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——殺しちゃいますよ?

「雛出るねっ! もう出た。もう出たよ‼︎ ——え、でも。いっしょにお風呂……? じゃあ雛もっ、じゃなくて……二人はそういう関係なん、あれ」



 全裸な雛蜂が脱いだ水着を片方ずつ両手に持って入ってきて、それを放り出して両手で目を覆った——


 ——⁉︎



「⁉︎ ——雛!」


 俺は湯舟から跳び出ると、『あっ……』と僅かに声を漏らした雛蜂の腕を掴んで、引き戻した。

 幽霊だと思った。

 違うッ。幽霊じゃない。これは……揺らいでいる。

 現代の天災——ダンジョンとは、隣り合う異世界。本来は影響範囲内のどこにいても迷い込んでしまう可能性があり、内部は歪で不規則で人間には対応できない異界。例を挙げるなら、一秒後に時間が一秒前に遡り、前にも進んでも体が後ろへ下がってしまう——〈無限デジャブー〉。

 ……原形、原界と称されるそれに特定の入口を与え、内部構造を人の理で再構築し、エンターテインメントとして攻略——処理できるようにしたのが現代のダンジョン。



 しかし稀に、境界が揺らぐことがある。要するにダンジョンのどこかへ現実がつながり、迷い込んでしまう。



「!」


 扉の向こうに現れた光景に、何層かは忘れたが見覚えがあった。

 湖に半分ほど沈みつつある丘と牧草の茂る傾斜した平原。水面からは、湖底で割れて反り返ったと思しき無数の岩盤と巨大生物の骨格を思わせる遺骨が突き出ている。

 攻略時は丘の地面に足をついて見ていた層の風景——その上下が反対になり、見る間に水面から次々と、球状になった湖水が上空へと滴っていく。

 だが水は、決して空へは吸い込まれない。


「——見てな。俺がやるッ!」


 やれる。空を覆い尽くすかのように——〈揺らぎ〉の元凶がいた。それは湖水を雨のように受けて建つ、逆さまの城塞。

 空を基底に棟が建ち、地上に槍雨の如く無数の尖塔を向けた巨大な城は、空中に浮かぶバスルーム目掛けて一直線に、スケール故に緩慢に見えるが凄まじい速度で貫きにきていた。


 足元を踏み直すと水音がした。振り返ると、ほんのりツンと申し訳程度の胸を露わにした墨華と目が合った——



「——空を飛ぶほど気分がいいことってないよな!」



 空の重力に任せて、俺は部屋を飛び立った。狙うは城塞の直前——種子のような形状のターゲット。

 揺らぎで入口が生じようと、ダンジョン内はシステム化されている。仕様上存在しない敵にも弱点となるターゲットが即時設定される。



 存在の核である種子を、禍々しい多刃短剣で斬り抜け——尖塔が迫り、俺が胸を貫かれる寸前で逆さまの城は大量の光屑となって消失した。この種類のイレギュラーな敵は、システムの範疇外であるために脆弱。

 その上、想定外の事象であるために万が一のことがあっても、戦闘での損失は補填される。



 ——〈揺らぎの消失を確認しました。おめでとうございます! ダンジョン攻略システムによる、座標情報の修正をしばらくお待ちください〉


 しかも特別な報奨金がかなりの額出る。牧草の茂る丘に立つと、一枚のタオルに身を寄せあって隠すようにしながら、裸の二人が歩いてきた……お互いに意識してか顔を赤くしながら。

 まあ。座標情報がダンジョン内に戻されたので、ここからこのままの姿で二人はホテルまで帰るわけで、


「——どうよ⁉︎ 言ったろ⁉︎ もし出ても、俺が全部倒すって。ほら見ろよ見ろよ、有言実行ってこっ——」

「言ったのかッ?」



 ——



「——出るってわかってたのかッ?」



 結果として——よかったのかわるかったのかわからないが、この日から墨華は毎日、制服をやめて地雷ファッションの私服を着るようになった(※取り憑かれたのかもしれない……)。



 ◇



「殺しちゃいますよ……?」


 ——深夜。


「あたしっ、パニック映画よく見るんです。知ってるんですよ……? ど、っっ、っが、ガールフレンドがいない陰キャの男の子は優遇されてるんです。絶対最後まで死なないですっ。だから……っ」


 二時か三時だった。


「って、勇気を出してきたのに——何でっ、何をやってるんですかっ⁉︎ ベッドに寝ててくださいよ‼︎」

「墨華がやりたいソシャゲの推しキャラをガチャで完凸させ、素材を周回して集める作業だ……」


 それ楽しいんですか……?

 あ、そうだ。プール行こうぜ? 今こそプールプール。緋花も夜型だからどうせ起きてる、と思って俺は言った。しかし——


「これ水着じゃないです! 暗くてわからないんですか……? 本当の本気のっ、〜〜っっ。来ないですよっ、御調緋花はアイドルなので男性NG……じゃなくて水着買い間違えたって昼間言ってましたからっ」


 ……? 買い間違えたとは。

 どういう——どう間違うんだ、それは。

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