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既に一度使われていた——俺は、咲と初めて出会った時死ぬ一歩手前のダメージを直前に食らったことを思い出した。
一気に回復した記憶を、俺は停止したような時間の中で地面(※で俺の武器が刺さって追加攻撃され、死ぬとレベルが半分なので必死に回復して耐えている詠の、地面と全く感触の変わらない胸……——〈彗星の騎士団〉で断トツで最もない墨華よりもっと小さい)に手をついたまま体感した。
「——!」
……思えば、一度会ったきりの緋花が好きになるほど、その出会いを俺は上手く立ち回ったわけで。
お世辞にも陽の気が発されてるとは言えない上、一度きりの大チャンス(※祝福)を大失敗したことに定評のある俺が——できたのか⁇
その時、それほどの立ち回りを——できたのだと思う。何故なら、それが初めてじゃなかったから。
「はッ。淫獣だな——」
……記憶の中で俺は九歳とかそれくらいの歳で、家族で海に行った時のことだった。既にガブリエルとも仲の良かった俺は夜、浜辺を一人で歩いていた時に見た——〈ダンジョン原産の生き物〉の群れに、ふと興味を持ち、『触手がいっぱい。ああ、よく見る奴だな?』、と思って呟いた。
誰かに向かって言ったんじゃなかったし、誰かいるとも思わなかった。けれど……——
「——わっ。本当だ……」
「誰だっ⁉︎」
振り返ると、謎の生物を一体両手いっぱいに抱えた女の子が立っていた。夏っぽいワンピース姿で、気にならないのか、その生物の触手が……スカートをめくり上げられて露わになったおなかや白い足の、肌の表面をぬるぬると這って撫でられている……。
「……そうとしかっ、見えなくなってきちゃった。私っ、かわいいと思って集めてたんだけど」
四季咲との出会いだった——それが。旅行中の数日間、俺たちは夜だけ遊んだけれど、俺は全然上手くできなかった。
……アニメみたいな恋愛をしたいと俺は思っていた。それでこの能力を取った(※それも忘れていた)けれど、そもそも、そう思うようになったのは。
ドラマチックな。つまり要するに俺は、再会したいと思っていたのだ。そして、それが不可能だということを理解していた。その時以来俺はその、名前も知らない女の子とは会えなかったのだから。
……だから緋花とのことがあった時は、自分から名前を忘れようとしたし、一回きりだとわかっていた二度目だったから完璧な立ち回りができた。
「何で——ッ⁉︎」
正気を取り戻し、俺は記憶から出て来ると思わず尋ねた。すると咲は……会って(※子供の時を除けば)初めて、全く演技ではない感じで言った。
「それはっ、だって……思い出の中の女の子でいたくなかったから——ぅぅ……そういうことはっ、聞かないでもわからないとダメなんだからね」
反対側には緋花がいる(拘束状態は、もう間もなく解ける……!)。
「あの夏に会っただけの私のこと、あなたが覚えてるかわからなかったけど……私、あなたに会うたびにドキドキしてたの。なのに、何も伝えられなかったから——変わりたいって思ったの」
「それは俺が思ってたことで⁉︎」
俺が返事をしかけると——意を決したように、咲は俺を見て言った。
「勝手にずっとっ、あなたのことが好きでごめん」
しんとした静かな世界——ピロン♪ と場違いな音で通知が鳴ったのが鮮明に聞こえた。
周囲の瓦礫がまるで俺の、今までの生活が破壊された痕跡だった。
『親愛なるお兄ちゃんへ——』
通知は妹からだった。見ると、本体はスマホを覗きこむように必死で何か入力していて、俺と目が合うと顔を隠そうとした……。
『——こうなったのって多分、うちのせいだと思うぎそ。想像しない方が幸せな未来、思い出さない方がいい思い出って、たくさんあるのぎそな。うちが……うちがっ、全てを破壊してしまっ』
俺は、通知を見ていた——
——
「——え?」
一瞬、その時視界がブレた。
——