第七十九層攻略戦——2/2
——一人足りない、澪は⁉︎
立て続けに二度の閃光! しかし回廊の回転の瞬間、重力が再度消失し身体が浮き上がった。
おそらく体勢を崩したらしい墨華が射撃を二発ともミス。
初弾、次弾ともに翼には擦ったが、この翼は羽ばたいて揚力を生むのではなく斥力を受け止めるためにあり、多少の傷で機能を損なうことはない。浮かされた俺は、敵の猛禽を間近で見ていた。
ブーストされた(※本来、これほど強力じゃない。つまり莉玖は向こうにいる)——〈クローズドサークル〉によって、墨華に近づくことも離れることもできなかった猛禽に……身体が一直線に突っ込んでいく!
回転する回廊の、次に最下層になる地面の重力によって。空中へ引き剥がされ、浮遊することによる高揚感と共に、全身が持っていかれる。
! 前後不覚のまま緋花も隣で浮かんでいたが、敵の視線が俺を照準し背後に斥力の魔法円が浮かんだ——
「——ッ⁉︎‼︎」
——
防御を——⁉︎ 次の瞬間、円から極大な爆轟が閃光を伴って炸裂し、
——
回廊の回転が突然停止した瞬間、空中で視界が入れ替わった。めちゃくちゃに絶叫しながらシールドを展開すると、攪拌された引斥力と光のパーティクルを含んだ衝撃波で砕け散らされる。死んだと思った。だが俺は、地面へそのまま叩きつけられていた。
興奮と驚愕の針が振り切れ……体感したことの記憶が一瞬再生できず、大分反応が遅れた。
「⁉︎ ——」
「揉むなっ……っっ、ぐぅぅぅぅ! 〜〜っ」
……気がついたら、緋花の真上に着地していた。密着した心臓が音を立てて鼓動し、同時に鼓動が伝わってくる。
でも、何故⁉︎ かっと赤くなった顔を両手で押さえて苦悶しながら地面を転がる緋花を横目に、俺たちの背後で——大鉈を持った山羊頭、短い期間に酷使され続けた人形が自壊して消滅した(※緋花にはちゃんと謝った。直にではなく、SNSで)。
……空中で視界が入れ替わった。思い出した、一瞬。その時回廊の遥か上空で俺は、1.墨華が俺に照準するのを見た。ということは?
2.莉玖が絡んで澪のスキルで人形、俺の位置を入れ替え、さらに俺と敵を位置変えして……射撃が直撃からのセットした人形でとどめ、か?
——〈おめでとうございます! 第七十九層にて、強敵の撃破を確認しました‼︎‼︎〉
「⁉︎ ——でも能力がっ」
上にいたみんなが降りてくる。すると回復した(※仕様により、戦闘が終わると攻略者のダメージは消える)雛蜂が背後で起き上がり、くっ〜っと伸びをして言った。
「スイくん、この立て札のこと?」
「⁉︎ ——」
——そうそうそれそれ! おまえが後ろから顔を出してるその立て札、能力解けるって書いてるよなッ?
金糸で雀躍と蟲を描いた真っ赤な和服の袖を口元に持っていき、羞恥に耐えるかのように雛は笑った。
「これ、雛が書いたやつだよ——?」
——
「本気にした?」
「いや⁉︎ 俺が澪といた時、おまえいなかっただろ‼︎⁉︎ ……ッ」
「雛、ずっといるよ?」
純粋に怖い表情をして……(多分当人からすると純粋に驚いた表情なのだが)、雛蜂は言った。
待て——?
——〈なお、討伐報酬は三千六百九十八万円となっております!〉
ずっと尾いて(※憑いて)来ていて、戦いの合間にかわいく立て札を描いて、武器を持った敵の鳥脚を切り落とし、仲間が来たので勝者の余裕——もういいやっ、勝ちを確信して電池切れ。
それが、風梓雛蜂。
え? どうして? と……しかしその時一人を除いて全員が周囲を振り返った。
回廊の上にいて下りてきた澪が一人だけ、俺の隣に来て、俺の手をとって言った。
「お兄ちゃんっ、大好きだよ♪ 汚れちゃったから——今日はお風呂で澪のこと、綺麗になるまで洗って……っ?」
片手で手を繋ぎながら満足したような顔でチラッと、太もものすれすれまでワンピースをまくり上げた。
……最後に落下制御の対象を変更し、守ったことで機嫌よくなったようで幸い。だが一体これはどういうことなんだ。
何が起きてる——?
全員が同じことを感じていた。
計算が合わない。
報酬が少なすぎる。