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——※なお、青髪

 いた。見つけた。目の前が開いたおかげで、俺はその姿を捉えた。今日、さっき本部に来たレベル二〇〇の。

 ……今、目の前にあるのと多分同じパンケーキを食べ終わるところだった。



「——私のこと、知っててさそってくれたんだと思ったんだけどなあ。へーえ? 違うんだ?」



 ——意識が隣に持っていかれる⁉︎ きらっと水色のツインテが揺られ、光った。良い香りがふわっと間近でして、真横からニヤニヤと顔を覗き込まれた俺はドキッとした。

 女の子はスマホの画面を見せてきて、ふんっと偉そうに言う。


「はい。四季咲よつきさきです! コスプレイヤー、やってるんだ。フォローしてね♪」

「フォロワーが多いな……⁉︎」

「い・ま・す・ぐ」


 ゾクッとする笑顔。だが——攻略のことを考えれば今は! はっとすると、レベル二〇〇はいなくなっていた。その反応を咲は自分へのだと思ったみたいだが。

 童顔で、小さい子が身長だけ伸びたようにすらりとした咲は何を着てもかわいらしく似合いそうだった。でも。


「ごめん! 俺、ちょっと——」

「——?」


 ハートマークとお星さまをクリームでかいた取り皿を、咲が俺に渡した——

 嫌な予感がした。現代のダンジョン攻略は八十層以降で報酬が億超え(実際——〈彗星の騎士団〉が獲得した山羊頭の討伐報酬は五人で分けても一九〇〇万円になる。祝福を選び直すために攻略しているのは多分地上で俺だけ)だが、一度失敗するとリカバリーするのは難しい。

 俺が攻略の最前線にいられたのは、致命的な地雷を踏まないで来られたからだ。


 その俺の感覚が警告を発していた……今すぐ本部に戻らないと。理由はわからない、考えればわかるはずなのに思考が麻痺して直観だけが反応している。



「——全部食べたら、キスして写真撮るんだよ?」



 何故それを今言う⁉︎ ——取り皿でケーキを分けながら(※咲はクリームで色々描いてくれた)、半分ほど食べた時だった。

 急に顔を間近によせられて、耳元で囁くように言われ、俺は強烈にノックバックした。


「カップルはね——♪ あっ。もうこんな時間! どうしよう。忘れてたよ……私ね、今日はこれからっ。ちょっとだけねっ。ちょっとだけ、友達と会う用事があって」

「……」



  ——ほう。なら行かなきゃな? 友達が待ってる、でも。

 おまえが俺のこと好きなのを、俺は知っているんだぞッ⁉︎



「バイバイ♪」


 ——



「能力なんて。あってもなくても同じじゃないか……言えるわけがないッ」



 残された俺が、背中にひしひしと重圧を感じながら(処刑台の階段を一歩ずつ上がっている気分だった。気分というか、これは確実に上っている。わかる)ケーキと格闘していると。

 それは何というか、未練であり……一欠片も残したくなくて、全部食べきってSNSに上げたかったのだが、『わかるよ』という顔で一人の紳士が目で励ましてくれた。同じものを彼は一人でチャレンジしていたが苦しげで、あのレベル二〇〇はどうして余裕で完食できていたかわからない。


「……え?」


 早足で店を出ながら画像を上げようとすると、写真つきのメッセージが届いていた……それは試着室で撮ったような。


 レモンの輪切りを咥えた口元からお臍までの立ち姿で、薄茶色の染みがついた白い半袖が鏡の縁にハンガーでかけられている。肩を肌見せした白いブラウスと、チョーカーネックのノースリーブを両手にそれぞれ持って、『どっちにする?』という感じで鏡に映っているが……?



『コーヒーの弁償、まだしてもらってないよ?』



 両手に持った新品の服の隙間から、日焼け跡と、青い下着の肩のストラップが見えていた。



「何だ、この地雷女……⁉︎ 俺でなければ死んでいるぞ!」



 俺にはわかる。きっと——この服は買う気のない試着室だけ使った奴だ! で、本部に戻ると墨華が俺を(※たまにだが、本当にたまにだがすごいエッチな地雷ファッションをする時が墨華にはあり、今日はその日だった)待っていた。


「何があった……?」


 面倒なことを知らされた。俺のいない間に例の主力メンバーをやられたギルドから連絡が来て、疑惑に決着をつけるために会合が提案されたと。

 しばらくすると御調緋花みしらべひばなが病んだ目をして現れた。普段、俺と緋花は話さない。俺から声をかけるのは能力のせいで憚られるし、緋花は——本当に美少女なのだが、陰キャでメ○ヘラの可能性が高く情緒不安定でピーキーなタイプだ。俺に対して、距離を空けているような感じもある。


 ……俺を見ると近づいてきて、俯きがちに小さく口を開いた。



「あのっ、おはよっ……——〜〜っっ」



 ……ダメージを負っている。ビーチでの一件のせいか。だが突然、俺は背筋に鋭利な冷気を感じた。

 振り向くと、廊下に雛蜂が立っていた。大きな目が沼のように濁り、深紅の着物の胸が激しく動悸している……。


「スイくん……っ」

「——」



 からん、と引き摺っていた刀を手放すと雛蜂は俺に抱きついた。



「スイくん……雛の裸見てっ……? スイくんが雛のこと好きって言ってくれたのに、海行ったとき雛知らない人にえっちなことされちゃっ、っ……——」

「——」


 ※されてない。知らない人ではなくそれ、俺。俺。


 言ったら死ぬ。絶対に死ぬ‼︎ 俺はずっと考えていた。もうわからなかった。自分が何を望んでいたのか。

 どうして一体こうなることを選んでしまったのか。でも、この能力を選んだからこそ今——もう一度やり直せるのなら、叶えたい願いが一つある。


 そして、やり直す方法なら——



「ねえそれとスイくん聞いて……? 今日たまたま偶然、雛のお家に広告が入ってたんだけどスイくん——パンケーキ好き?」



 ——⁉︎



「ごめん。違う広告じゃなくてレビュー、たまたまレビュー見たんだけどこのお店、すっごい大っきなパンケーキ出てくるんだって……」


 Q.レビューと広告をなぜ間違う?

 A.体験ではなく、言葉を間違えているから——彼女は嘘をついています。嘘をつくのはあなたを試しているからです。またこの時、あなた以外の世界の全てが彼女には全く見えていません。

 この状態の危険度:★★——『いのちだいじに、メンヘラ彼女とつきあう本』


「気があうなー! 雛と行きたくて、そこなら今日予習してきたところだ‼︎」

「うそっ、〜〜っっだ、だと思ったの! そうだよねっ、スイくん優しいからそういうことしてくれるもんね! 今度雛とも……ごめんねっ……今日は雛元気なくてごめんっ——殺さなきゃ。雛の裸見たあの人のこと必ず必ず殺さなきゃっ」



 ——やり直す方法なら、ある。状況を利用するんだ。こんなことは今まで何度もあったし、その度に切り抜けてきたんじゃなければ俺は今、ここまで来れてない。


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