腹が減っては掃除もできぬ、なのでまずは食堂!
「よし、今日の作業は、食堂の再建から始めます」
月の一声で、瓦礫と砂埃にまみれた旧ギルド跡の一角が作業対象に決まった。まともに雨風をしのげる場所は、今のところ皆無。そのためまずは、食堂兼休憩所の確保が最優先となった。
「食堂なら、火が必要だよね。任せてなんだよ」
クロマが胸を張る。まるで自信満々な小学生だが、れっきとした成人であり、火龍に育てられた炎の使い手。
「でも、また焼きすぎて跡形もなくしそうだから、火力は控えめでお願い」
「えー! 手加減って難しいんだよー!」
クロマはしぶしぶ火力を調整しながら、鉄板に残ったススを手で拭う。月はそれを見て内心で(炎のセンスは一級なのに、人間の常識は未就学児以下だな……)と頭を抱えていた。
「お姉ちゃん、屋根の上にいた猫に手伝ってもらったのだ!」
帝がひょっこり屋根瓦の影から顔を出す。
「こっちは、釘が落ちてたらその下に金貨が埋まってたのだー!」
カノンもバケツを逆さにすると、なぜか中から丸太とハンマーが飛び出した。
「……このラッキー体質、むしろ現場に常駐しててほしい」
月は諦めと希望の入り混じった顔で、設計図らしき紙を見下ろした。
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役割分担(暫定)
月:統括・設計・突っ込み・ツッコミ・全部
クロマ:火力担当(建材の加工、簡易調理、たまに爆破)
クロウ(マスター):土地神で外出不可。瓦礫から宝箱探しが趣味
カノン:偶然による建材発見、幸運による素材提供
帝:動物の言葉が通じるらしく、現地猫族との交渉役
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「……ふう、仮設でも屋根と炉があるだけで全然違うね」
完成したばかりの半屋外食堂で、月はようやく腰を下ろす。
「今日は、クロマの焼き魚定食と、カノンの壺スープなのだー」
帝が満面の笑みで配膳に入る。
「って、どこから壺スープ持ってきたの……ていうかスープが壺味ってなに……?」
「月ちゃん、細かいこと気にしすぎだよー」
クロマがご飯をかきこみながら笑った。お子様ランチ用のスプーンで。
「お前は成人だろうが!」
ツッコミが間に合わない。
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そして、その日の午後。
再建初の食堂営業を開始しようとしていたその時。
「ただいま〜って………あれ?……更地?」
聞き慣れない男の声が、風に乗ってやってきた。
月が反射的に立ち上がる――。
第一の来客が、地平の彼方から、足を踏み入れる。