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——4

 ◇


 言葉が空気を震わす——

 静かだが、微睡を一掃する風のように圧が吹き抜ける。

 眠ることを許されなかった目を見開き、振り返るとそこに——


「——スイくんは、緋花ちゃんさんが好きなんだねっ」


 瓦礫と塵を押し退ける真紅。

 風梓雛蜂かずさひなばちが微笑して、袖に隠れた片手で口元を隠すようにして佇んでいた。


「雛っ——⁉︎」

「見てたよ?」


 あ、しまっ——⁉︎


「ずっと両想いだったんだねっ。ずっと昔からの両想いなんだね! やったね。雛、二人のこと応援するっ——けど、あなたがスイくんだったんだねっ。それならっ……雛と何度も会ってるよね?」


 知らないフリをしておけばわからなかったのに——⁉︎


「海で裸見られたりしたもんっ。更衣室に入ってきたの忘れないよ? 絶対忘れてあげない——あなたがいろんな他の女の子といる所も見たよ?」


 地面が五月雨に割れて、破片が空中を飛び交った。


「——スイくんっ……いっしょに死のうっ?」


 ——やっっっぱりなッ、おかしいだろ‼︎⁉︎ 何故そうなる⁉︎ 俺が、はいそうですか。わかりました、死にますねとでも言うと思ってるのか雛は‼︎

 こうなることはわかっていたが(※だから雛に素顔は見せなかった)、こうなった雛蜂は見たくなかった。

 それで次の瞬間だった。

 雛蜂が抜剣し、一歩後退。縮地一閃——無造作に振り抜かれた刀身が余分な破壊を伴わない細い地割れを起こし、飛来した骸骨戦車の残骸を蹴って俺は隠蔽スキルを発動、全身の姿と気配を可能な限り隠す。


「死んで償おうよっ。いっしょに——あれっ、どこ?」


 どこにいったのかなあ‼︎ 発狂——俺には、まだ勝ち筋があった。しかし時間は多くない……それは制限つきの切り札。咲が回収しないままだった、白光する短剣。

 雛蜂の記憶を消すことができれば、今の状況を脱することができる。……スマホで思わず確認すると、解放された第八十層を目指す配信枠が既にあった。

 俺たち以外は層内のマッピングを終えていないから若干の余裕はあるが、


「いた」


 ⁉︎ 反射的に本来の武器である短剣でガードし、衝突した一突きの剣速にその歪曲した刀身が液体様の反応を起こして飛散、全身に被弾してダメージを受けながら、しかし反動とノックバックの凄まじさで追撃を退く——スキルで俺が見えなくなっても、画面の光は見えている!


「かくれんぼかなっ……楽しい。楽しいよスイくんっ。面白い人だねっ、ねっ——当たり前だよねっ。何言ってるのかなっスイくん? スイくんはっ、あははははははっ‼︎ ハハッ! 雛のお婿さんになる人だもんね……っ」


 武器の柄を捨て、それと引き換えに瓦礫の影から再び俺は姿を消せれた。今、レベル自体は俺の方が雛蜂より高い——骸骨戦車を倒したおかげで。しかし能力は狂化補正のせいで比べることすらできない。


「舌から順番に切ってあげるよ? 有無なんて言わせないからっ。最後に大好きって言ってほしいな、明日からはメッセージで送ってね? 大好きっ、大好きって、いっぱい好きなだけ出していいから……通信量で壊れちゃうくらい、好き好きしてくれなきゃ嫌だよ? ——」


 シュゥッ、と刀の先が地面を擦り火花を散らす。すぐ間近を、雛が通り過ぎた。

 違うッ。やはり駄目だ! 一方的に背後を取れる状況は確実に警戒されている。俺のいる場所に当たりをつけているからこそ、声を出させようとしているんだから——


「その手は食わないよ——?」


 ——ピロン♪ 通知音を鳴らしながら、俺はスマホで雛蜂の後ろ姿を撮影し、雛蜂に送った。え? ……と意外そうに雛蜂が俺を振り返る。


「約束したろ⁉︎ 正体を隠してたのは、悪かったッ——でもそれはこうなると思ったからで、実際なったしなー⁉︎ 俺はこのダンジョンをクリアしないといけなくて、それには雛さんの力がいるわけわかる⁉︎ それで……最後まで俺につきあってくれるって、約束したの覚えてるよな!」

「——したっけ⁉︎」


 ——一歩でも理性的な判断を引き出せれば、勝ち。本来雛は誰にでも優しく、可憐な女の子なのだから。

 化物だと思って戦っても、本当にそれは化物なので勝てるわけがない(※もしも雛に勝てるなら、問題はこんな複雑やことにはなってない)。


「したよ?」


 つまり、結局……俺は風梓雛蜂に正体を隠し切ることができなかった。俺が誰かわかってしまった。それが今日、この日の最終的な結果だった——

 なお。雛蜂に言ったような……約束などしていない。近しいことは莉玖が入った風呂屋で言ったが実は全然内容が違う。戦うより狂化のせいで、どうせ覚えていないだろうという可能性に俺は賭けた→勝ち。


 ——だが。


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