3話:ホラゲー配信で僕のこと笑った奴のこと、一人ずつ住所突きとめて殺してるよ? 1
◇
「なにやってるのよっ」
「——⁉︎」
その日夜遅く。歯ブラシを咥えてコップを持ったパジャマすがたの御調緋花が暇そうにぶらりと部屋に来て、俺の肩越しに顔を出した。
「いやっ、——?」
眠くなってぼーっとしているのか、とてつもない美少女の凄く無防備な格好にドキッとした。
……緋花は俺の素顔も能力も知らない(※普通に求人に応募してきた。レベルが低かったので一度落としたら、一〇〇レベル近く上げてまた来た)。
「どうするか考えておかないといけないからな? ダンジョン攻略は宝くじと一緒——一等賞金億超えでも、雑魚は一匹何十円。ハズレでそれならありがたいか。でも、ここまで来てレベルを半分にされ、当たりのないくじを引かされるなんて嫌だろ?」
⁉︎ ——緋花が俺の隣に座ってきた。席と席の間が近く体温が伝わる。その時、半端にかかっていたっぽいパジャマのボタンがはずれて、前にできた隙間から胸が白っぽい乳首まで剥き出しになる。
「目標達成まであと一歩って時に、それに絶対手が届かないってなったらどうなるか? 試すんだったら自分じゃなくて相手でやるよな——? いやッ……——(今日、はっきりわかった……この能力は選ぶべきじゃなかったッ。でも次は)ぅお⁉︎」
……ッ⁉︎
「なによっ、——っっ」
瞬間、緋花と目が合った。……緋花と目が合った⁉︎ 珍しいこともあるもんだ。——
俺にいるのは、やり直す方法。そして、そのためには……元凶であるダンジョン攻略システムの特典を取り直すために、クリアすればいい。
「来た……!」
「なんて邪悪な面を」
「見た目だけじゃないっ。ギルドのメンバーは全員洗脳されてるんだ。あのギルドに入った奴は、殺されて経験値にされるんだ……」
翌日。ダンジョンの中にある会合場所に俺たちが入っていくと、円状の観覧席に詰めかけた一団が退いて中心への道を開けた。
二十四層。比較的低階層なため、多くの攻略者が所属を問わず集結し、ここで何が始まるんだと緊張した空気が漂っている。俺は、全ての障害を排除するため、ここへ来た。
「——見てる。見られてるよ。切る? ねえ、切っちゃおう……? 雛、見られるの嫌いっ。ねえねえ良いでしょっ? スイくん」
「……まだ待て」
「なでなでするのっ、あっ何で。う。あぅ……ぅんん♡」
「……まだだッ(誰かを殺すかもしれない時だけは、何て頼もしい奴なんだ……!)」
開いた道の先で、中心から黒ずくめの集団が射竦めるような視線を俺たちに向けた。——連中は、前層で主力を失ったものの(……そして、おそらく、それをやったのと同じ奴に俺も襲撃を受けたのに、俺がやったと奴らは思い込んでいる。ここがポイントだ)、今の攻略の最前線を代表する巨大ギルドだ。
こいつらとの会合場所と時間を俺は最初の指定から変更している。
「……現れたな」
しばらく無言で見つめ合い、予定の時間きっかりになると、向こうの代表者らしい男が訝しげな様子で唸った。隠蔽スキルで姿が少しぼやけているが、俺ではなく雛蜂の方を向いて警戒している。
「そちらに呼ばれたのでね——。謂れのない件で。誰も来られないような下層での会合の予定を変更させてもらったのも、納得して頂けるかな? 誤った認識が何度も広まってもらっては困る」
お互いに顔は見えないが俺は向こうがその時不安な表情をした気がした。予想できないものを見るような顔を——。そこで——。
単刀直入に——俺は条件を切り出した。すると観衆が沸き立った。現代のダンジョン攻略は、命懸けで立ち向かう冒険ではなくエンターテイメント。
そもそも俺が何故ダンジョン攻略者になったかと言えば……『向いている』、と単純にそう思っただけだ。
……能力のせいで、多分向いてないことになったが(そして昨日……能力があって、チャンスが来ても、俺のしたいと思っていたことが……俺にはできなかった。俺はッ)。
「——今度のことは決闘で決着をつけないか?」
俺の言葉は、周囲に注目を巻き起こすと同時に、敵を動揺させたようだ。しかし、一人——。
「何だと……ッ?」
「ははッ、面白ェ! 舐めてんなァ……? 自分が勝てると思ってなきゃァ、ハハァッ! ンな事は言わねェよな。舐められちまってる奴はカッコ悪いなァ……。ナァそいつは、一体誰のことだ?」
代表の男が気圧されると、敵の集団の後方にいた少女が進み出て、周囲に制止された。少女は露骨に不快な目をしたが(集団の中でこの少女だけが軽装で、攻撃的だが運動神経が良さそうな身体に白髪の前髪を上げている。俺の目線で外見や服のセンスを評価するなら、正直レベルはかなり高い)、その時墨華が俺の隣に来て爪先立ちになり、耳元に顔を近づけて言った。ふわりとスカートが跳ねる
「彗星くん。あの子、レベルが二四〇あるよ。間違いなく、このダンジョンでトップだ。ああ、君は一〇六しかない。全体ならともかく、最前線では下から数えて一か二じゃないかな——」
——