煉獄の騎士団との再会
豪奢な謁見の間を辞して、僕らは控えの間に案内された。
そこには――懐かしい顔ぶれが待っていた。
「よぉ、セージ!」
巨人のような大男ザークが、分厚い手を振り上げる。
「がっははは! 無事だったか。噂は聞いてたが、まさか本当に魔将とやり合って生き残るとはな!」
「……セージ君!」
フェンネルがこちらに駆け寄り、青い髪がふわりと揺れた。大きな胸元を隠そうともしないその仕草は、以前と同じおどけた調子だ。
「ほんと、信じらんないくらい強くなっちゃって~。どういうことかしら?」
シズカは腕を組み、じろりと僕を見上げた。
「拙者が聞いた噂、誇張ではなかったというわけでござるな。セージ殿、侮れぬ……」
そして、アテンが一歩進み出る。
「なるほど。顔つきが違う。謙虚さはそのままだが……背負うものが増えたようだな」
赤い髪が光を浴びて炎のように揺れ、その瞳が真っ直ぐに僕を見据えていた。
思わず、僕は背筋を伸ばした。
「……アテンさん。皆さん。お久しぶりです。ご無事で何よりです」
自然と敬語になる。彼らは先輩であり、同じオメガ級の冒険者として敬意を抱かずにはいられない。
「ふふ……セージちゃん、ほんと可愛いなぁ。あたし達にまで敬語なんて~」
フェンネルが茶化すと、ルミナスが横からぼそりと呟いた。
「セージ。いつもより硬い。おかしい」
「い、いや……これは礼儀だから……」
「ふむ、可愛いのは同意でござる」とシズカが混ぜっ返し、場が一気に笑いに包まれた。
だが――セレンが一歩進み出ると、空気が引き締まった。
「……神の導きにより、私たちは再び巡り会えました。ですが、それは同時に、試練が近づいている証でもあります」
白いローブの裾が揺れ、祈りを込めた瞳が僕を見据える。
僕は頷き、仲間たちに視線を配った。
「実は……皆さんに伝えておくべきことがあります」
――ヴァルナとの戦い。
そして、その後アーリアが文献から導き出した「七魔将すべての名」と「掠れた上位存在の痕跡」。
フィーリングリンクを通じて全員が共有していたその情報を、僕は煉獄の騎士団に正しく伝えた。
「なるほど……」
アテンは目を細め、深く頷く。
「七魔将の存在は我々も知っていたが、こうして名と姿が判明したのは初めてだ。ましてや――それ以上の存在、か」
ザークが歯噛みした。
「七魔将だけでも人類の天敵だってのに、その上だと……?」
「そうねぇ……でもセージちゃんがここまでやれるなら、まだ希望はあるんじゃない?」
フェンネルが軽い調子で肩をすくめるが、その声の奥には明らかな緊張がにじんでいた。
僕は剣の柄を握り、しっかりと口にした。
「……どんな敵でも、僕たちは退かない。未来を奪わせはしない」
その言葉に、アテンは静かに微笑む。
「なるほど……その気迫ならば、人々の希望を背負うに足る。セージ――君たちは、私たちと並び立つ存在だ」
その瞬間、胸の奥に熱が広がった。
尊敬する冒険者にそう言われた事実が、僕にとっては何よりの力だった。
控えの間に広がった沈黙を破ったのは、ザークの豪快な笑いだった。
「がっははは! よし、そういうことなら、俺たちも負けてらんねぇな! セージ、お前らがここまで来たんなら、次は一緒に肩を並べて戦おうじゃねぇか!」
その言葉に、胸が熱くなる。
(……肩を並べて、か。僕らが彼らと同じ位置に立つ日が来るなんて……)
ほんの少し前まで、僕は“地味なスキル持ち”として追放された身だった。それが今や、王国最強と呼ばれる冒険者達と並び立つ存在に認められている。心の奥で小さな震えが広がった。
フェンネルが両手をぱんっと叩き、場を明るく切り替える。
「ま、難しい話はここまでにしましょ。久しぶりなんだから、宴でも開いたらどうかしら~? ねぇ、アテン?」
「……ふむ。悪くはないな」
アテンは僅かに笑みを浮かべるが、その瞳の奥には依然として鋭い光が宿っていた。
「だが、今はまだ休息と備えの時だ。セージ、君たちの旅路と成果を詳しく聞かせてもらおう。情報を整理し、次の一手を定めるために」
「承知しました」
自然と背筋が伸びる。敬意と緊張が入り混じりながらも、言葉ははっきりとした。
セレスが一歩前に出て、静かに祈りを込めるように声を重ねた。
「そうですね……この国に再び光を取り戻すためには、互いに知恵を合わせ、力を重ねることが必要です。どうか、神が導き給わんことを」
ルミナスは、壁際に寄りかかったまま小さく呟いた。
「宴……いい。ルミナス、食べる。飲む。寝る」
「……おいおい、今は寝ないでくれよ」
思わず苦笑する。けれど、そんな彼女の飄々とした調子が、張り詰めた空気をふっと和らげてくれた。
仲間と共に座し、先輩達と机を囲む。
そこには、戦いの最中には決して得られない、束の間の安らぎと連帯感があった。
(……だが、この平穏も長くは続かないはずだ。ラミエル、そしてその上に存在する何か。避けられぬ戦いが必ず来る)
そう胸の奥で固く誓ったところで――控えの間の扉が再び開いた。
開かれた扉から入ってきたのは、王宮付きの使者だった。
漆黒の礼装に身を包み、深々と頭を垂れる。
「失礼いたします。――セージ殿、並びに《煉獄の騎士団》の皆様。国王陛下より緊急の伝令を賜っております」
その声音に、僕は思わず息を呑んだ。
(やはり……ただの再会で済むはずがないか)
使者は卓の上に一通の文を置いた。封蝋は王家の紋章。破るまでもなく、ただならぬ内容が記されているのは明らかだった。
「北の国境に近い交易都市にて、不穏な動きが観測されました。血に染まった翼を持つ異形――噂にございます」
部屋の空気が重くなる。
「血の翼……」アテンが眉を寄せ、文を手に取る。「……確証はまだ無いが、七魔将のひとりである可能性は高いな」
フェンネルが珍しく冗談を挟まずに唇を噛んだ。
「最悪の名前が……ついに、ね」
ルミナスは頬杖をつき、ぼそりと呟いた。
「血。翼。いやらしい。ルミナス、嫌い」
「……僕も同感だよ」思わず苦笑しながらも、心の奥は冷えていく。
シズカは真剣な顔で僕を見上げた。
「セージ殿。これは偶然ではござらん。間違いなく、次の試練でござる」
セレンは祈るように胸に手を当てた。
「神は試すのです……人が、絶望を打ち破れるかどうかを」
全員の視線が、自然と僕へと集まった。
僕は一呼吸置いて、剣の柄に手を置く。
「……分かりました。僕たちも向かいます。ラミ――いや、血翼の魔将が相手なら、退くわけにはいかない」
その言葉に、アテンがゆっくりと頷いた。
「ならば我々も同行しよう。……ただし、これは大軍を巻き込む戦いになるだろう。冒険者だけでなく、兵士や市民をも守らねばならない」
重い言葉が胸に落ちる。
(……大規模戦か。今までのように、少数で挑むのとは違う。僕らの覚悟が――試される)
そのとき、使者がさらに一言を告げた。
「陛下は、この任務にあたって《奈落の希望》と《煉獄の騎士団》の共同戦線を命じられました」
広間に沈黙が落ちる。
二つのチームが並び立つ。
その意味と重みを、誰もが理解していた。




