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——4

 みんなはプールへ行った。見送ると俺は部屋へ戻る。

 ……俺は普段打ち上げに参加しないが、今回いるのは滞在中に第七十九層のボスが見つかる可能性が高く(※今日行われた踏査の日時は予告されていた)、全員で揃っていたかったからだ。テラスつきのパークホテルに泊まってみたかったのもあるが。


「ふぅ……」


 今度やるコラボカフェのサンプル、——〈牛柄ビキニでしぼられました(※尊敬語)、若牛特濃ブレンドミルク☆〉をインベントリから出して一息つく。

 実際のところ、テラスは最高の眺めだったけれど夜でも真夏なのでけっこう暑く、しばらく動画の作業をしてから俺は室内に戻った。


「——?」


 そこで感じた。冷房が少し寒いような。——? いや、それより。


「こんなのあったか? ……何だ?」


 俺は着替えや荷物を、一人でつかうにはたっぷりと大きすぎるほどのベッドに広げていた。

 広げたことは覚えている……。だが、荷物に隠れるようにしてつるつるした白い紙箱があった。


「——」


 開けると中はバスソルトだった。

 その箱の上に物を広げていた——?


「何だ、アメニティか。ちょうどいい。せっかくだし風呂にお湯張るか? ——」


 予約した時有料チャンネルも見放題にしてくれたテレビがいつの間にか煌々と点いていた。


「——」



 ふぅ。やれやれ作業中に無意識でつけていたらしい——



「——落ち着け。世界中がネットワークされ、天災でさえ情報化された世の中だぞッ……⁉︎」


 テレビでは心霊番組をやっている。作業中に無意識で点けていた——室内のテレビを? 俺は? どこで作業していた。

 テラスつきの部屋に泊まるのが楽しみだったのに。



 実体がないから存在しないのであれば、天災も幻想——風呂の方へ行ってみると、バスソルトの原料や説明が書かれた紙が洗面台にあった。……。



「——」



 スキル——〈精薬作成Level 2〉。


 俺は編集用の機材で大音量の音楽、スマホでVTuberの配信を同時につけ、イヤホンでASMR音声を聞きながら湯にバスソルトを入れた。

 スキルレベルが低い(※ポイントが足らず、取れなかった)せいで効果不明のポーションもドバッと三本入れた——目を閉じればクラブの音圧の中で囁かれている気分になる疑似陽キャプレイ。


「いいね。乗ってきたぜ! なんだ、やっぱり大したことないなッ——」


 説明書きと本体って離れたところにないよねっ? ややハイになった俺はすぐ手の届くところに武器を用意し、さらにもう一つの機材で——〈彗星の騎士団〉のチャンネルで霊と戦う見守り配信をしようとしたが回線が安定せず(⁉︎)断念し、風呂につかった。大丈夫だ。絶対に完全に平気なはず。


 ——?


 ガチャッ、としかしその時バスルームのドアが急に開いた。いやッ——開いた⁉︎‼︎⁉︎‼︎


「——⁉︎」

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」


 あわてて装備を再構築すると、淑やかな声に言われる。上機嫌な笑みを口元に浮かべ、髪をアップにまとめた墨華が備えつけのふわふわしたタオルで前を隠しながら入ってきた。

 足を上げ、湯につけると——裸が見えないように、タオルを濡らさないように下から巻きとるようにしてお湯に入り、肩と膝の先だけ出して体育座りする。


 おまえ、本物か——⁉︎


 口走りかけて俺はとどまった。濁り湯に波紋が広がり、水面がさざ波立つ。湯船の中で立ち上がっていた俺の背後に墨華がいて、後ろから耳元に顔を寄せられた。小さな吐息がかかり、囁かれる。イヤホン越しに——変だ。

 何で⁉︎


「中学生のころかなっ。前に、最後にこうやっていっしょにお風呂入った時君、僕のことじっと見てたよね?」

「違うッッ‼︎ ——違う、そうじゃない!」

「別にいいよ。僕は、君がそうなる前からずーっとドキドキしてたからね」


 配信が終わった? 終わらない。自動再生はオフにしているが夏休み企画のクリア耐久。朝までかかるし、朝まで見続けるつもりだった+音楽も同時に止まっている——気がつけば静かだった。


「⁉︎ 霊が点けたテレビはどうしたっ‼︎⁉︎ ——!」

「テレビ……?」


 ——。声しか聞こえない。音という音がしなかった。あらゆる外の世界から、このバスルームだけが隔離されたかのように。


「何言ってるんだい彗星くん、あんな低俗な心霊番組なんて見ちゃってさ霊なんて存在しないんだよいいね……存在しないんだっ、絶対! こっ、この状況で裸の僕を怖がらせてっ、一体どういうッッ、ッ⁉︎」


 すると何もしていないのに、電気が消えてバスルームが真っ暗になった。息遣いで何となく墨華が——『ぇ? ……え?』みたいな表情をしたのを感じたが、


「——え?」


 すぐに電気が突然ついた。だが状況は全く良くなってなく、



「わあっ! ……スイくんっ、なの——? ひっ、雛見てないっ! 雛何にも見てないよ……電気消えてたからっ」

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