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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
111~120

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120/150

血呪の真実

 国境沿いの街道をしばらく進むと、ひっそりとした集落が見えてきた。

 森に囲まれた小さな村――しかし、人の気配は薄く、風が抜ける音ばかりが耳に残る。


(……静かすぎる。まるで、息を潜めているみたいだ)


 僕が歩を緩めると、隣を進んでいたアテンさんが短く頷いた。

「慎重にいこう。この辺りは……先日の巡回でも異様な気配があった」


 ルミナスが髪を払い、低く呟く。

「匂い。血と、焦げ。……混じってる」


 彼女の嗅覚が告げる言葉に、背筋が冷たくなる。


 リンカが弓を構え、耳をぴくりと動かした。

「……物陰から、視線を感じる。村人……? それとも」


 セレスが前へ出て、両手を組む。

「――安心してください。私たちは敵ではありません」

 柔らかな声が広がると、ようやく民家の影から人影が姿を現した。


 痩せた老人と、その後ろに怯えた子供たち。


 その顔は憔悴しきっていて、ただ生き延びることで精一杯だと物語っていた。


「……冒険者様か……?」

 老人の声は震えていた。

「なら、どうかお聞きくだされ。夜ごと……血に染まった魔法陣の光が、森の奥で……」


 僕は胸の奥がざわつくのを感じた。

(やっぱり……煉獄の騎士団が調べていた“血の紋様”。ここでも同じ現象が……)


 アテンさんが真剣な声で老人に問いかける。

「詳しく話していただけますか。形は? 色は?」

「赤黒い光で、まるで血を撒き散らしたような……。そして、そこから――人が、魔に堕ちていったのです……」


 老人の言葉に、場が一瞬凍りついた。


 セレンがそっと目を伏せ、祈るように言葉を紡ぐ。

「やはり……人を魔物に堕とす呪術。これは、七魔将に連なるものです」


 僕は剣の柄を握り、仲間に視線を送った。

「……もう見過ごせない。証言を確かめに、森に入ろう」


 フェンネルが軽く杖を掲げ、青い髪を揺らした。

「了解。セージちゃん、今回は一緒に調べよっか。もし敵が出るなら、派手に凍らせてあげるわ~」


 ザークが重い盾を背負い直し、口角を上げる。

「おうよ! 村人たちの目の前で派手に暴れたら、少しは安心するだろうぜ!」


 シズカは目を細め、真剣に村の周囲を見渡した。

「罠があるかもしれぬ。拙者、先行して索敵いたす」


 彼らの頼もしさに、胸の奥の不安が少しだけ和らぐ。


 それでも、老人の怯えた瞳が脳裏に残り続けていた。


(人を魔に堕とす術……。これ以上、犠牲者を出させはしない)


 僕は深く息を吸い、静かに告げた。

「行こう。――ここからが本番だ」


 村人の証言を頼りに、僕たちは森の奥へと足を踏み入れた。

 昼だというのに、枝葉が陽光を遮り、薄暗さが辺りを覆っている。風の流れも妙に重く、肌にまとわりつくような冷たさがあった。


(……嫌な気配だ。血の匂い……ルミナスが言っていたのは、これか)


 ふと視線をやれば、木々の根元に染みついた赤黒い跡が目に入った。まだ乾ききっておらず、まるで生き物のようにぬめりを帯びている。


「セージ様……」

 セレスが不安げに僕の背を見つめ、胸の前で祈りを結ぶ。

「この瘴気、ただの魔物のものではありません。人の……苦悶と怨嗟が、混じっております」


 アテンさんが険しい表情でうなずき、剣の柄に手を添えた。

「やはりか。ここで何かが行われたのは間違いない……」


 その時だった。


「グルルル……」


 茂みの奥から、黒い影が這い出てきた。

 人間の形をしている――だが、その眼は真っ赤に濁り、腕には硬質な鱗が浮かんでいた。

 村人が言っていた「魔に堕ちた者」。その成れの果てが、いま僕らの前に立ちはだかっていた。


「っ……もう、人じゃない」

 リンカが矢を番え、悲痛な声で呟いた。


 次の瞬間、魔に堕ちた者たちが一斉に飛びかかってきた。


「来るぞ!」

 僕は剣を抜き放ち、最前に躍り出た。

「【重ね斬り】!」


 刃が閃き、迫る敵の身体を幾度も切り裂く。黒い血が飛び散り、木々に焼け付くような臭気を残した。


 背後からはルミナスの声。

「……《オーロラ・ストーム》」

 風と氷が混じり合い、渦巻く嵐となって敵を吹き飛ばす。赤黒い血を纏った躯が、凍結したまま砕け散った。


 フェンネルが負けじと杖を掲げ、声を張り上げる。

「氷結陣――《アイシクル・レイン》!」

 無数の氷柱が降り注ぎ、地面に縫い付けられた魔物たちが悲鳴を上げる。


「がっはは! こいつぁ派手だ!」

 ザークが前に出て、巨大な盾で突進。薙ぎ払うだけで数体がまとめて吹き飛ぶ。


 シズカはその隙を縫うように、影と一体化して敵の背後に回り込んだ。

「――忍法《影走り》!」

 瞬時に斬り裂かれた魔物が、呻き声を残して崩れ落ちる。


 最後に、セレスの祈りが響いた。

「光よ――《聖裁光槍》!」

 純白の槍が一直線に貫き、残った魔物の影を吹き飛ばす。


◇◇◇


 森に再び静寂が訪れた。だが、残されたのは無数の赤黒い魔法陣。地面に焼き付けられたそれは、まだ微かに蠢いているように見えた。


「……これが、人を魔に堕とす術か」

 僕は歯を食いしばり、剣を握り直した。

(絶対に、これ以上広げさせてはならない……!)




 血の紋様が描かれた地面は、まるで呼吸しているかのように脈動していた。

 黒い瘴気がゆらめき、焼け焦げたような匂いが漂う。


(……これは、明らかに意図的に作られたものだ)

 剣の柄を握る手に、自然と力がこもる。


 フェンネルが杖の先で土を軽く叩き、低く呟いた。

「やっぱりね~。魔法陣の線が均一すぎる。自然発生じゃないわ。――術者が、ちゃんと描いてる」


 アテンさんが膝をつき、慎重に地面を観察する。

「血の乾き方……数日は経過しているな。にもかかわらず瘴気が残っている。相当な術者の仕業だ」


 リンカが矢を構えたまま周囲を見回す。

「森の奥にも、同じ気配がいくつかあります。……罠を張るように点在しているみたい」


 セレスが小さく息を呑み、両手を胸に当てた。

「まさか……これ、村人たちを“魔に堕とすため”の儀式だったのでは……?」


 その言葉に、一同の空気が張り詰めた。


 僕は地面に刻まれた文字のような模様を指でなぞりながら、低く呟いた。


「魔族語……しかも、かなり古い書式だ。これは、僕たちが戦ったヴァルナの魔法陣と酷似してる」


「じゃあ、七魔将の手の者か?」

 ザークが眉をひそめ、拳を鳴らした。


 ルミナスが髪を揺らしながら近づいてくる。

「……違う。匂い、ヴァルナのときと……違う。もっと、濃い。もっと、深い」


「深い?」と僕が問い返すと、彼女は少し首を傾げて続けた。

「うまく言えない。……けど、これは“血の呪い”そのもの。魔族の中でも、血を喰らい、力を得る系統」


 その言葉に、フェンネルが目を見開く。

「血を媒介にした呪術……! まさか、封印されたはずの“血翼の軍団”の流派?」


 アテンさんが険しい顔になる。

「……ラミエル。かつての“血翼”を統べた将。まさか、奴の影が――」


 その名を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。

(ラミエル……ヴァルナを超える存在。もしそいつが動いているなら……これは前触れにすぎない)


 沈黙の中、セレンが静かに手を掲げ、祈りを捧げた。

「神の御心に背く者たち……血を汚し、命を弄ぶ者たちよ。必ず、裁きが下ります」


 その瞬間、血の紋様がぼうっと光り出した。

「……っ、反応した!?」


 ルミナスが即座に叫ぶ。

「罠。血、呼応してる!」


「全員、下がれ!」

 僕が叫んだ刹那――地面が爆ぜ、赤黒い霧が噴き出した。


 煙の中から、巨大な影が立ち上がる。

 歪んだ羽を持つ獣のような魔物――。


「……血翼の眷属!」

 アテンさんが剣を抜き放つ。


「戦闘態勢!」

 僕も剣を構え、仲間たちと視線を交わす。


 再び、光と闇が交錯する戦いが始まろうとしていた。









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