——4
今のは本体にも、ダメージが跳ね返っていったみたいだった。
空中で——緋花の白リボンが解けて、思いっきり手を伸ばしてキャッチした時に見た光景が俺は忘れられない。地上に戻ると、緋花はリボンで顔を覆って湯気が出そうなほど真っ赤になっていた。
「——⁉︎」
「……っっ、これ結んでっ」
……結ぶ? 魔法でリボンをきれいにすると、緋花は俺に渡してきた。
「——……え?」
「今はあんたしかあたしのこと見てないんだから、あんたが一番っ、かわいいと思うよぅ……っ〜〜……かわいくしてよねっ」
いやッ、囮か——? 盗賊か、こいつはと思った。いつの間にか俺のスマホを緋花が懸命に弄っていた。
画面を見せてきた。
「はい。優先パス取れちゃったっ。閉園までにあと五個乗れる、かも…………っ」
——
「……認めないといけないッ、俺は本当はずっと前からわかっていたんだ……!」
「え……ふぇ⁉︎」
好きってこと……? スマホで口元を隠しながら裸で目は右往左往させ、やっと絞りだすような声で緋花が言った。俺は言った——
「そうじゃない。おまえの方がッ、俺よりも! 全ての能力が数段上だッッ」
「何で勝負にするのよ⁉︎」
——〈プレプラ〉のせいで逆らえないッ。目安とはいえ好感度が見えてしまうせいで、これ以上下がったらと思うと! それで、それから閉園まで一緒に遊んで、最後に花火を見た。
綺麗だった。
けれど、その頃には能力の影響が最高潮に達していた。
「——〜〜っっ」
パークの桟橋みたいなところで、花火と花火の映る水面を見つめる緋花を後ろから抱きしめそうになった。自分で結んだ髪のとろける甘い香りに我を忘れかける。ドキドキし過ぎて離れたら心臓が止まってしまいそうだった。
緋花の能力が俺に効いてるだけじゃなく、俺の能力も緋花に効いている。それがわかっていたから——ふれてしまいそうになる。
「——花火終わったら、帰るっ? ……それとも」
「‼︎⁉︎ ——をッ!」
後退りしそうになった。体にさわる寸前で正気に戻り、桟橋の縁を掴む。隠蔽できる範囲を出ると緋花は姿が周囲に見られてしまう(※皆、花火を見ているが周囲は相当な人出だった……)。
二つの能力の範囲から決して出られない——それともって⁇
「——やっぱりダメだろこの能力ッ‼︎ 今何してた⁉︎ ……正気を一瞬失ってたけど、これって俺の能力ですよね⁉︎ 今までこんなのをバラまいてたのか俺はッ⁉︎」
「おあいこでしょ。……今はあたしも同じことしてるんだからっ」
「⁉︎ ——」
一瞬、世界が歪曲した。
「〜〜っっ、あたしはっ。ずぅーっと昔からあなたが好きなの! 能力のせいじゃなくてっ——」
何だッ、この感じ……。頭の中で異様な、そこに近づくなと言われたような感じがした。
緋花が俺を真っ直ぐ見る。
「——ああああなただってっ、あたしが魅力的でかわいい女の子だから、気をつかってくれちゃったり、裸見たいなとか思ってるんでしょっ。……好きになっちゃってるんでしょ⁉︎」
心の中の奥の方に、重い剣で一撃入れられたような、ぐらりと揺れて亀裂が入る感覚がした。それだ。見つけた、と瞬間的に思った。
「……莉玖にさそわれたのに断ったの知ってるんだからっ。あたしじゃなかったらっ、一緒にテーマパークなんか来ないくせにっ〜〜じゃなくて、あたしの気持ちを勝手に何かのせいにしないでくれる⁉︎」
「違、ッ——⁉︎」
俺の能力が何か、俺に対して変な効き方をしているのは……心の奥にあるその部分に、触れられないようにしているのだと思った。俺の人生に今まで重大な局面はなかったので、そこに何が、何故隠されていて、どうして能力と干渉するのかがわからない。
だが、そこまでだった。
「——みんな、こっち見てるが⁉︎」
「えぇ⁉︎ いっ……」
隠蔽が解けそうになったせいで、二度目の告白を緋花から実はされてたんじゃないか? と気づいたのはホテルでだった。二度目のプールの後で墨華がやや死んだ目で復帰してきた。緋花は来なかったが、
「あっ……」
その時は来なかったが、深夜に俺の部屋に来ると、何か言いかけて言葉を詰まらせた緋花は——すぐに姿を消してしまった。その時、ちょうどそのタイミングで雛蜂が寝ぼけた感じで抜刀し、廊下にふらりと出てきたので。
俺は……。