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——3

 ——冷静になれッ。これに全てを賭けるとして、もし上手くいったら?

 お世辞にも陽の気が濃いとは言えない俺だが、まさか俺より数段陰キャの莉玖が、コミュニケーションで俺を救うことになる……? そんなこと想像できるか⁉︎ 絶対に無理だ!


「なによっ⁉︎ 何か文句でも——なにか言った⁉︎」

「——」



 ——〈ようこそ、ラプラスの魔へ。万象を識る悪魔の眼をあなたへ〉



 こんなものに期待はしないが、それでも万が一本当に上手くいったら……莉玖に土下座だよな? と思いながら、直前の思考が失礼過ぎた俺はスキルをインストールした——



 ——(※後から思えば偽アプリなので……失礼じゃないし殺しても許されるくらいなのだが)



「ふぇ⁉︎ なに! なに……?」

「デートだったらカップルらしく見えるようにしなきゃな? 見え方ね! この角度にこだわりがある——」


 部屋の扉を開けた。躊躇いがちにそこへ緋花が来ると俺は余裕と自信たっぷりに微笑して壁ドンし、その手を取って、手をつないだ。何しろ、見えたのだった——スキルは本物だった、とその時は思った。

 緋花が身をよじった。つないでいない空いた方の手で、丸出しになった、上向きで先の尖った乳房を隠そうとする……。



 好感度:★☆☆☆☆

 ……祈りましょう。とにかく最低の状態です。このままでは嫌いになってしまうかも⁇ 彼女のしたいことを察して、尽くしてあげましょう! ※何をしても喜んでくれますよ?



「そっ、そうなの? かっこよく見える角度とか……研究してるタイプなんだっ……?」

「——声が震えてちゃダメだろ? (必ずやれるッ。俺はできる……! だがこいつ、こんなにどこから見てもかわいいのにっ。おっぱい丸出しで何言ってるんだッ⁉︎ 必死に世間話なんか振って⁉︎‼︎)」


 ダンジョン攻略のため、緋花に抜けられるわけにはいかない。状況は最低、底辺からのスタート……だとしても、俺には能力がある——!

 普段は抑えている方なんだッ。

 全開で使おう。

 だが、


「‼︎⁉︎ え? ——がッ⁉︎ はッ——ッッ‼︎‼︎‼︎⁉︎⁉︎」

「大丈夫⁉︎ なに——‼︎ なにっ⁉︎」


 突如、全身に電撃が迸った——かのようだった。電撃ならよかった。それよりも数倍激しい緋花側からの能力によって俺は、つないだ手を握りしめたまま、地面に倒れた。心臓が破裂しそうな程ドキドキしだした。

 俺の名前を緋花が叫ぶ声が遠くで聞こえた。



 ホテルを出た俺たちはパークの入口にいた。列に並ぶ。


「入場券、ちゃんと二人ぶん買ってよねっ……! ——」

「——⁉︎」


 水着姿の緋花が息を詰まらせながら、身を俺に寄せた。家族連れのお子様が列のすぐそこを歩いていく。


「思い出なの! あとで思い出になるのっ。二人っきりできた記念と……あたしがはじめてきた記念っ」


 ——肌が温かかった。おなかから撫でて何も着けていない胸の先端にキスするように軽くタッチすると、あっと息を詰まらせて身を引こうとした緋花が顔を隠したそうに、必死に横目で俺のことを睨んだ。

 離れさせない。気配遮断スキルは俺がつかっている(※周囲から緋花を見えないようにするために。レベル差のせいで緋花がつかうと俺も見えない)。つないだ手を軽く引っ張った俺は、顔の横へ顔を寄せ、耳元に息をかけるように、尋ねた。


「はじめてがこんな格好で——なんてとんだ変態だよな?」

「〜〜っ、それを言う⁉︎ はじめてはっ、好きな人ときたかったから。誘われても今まではずっと断っててっ」


 揺れる白いリボンすら真っ赤になりそうで、震えた声は、苦労してやっと出したみたいだった。


 ——


 ——やるしかない。

 しかし今、普段と致命的に違うのは——


「〜〜っっ⁉︎ ——っ、……なっ、何で、さっきから! たまにダメージ食らったみたいになってるのよ⁉︎」


 ——同じ能力を緋花も持っていて、俺にも効いているということだった。

 ターン制の殴りあいなんだが‼︎⁉︎

 心臓の鼓動が際限なく高まって止まりそうになる。何をしてもドキドキする。

 手をつないでゲートからパーク内に入ると、どちらともなく俺たちは足を止めた。


「わぁ……♪ ——ぁぁぁ、っと。こっ、こんな感じなのね⁉︎」

「……?」


 緋花、実は以前にも来たことあるんじゃないか? 元の形を知ってないと変化のわからない夏モードのパークに反応したのを俺は見逃さなかった。


「っ、どうかしたわけ⁉︎」


 その時だった。午前中の雨でパークの混雑具合はそれほどでもなかったのだが、俺たちのすぐ隣を通り過ぎていく他の客を、緋花は何度も避けなければいけなかった(※姿が見えないので)。

 すると——午前中にプールで散々煽った無謀なソロ攻略者と化した俺の目の前に、明らかに年下のカップルが来て、いきなりキスした。


 ——ああ?


「——ふーん。いいねっ。そういうことするのな? そうか。うんうん。じゃあ俺もやろう。よし、さぁ覚悟しろ。周囲へ影響がないようにッ——普段は抑えてやっているんだからな……‼︎」


 どうせ今は、緋花にも強く効いていた方がいい。見えざる手で全てを掬いとる感覚——ふわっ、とカップルの少女が突然興味を失ったかのように離れると、『へ?』という顔を少年がした。

 が、突然俺は背後から拘束を食らい……HPが減った感触がした⁉︎


「——⁉︎」


 敵か⁉︎ ——違うッ。敵ではなく緋花に思いっきり抱きつかれていた。反射的にふりほどこうとしかけて固まると、逆に俺の方が突き飛ばされる。


「〜〜っっっぅぅ……っ」

「——っと⁉︎」


 踏みとどまった俺は咄嗟にその手首を掴んだ。勢いよく、何も着ていない背中に手を回すようにすると、モデルのようにスラッとして背が高い——と思っていた緋花が目を見開いて、ほとんど爪先立ちで、俺を見上げていた。


「お兄さん、お一人さまなんですか〜……⁇」


 ……能力を解放してしまうと、俺から離れられない緋花に対して効き過ぎる⁉︎ 一瞬、隠蔽できる範囲から出かけて(だから無理やり引っぱるしかなかった)、その輪郭か揺らぎでも目にしたらしい少年が当惑と怯えた顔をするが、ずっと一緒に戦ってきた俺と緋花は呼吸をすぐに合わせられた。


 短射程ワープスキル——〈ブリンク〉


 ————


 ——



「ごめん‼︎」

「デートで謝ってるんじゃないわよっ……〜〜っっ、デートでは何してもいいのっ‼︎ じゃないとあたしまで——」

「⁉︎」

 

 ※前彼に調教され過ぎだろ、普段なら思うところだが緋花は不思議とそんな感じがしない。いや、彼氏は無理だろ? と思ってしまう。


「——キスしようとしてごめん、って謝らなきゃ……っぅぅっ……! あっ、あれ乗ろ⁉︎ あれいい感じ! ね‼︎⁉︎」


 テーマパークに来たんだからアトラクションにライドしないと——?

 列に並ぶと……それが何の列かわからなかったが、さくさく進んで順番が近づいてきた。自然に手をつないでいた。


「……」


 えっ……⁉︎


「……あんた、このパークに詳しい? 何の列だかわかる——?」


 香水を纏わせた白いリボンと映える真紅の髪がふわりとする。前の緋花が頭を俺の方へ傾げ囁いた——ようやく俺は気がついた。家族連れの多めな長い列の中で俺は緋花の後ろから思いっきり密着していた。しかし周囲から俺は一人きりに見えているわけで。

 それで今列に並んでいるということは、この後どうなるかというと……?


「——ッ、声が‼︎⁉︎」


 緋花の悪い笑いが残響した。列の終端が間もなく、ライドするマシンが見えている——だが、その時俺は硬直していた。

 なのに歩き続けていた。


 待てッ——さっきの、あの時……⁉︎‼︎


「ごーめーぇん、嘘ついちゃった! けっこうあたしこのパークの常連なのよねっ。アイドルと言えばメンヘラ、夢の国はメンヘラ女子の嗜みって奴ーよ……っっ、こんなことするのは初めてだけどッ」


 突然だった。緋花が禍々しく枝分かれした短剣を扇子のよう、口元でちらつかせながら言った。さっき後ろから抱きつかれた時、HPが減ったのは錯覚じゃない。

 攻撃成立時に対象を操る洗脳スキル——⁉︎

 順番が来て……俺はシートに座った。無意識に発動している能力を、隣の家族連れの女の子が気にしたようだったが、座った俺の膝の上にまたがって緋花が収まると、その顔の前で手を振った。


「——絶対ッッ、離さないでよね」


 セーフティバーが下りていた。身体は徐々に上昇し、香水を纏わせた白いリボンがふわりとする。映える真紅の髪を解くと緋花が白リボンで俺に、微妙に前が見えるように目隠しした——。否応なく——パンツだけしか着けていないせいで、ほぼ裸の肌に思いっきりふれて、細い身体を俺は全力で抱きしめた。クスクスと至近距離で囁かれた。


「舌噛まないでねっ?」


 ——

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