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雛は、あの性格でなければ——否、狂戦士のロールを選び、その狂化効果を受けていなければ。雛蜂は内気だけど誰にでも心優しい。
……だが。まず、これで『他のギルドと協力し、最終層攻略に必要なレベル一五〇〇に到達する』道は本当に、真剣に断たれた。
しかし、それは俺のせいとはいえ、ああなった時点でアウトなわけで、どの道ダメなんだから後は、できるだけ状況を良くするしかなかった。負け確なのに、やけを起こして相手の言いなりになるより、新しいギルド本部とここにある資産が手に入ったこの終わり方は悪くないはず。
「! 返信がないッ」
しかし雛蜂を呼ぶためスマホを出し、俺は息が詰まった。返信がない……?
「——」
——二度確認した。正直言って……今日起きたことはほとんどが予想通りだった。素顔を見せろと言われるのを俺は予期していた。見せる気だったのだ。だから雛蜂を連れて来られなかった(緋花は見られても危険はない。命は)。だが、実際は。
誰かのせいにしていいならガブリエルのせいにするが、まさか一人だけ置いていったことで……怒って——?
戻らないと——!
◇
「ゔうっっ、ぐぅゔぅぅっ……ご主人さまお茶が入りましたにゃあああっ……うっく、えぐっ」
「——ッ。やられてはない。プレイヤーランキングによれば、雛蜂のレベルは半減してないッ。あいつを誰かが倒せるわけもないが……」
一、銀盆をテーブルに一旦置く。二、跪いて一つずつ両手で差し出す。正しい作法でサーブされた紅茶のソーサーを俺は受け取った。
「澪が思うに、見捨てられたと思った雛はこれから彗星を刺しに来るんじゃない? 体を真っ二つにされる時があったら、両腕を傷つけないようにして。雛は確実を期すために、潜伏してるに違いないわ」
「デレ期終わってるんだが⁉︎ その方が気が楽だがッ、リサイクルしようとするな!」
三、給仕を終えたら土下座。床でもペロペロ舐めながら、ご主人さまからのご命令を待ちなさい?
新本部。墨華はいなくて、緋花は少し離れた所で噴水の縁に腰掛けていたが、その噴水の水がゴポッと弾けた。
「——ッ、庁舎でのことは動画になっているから、俺たちがここにいる事を雛は知っている……」
「お姉ちゃん、何でそんなことしてるの——……っ♡」水飛沫を散らして顔を出したホワイトブロンドの美少女が言った。
「にゃ‼︎⁉︎ 栞!」
「この人たち、とっても優しいよ? そんな格好で恥ずかしいなぁ……っ」
「にゃ⁉︎ これは栞のっ。くっ、ぅぅぅうっ……ぅっ、ううっ‼︎」
また、俺は全くどうでもよいことだったが、厳正な議論の結果——〈彗星の騎士団〉の勤務時の正装は、ちょっとサイズが大きくて色々見えてしまいそうなマイクロビキニに決まった。既に事態は沈静化して、この建物の元の持ち主、詠と栞の姉妹のギルドは解散している。詠はうちで飼うことになった(※いらない)。
今、ガブリエルのせいで雛蜂は俺が誰か突き止めることもできる。すぐにできるはずなのに今姿を消しているのは、何というか……執行猶予みたいなものなんだろう。刃物を持ったヤンデレが能力のせいで好感度MAX、故に時間制限つき(※多分、そのうち家に殺しにくる)だった俺の攻略者生活が急速に終わろうとしている。
「——ヤンデレとメンヘラは自然消滅を待つしかないわ。本当は、一番にさえならなければいいの。一番構ってくれる人のところへ自動的に行くから。だから、詰み。能力でデレデレ、ヘイトを取って釘付けにしてるようなもの。効いている限り大好きだよっ?」
……。
「綺麗に死ねたらっ、澪のお部屋に飾ってあげる。お着替えする時もっ、はじめての彼氏と——っする時も、見てていいよ……?」