見える人
「あ!そういえばさ、すげぇよさそうな店、見つけたんだよ。この先にあんだけど、行かない?」
「マジ?いいね。い… え!?」
「え?」
「…っとさ、違う道から行かない?」
「え?あ、と… え?いるの?」
「…うん」
学校の帰り。人通りの少なそうな道。私の顔は申し訳なさそうな表情を作り、彼の顔は恐怖でひきつる。私はいわゆる『見える人』なのだ。今もこの先の道に『見えた』のだ。そう。お化けが!
嘘である。お化けなんて見えない。見たことなんて一度もない。皆が勘違いしてるだけだ。私もめんどくさいし、本当のことは言わない方がいいと思っているので合わせている。私に見えるものは『未来』だ。その場所で、少し先に起きる出来事がドラマのワンシーンを思い出すように頭に浮かぶのだ。
「なんかごめん。でもほら、違う道から行けば大丈夫だからさ。はやく連れてって?」
「あ、お、おぅ… えっと… 違う行き方…」
必要以上に驚き、ビビり、挙動不審になる彼。たぶん彼の言うよさそうな店には今日は行けないだろう。これは未来が見えたわけじゃない。彼の目的がその店ではないからだ。
知らない人が見ればビビり過ぎに見えるだろう彼の挙動。でも私にはその理由も想像が簡単につく。お化けがいるらしいこの道を、彼は何度も何度も通って下調べをしたはずだ。人が通らない時間、声の届かない距離、姿を見られない空間、そしてイレギュラーがないように何度も何度も。
私はここで彼に襲われ、性癖をこじらせた彼の手で首を絞められ、そのまま永遠に意識を失うことになる。予定だった。冗談じゃない。百歩譲って襲われて初めてを奪われるのはいいけど、そのまま命まで奪われてたまりますかっての!
痛みや苦しみがリンクしないとはいえ、自分が殺されるシーンを見るのは気分が悪いどころの話じゃあない。そもそも命が失われるシーンを見て平気でいられるわけがない。だから私、すごく頑張ってるよね?自分を殺しちゃう人の前だよ?すごいじゃん?って、ほんとに誰かに全部言って慰めてもらいたい。ほめてもらいたい。あぁしんどい。
つーかさ、彼も何かがあってこじらせたのか、もともとそうだったのかは知らんけど。今はもう上手に別れられる方法を探すことしか考えられませんわ。
あ~あ、失敗したな~いいやつだと思ったんだけどな~もっと先まで見えればさ~こんなことにはならなかったんだけどな~
「あ~ごめん。なんかさ、道、よくわかんなくなっちゃった。今日は… ごめん。帰るわ」
「え!?」
「マジでごめん。今度ちゃんと埋め合わせする」
「あ、うん。いや、私こそごめんね」
そそくさと逃げるように帰る彼。お化けが怖いのもあるだろうけど、計画が失敗して発散できなくなった性欲を、何かしらの方法で処理するんだろう。でも、それはもう無理。
「ほんとに、ごめんね…」
私は彼の背中に向かって呟いた。取り繕った笑顔。その顔は無表情になり、そして笑顔に変わる。私は足取り軽く、彼に背中を向けて少し遠回りして家へと帰る。この先で起きる事件と遭遇しないように。