血紋が一斉に輝きを放つ。

 空気が焼け焦げるような臭気を発し、足元の大地までも赤く染まっていった。


「みんな、距離を取れ! これは……呪詛を媒介にした魔物だ!」

 僕は叫び、剣に魔素をためて構える。


「了解!」

 リンカが矢を番え、凛とした声で応じる。

 放たれた《フロスト・アロー》が真っ直ぐに飛ぶ――が、眷属の翼がそれを弾いた。

 氷の欠片が散り、風がうねる。


「硬い……!? 魔物っていうより、装甲付きの怪物みたい」


 ルミナスが手を翳す。

「《フレイム・バースト》」

 爆炎が敵の胴を包むが、霧の膜のような瘴気がそれを吸収してしまう。


「効いてない!?」

「……違う、吸ってる。血の術式、魔力を喰う」


 アテンさんの声が鋭く響いた。

「ならば、物理で押すしかない!」

 剣を振り抜き、眷属の前足を弾き飛ばす。火花が散り、重い衝撃が地面を揺らす。


 だが――すぐに瘴気が再生し、傷口を覆った。


「くそっ、再生まで!?」

「血を媒介にした再生……なるほど、面倒な敵だ」フェンネルが冷や汗を拭う。


 セレスが両手を掲げた。

「《聖障壁》!」

 光の壁が展開され、迫る黒炎を防ぐ。しかし、壁の表面が一瞬で赤く染まり、音を立てて軋んだ。


「セージ様、このままでは……っ!」

「わかってる!」


 僕は剣を構え、仲間たちを振り返る。

「全員、連携する! 俺が前を取る!」


「了解!」

 リンカが弓を引き絞り、セレスが祈りの詠唱を続ける。

 ルミナスの魔力が空気を震わせ、アテンさんとザークが左右から挟み込む。


「【ためて・放つ】――!」


 剣が光を帯び、刃先に圧縮された魔素が渦巻く。

 僕は眷属の懐へ踏み込み、渾身の一撃を叩き込んだ。


 轟音。

 閃光。

 爆ぜた衝撃で周囲の木々がなぎ倒される。


「ぐ……っ、まだ、倒れないのか……!?」


 眷属は半身を失ってもなお、地を這い、血の紋様を吸収して再生を始める。


 フェンネルが歯を噛みしめた。

「まずいわね……このままじゃ、倒しても際限がない!」

「撤退だ」

 アテンさんの短い指示が飛ぶ。

「今は情報を持ち帰る。それが最優先だ!」


 僕は仲間たちを見渡し、強く頷いた。

「全員、退け! ――《リ・テレポ》!」


 セレスの詠唱に光の輪が展開し、僕たちはその中に飛び込んだ。

 直後、爆ぜるような音と共に、森全体が赤黒い光に包まれる。


◇◇◇


 光が消えた時、僕らは森の外れ――安全圏にいた。

 誰もが肩で息をし、汗と血に塗れていた。


「……あれが、血翼の眷属……」

 セレスが震える声で呟く。

「人を喰らい、血を糧にしていた。あれが“軍団”なら……」


 僕は拳を握りしめ、歯を食いしばった。

(ヴァルナの時よりも……もっと深い闇が動き始めている)


 夜明け前。

 森を抜けた丘の上に、僕たちは野営を張っていた。

 焚き火の光がかすかに揺れ、戦いの跡を映し出す。


 血翼の眷属――あの赤黒い怪物の影が、まだ脳裏にこびりついて離れない。

 倒しても、倒しても、再生を繰り返す。

 あの異常な回復力と、血を喰らって魔力を奪う性質。

 まるで“災厄そのもの”が形を取って現れたようだった。


 ルミナスが火を見つめながら、低く呟く。

「……血。吸われた魔力、完全には戻らない。少し……欠けてる」

 彼女の指先に灯る小さな火球が、いつもより淡い。

 その言葉が、静かに重く響いた。


 セレスがその傍に膝をつき、治癒の光を放つ。

「《ヒーリングライト》……。ルミナス様、ご無理はなさらないでください」

 柔らかな光が包み込み、焦げた肌が修復されていく。

 それでも、完全な癒しではない。


「血を吸うことで、魔力の循環そのものを壊す……そんな呪術、初めて見ました」

 セレスの声が震える。

「人間がこれに晒されたら……魂そのものが穢れるでしょう」


 僕は拳を握り、静かに息を吐いた。

「……あの呪術は、ヴァルナの時のものとは根本的に違う。あれは秩序を壊す力だ。神聖でも魔でもない――もっと異質な“闇”だ」


 アテンさんが頷き、剣の刃を研ぎながら口を開く。

「私たちも確認した。血紋は国境沿いにいくつも存在していた。……つまり、ラミエルの軍勢はすでに“侵攻ルート”を作っている」


 フェンネルが眉をひそめ、氷の杖で地面に線を引く。

「つまりさ、この森だけじゃなく、王国の外からも“染み出してる”ってことよね?」

「うむ、その通りでござる」シズカが腕を組み、真剣な顔で頷く。

「血を媒介に、土地そのものを穢していく……もしこれが広がれば、王国全体が“生ける呪陣”と化すやもしれぬ」


 焚き火の火がはぜ、火花が宙に散った。

 ザークが重い口を開く。

「……奴ら、最初から戦争を狙ってやがる。こっちが戦う前に、地そのものを呪いに染めてくるってのか」


 その言葉に、リンカが唇を噛んだ。

「だったら、私たちが先に動かないと……。このまま放っておけば、犠牲が出る一方だよ」

 その瞳は真っ直ぐで、恐怖よりも決意の色が濃かった。


 僕はうなずく。

「そうだな。だが、敵の術式を完全に理解するまでは、無闇に突っ込むわけにはいかない。アーリアたちが残してくれた文献――そこに何か手がかりがあるかもしれない」


 セレスが静かに祈りを終え、僕を見上げる。

「セージ様……きっと、これからが本当の戦いです。ですが、私たちはどんな闇にも負けません」

「そうだね。……僕たちは《奈落の希望》だから」


 アテンさんが微笑む。

「いい言葉だ。希望を掲げる者は、どんな奈落にあっても光を見失わない。……ならば我々《煉獄の騎士団》は、その道を共に歩もう」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。

 血と呪いに覆われた夜の中で――

 確かに灯ったその炎だけが、僕らを照らしていた。

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