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この身は愛する君のために

作者: 花河相

最後まで読んでくださると幸いです。

「お願いリオン!私の話を聞いて!」

「それはできない。国が僕を敵視したんだ。君も僕のことを敵とみなして殺そうとしたじゃないか」

「違うの!」


 日の灯意外照らすものがなく、埃まみれの壁や床、所々には蜘蛛の巣があり、窓ガラスも割れている。

 人が寄り付かなくなり数百年が経っているであろう、廃城。

 

 昔この付近には国があったらだろうが不幸なことに滅び、中心にあったこの城だけが残った。時が経ち朽ち果てていて、ゴースト系の魔物の住処となっている。

 そんな場所で僕は剣を構える紅の長い髪を持つ、透き通るような綺麗な肌をしている美しい女性、エミリアと対峙している。


 僕はかつてエミリアとは背中を任せ合う仲であった。彼女は剣士として、僕は魔法使いとしてお互いを信用し合っていた。


 僕はそんな彼女と一緒にいられて幸せであった。愛していた。いつか、人生を共に添い遂げたい、一緒にいたい。思っていたくらいだ。

 だが、それはお互いの立場が許さなかった。エミリアは国の勇者だ。神からの信託により選ばれた。それに比べて僕はそのお供だ。


 魔法の実力を認められ、僕はエミリアと共に魔神を倒すためのパーティメンバーとして選ばれたのだ。


 だから、僕は努力を重ねた。エミリアと共に歩むために、守れる男になるために。


 結果僕はエミリアを守れる男となった。実力もエミリア以上。

 いつしか、国民達も僕のことをこう呼ぶようになった。


 賢者と。


 その時くらいからだろう。国の国民や貴族連中も僕の存在を勇者の「お供」でなく、対等な「英雄」として扱うようになった。


 僕は認められた時、エミリアと誓い合った、


 ーー結婚しようと。


 その時にはすでに魔神討伐も終わっていた。世界の危機は去り、平和が迎えていた。


 だからだろう。焦っていた。

 僕のいた国、リエステスト王国は勇者主義の国であった。勇者がいて……魔神がいて……それで国は繁栄していた。


 勇者がいるからという理由で他国からの支援があった。

 だが、世界の脅威が去ってからは衰退気味になっていた。

 国の上層部は焦り、こんな結論に至った。


「敵がいないならば作れば良い」……と。


 その愚かな判断をしたクソどもは僕に狙いを定めた。

 理由は二つ。僕が勇者以上の強大な力を持っていたから。勇者と恋人関係であったから。


 国としてはエミリアは王族として迎え入れたかった。

 神から信託を受けた勇者という存在を。


 僕の賢者という立場は公式には認められておらず、あくまで国民達が勝手に呼ぶようになっただけ。

 

 僕は使い勝手の良い単なる駒だったのだ。


 僕とエミリアは国の策略により、引き裂かれてしまった。


「本当にごめんなさい。私も騙されてしまったの」

「今更なんだ……君は僕を殺しに来たのだろう?かつて仲間だったが今は魔王と勇者……ならやることは一つだ」

「お願い!話を聞いて!私はあなたに話があって来たの!」

 

 今の僕は魔王と呼ばれている。

 それは僕が世界一の魔法使いであり、今の世界の脅威だから。


 僕は騙された。国からの依頼をこなしていただけなのに。ただ、それだけで僕は英雄から悪役へと変わっていった。


 まだ、それだけならよかった。

 国は僕を見放しただけ。隠居して一人で暮らせばよかっただけ。


 だが、それでもなぜ世界の脅威としてい続けるのか……それは国がした僕に対することだ。


 王国が騙したのは僕だけではなかった。


「話?……それはあの時すでに終わっているはずだ。エミリア、君も僕を見捨てたじゃないか」

「ちが!……頭に血が昇ってしまって……それであの時」

「取ってつけたような言い訳はよせ」

「信じてよ……リオン。お願い」


 涙を流し懇願するように僕を見ているエミリア。

 彼女の言っているのは真実なのだろう。エミリアは国から僕が浮気していると騙されたらしい。その女は僕に依頼を出した人で王国側の人間だった。

 それで一緒に話をしているのをエミリアに見られた……いや、そう仕向けられた。


 エミリアは昔から頭に血が上りやすい。すぐに感情的になる。見方によっては欠点の部分かもしれないが、それは彼女の人柄を……正義感があり正直ものであることを示していた。


 僕はそんな彼女を今でも愛している。だから、そんな純粋な彼女を騙した王国を恨み怒りに任せて、そんなことをしたリエステスト王国を滅ぼした。僕もいつも理性的なのに、その時初めて感情的になり行動してしまうまった。

 

「愛しているわ……だから、これから私と一緒に暮らさない?……静かな森で……寂しいかもしれないけど、二人ならきっと楽しみわ」


 歩み寄るように近づいてくる。エミリアは僕と対峙する気はないらしく、剣を地面に捨て、無防備で経っている。


 敵対の意思はないということなのだろう。


「僕も君を愛していた……さ」

「ならーー」

「だが!……僕は引き返せないほどの悪事をしてしまった。……ここで君の提案を受け入れることはできない」


 僕はエミリアには人並みの幸せになってほしい。茨の道には進ませたくない。


 愛があればなんでもできる?……愛があればどんな高い壁も乗り越えられる?


 そんな幻想考えたのは誰だ?馬鹿馬鹿しい。


 愛があっても相手の幸せを思うからこそ身をひかなければならないのだ。

 だから僕はあえて彼女に嫌われることをしなけれはわいけない。

 僕は懐から小さなダイヤが埋め込まれているシンプルな作りの指輪を取り出す。


「これ……覚えているかい?」

「え?……それは私があなたに贈った」


 婚約の指輪。

 プロポーズした時に交換した指輪だ。


 僕はそんな彼女の指輪を空は投げて


『ブレイズ』


 ドカン……その指輪を爆発された。

 

「な!?……な…んで」


 エミリアは動揺していた。僕はその心の揺らぎに付け込む。


「僕は言っただろう?愛していた……と。君は過去の女だ。僕には愛する女がいる。その女性は僕に寄り添いってくれた」

「う……嘘よね?……な、なら名前は?そんな女いるの!」


 名前……か。ここで適当な名を言ってもすぐバレる。

 なら、方法はひとつだ。


「リオネスだよ。その人は僕が泣きそうな時は抱いてくれた。研究が成功したら褒めてくれた。何より……一番辛かった時に隣にいてくれた」


 リオネスは僕のいた田舎孤児院の司祭様だ。

 小さい片田舎の教会で僕は育った。それから成人するまで僕はそこで過ごして魔法を学んだ。

 一度、僕はエミリアとのことを考え相談しに行ったことがある。その時もアドバイスをくれた。親身に話を聞いてくれた。

 それはまだ、エミリアに話したことはない。

 だから、司祭様には悪いが、名前をお借りした。本当にごめん。


「そ…そんな嘘……」

「嘘じゃないさ……だから、僕は君が」


 まだ一度もエミリアには言ったことがない言葉。今動揺している彼女を怒らせるにはもってこいの言葉。


「嫌いだ」

「あぁぁぁぁ!」


 エミリアは発狂しながら怒りに任せて剣を取り僕に向かってくる。

 さぁ、最後の猿芝居だ。

 派手に行こう。

 

 僕もエミリア……決別の決戦だ。


 戦闘が激化した。

 人類最強同士の一騎打ち。


 人類最強決定戦のようなものだからだ。















「さぁ……殺せ」


 エミリアとの戦いは僕の敗退で幕が閉じた。

 そりゃそうだろう。お互い手の内を知っている。

 僕は国を滅ぼした後、研究ばかりでろくに訓練をせずにいた。一方で彼女は訓練し、己を高めていた。結果がこれだ。


 最初は互角だったが、途中から攻撃を読まれ、最終的に僕の魔力が尽きて負けた。


「あなたは馬鹿よ!」


 仰向けて倒れる俺にエミリア剣先を突きつけならがら涙を流していた。

 これでいい。もう俺は生きるのが嫌になった。殺されるなら愛する人に殺されたい。


「なぜ……嘘をつくの?」

「……え?」


 鼓動が大きく跳ねる。

 そのエミリアの表情に。涙を流している彼女に……僕は動揺した。


「リオネスって……あなたがお世話になった司祭様ですよね?……あなたの身辺調査をしたことがあって……その時知りました」

「………」


 あれ?今変な単語が聞こえた?身辺調査?……なんで?


「あの」

 

 そう言ったエミリアは持っていた剣を地面に投げ捨て、その場に変わり込んで涙を流しながら僕の顔に近づいきて、両肩を優しく抑えてくる。


「あなたの本音を言って!なぜ嘘をついてまで私を遠ざけるの!」


 エミリアの心からの叫びだった。

 それは純粋な疑問。

 

 ああ……俺は彼女にこんな顔をして欲しかったわけじゃない。

 

「……幸せになって欲しかったんだ」


 気がついたら本音を言っていた。


「君は幸せになる権利がある。……でもそれは僕じゃない。僕以外の別の人と」

「……なんであなたとじゃダメなの?」

「僕は大罪を犯してしまった。後には引けない。隠居したところで国は僕に大軍を送り続ける。君が殺したと証言したところで僕の死を直接確認しない限り納得しない。それはお互いの立場から」

「それなら私と森で暮らさない?……古の森なんかどう?私とあなたが揃えばーー」

「なら尚更だよ。君が行方不明になったとしても次の追っ手がくる。この世界には魔神と戦った戦士が他にもいる。全員で攻め込んでこられたら意味がない」

「…………」


 そう。今回なんでエミリアが一人で来たかはおそらく彼女の独断だろう。

 それには恵まれた。そのおかげで僕が理想とする死に方を選ぶことができたのだ。

 エミリアは何も言わなかった。


「そんな顔しないでよエミリア。……さっきも言ったけど、君には幸せになってほしい。戦いとは無縁のね。僕のことは気にせずに」

「そんなことできるわけないでしょ!ばかぁぁぁ!」


 彼女は叫びながら僕を抱擁してくれた。

 彼女の抱擁は今までの辛い気持ちが……悲しい過去がゆっくりと浄化されるような感覚があり……とても居心地が良かった。


 エミリアは大泣きした。この場には声を遮る壁はない。

 僕もエミリアの戦いの結果だ。


 廃城も、豊かな草木も、ところどころにある岩山も……全てなくなり平地となった。


 今……エミリアの声はこの空間に広がり続けた。















 それから数分ほど時間が経ち、エミリアは泣き止んだ。


「くす……くす……ごめんなさい。泣いてしまって。……本当に嫌ね。愛し合った二人が結ばれないなんて……来世があったらやり直せるのに」


 来世……ね。確かにそうかも知れない。

 そうすれば過去のいざこざも……僕二人を阻む生涯も気にせずにできるのに。


「確かにそうだね。もう一度やり直すことができたら……どんなにいいことか」


 過去に戻れるならそうしたい。

 僕がエミリアにしてしまったことも帳消しにしてしまう。


「過去に戻れたらどんなにいいことか……だが、それだと今世の君を残していってしまうからね。僕もその方法を確立したけど、それだけはしなかった」


 時間逆行魔法。

 僕の固有魔法は時間を操る能力がある。


 だが、使う前にやめた。

 移動できるのは自分だけ。

 時間を遡ってもその世界にエミリアを残してしまう。


 それだけはしたくなかった。

 だから、決別という道を選んだ。


「わかったわ」


 僕の言葉を聞くと彼女は覚悟を決めた表情をした。


「……そうか」


 自分が望んでいたことなのに。

 それなのにどこか悲しかなる。

 エミリアは立ち上がり投げ捨てた剣を取りに行く……ことなく懐から小さな巻物を取り出す。


「それは?」

「転生魔法が刻み込まれたスクロールよ」


 スクロール。

 古代魔法など希少魔法が刻み込まれたもの。

 希少価値が高く、今世の魔法では解明も再現も不可能な代物だが……なんで彼女がそれを。


「手に入れるのに苦労したわ……。あなたの気持ちを知れて良かったわ……これで心置きなく転生できる」

「………は?」


 ごめん、理解できない。

 いや、やりたいことはわかるよ。

 過去の伝承から転生魔法については記載があったから。だが、その魔法は未完成で成功例がないという。


「……あの、エミリアさん……何しようとしてるの?」

「何って……今世でダメなら来世で愛し合えばいいと思わない?」


 ……忘れていた。

 エミリアはすぐに感情的になる。


 また、自分の思い通りにならないと後先考えないで行動するということを。


「……いや、あのさ、あんなこと言ったから今さら感あるんだけど、僕は君に幸せになってほしいと言った」

「ええ。だから、来世で愛し合えばいいでしょ?」

「いや……だからね」


 あ、ダメだ。聞く耳持たない。

 こういう面裏がない素直で行動力のある一面に僕は惚れたのだが……流石今回は限度がある。


 何が起こるかわからないのに。


「ちゃんと調べたから平気よ。この二人の魔法陣にお互の血肉を垂らして魔力をこめると発動するの」

「……いやぁ……えぇ」

「なに?……もしかして……嫌だとは言わないわよね?」


 ……ここ数年で彼女に何があったのだろう?

 この……自分の目的のためなら手段を厭わないみたいな。

 正直ハイライトが消えた彼女は怖い。


「……そんなことないだろ?」


 本音だ。決して嘘ではない。


「なら問題ないわね!」

「だかーー痛!」


 彼女はナイフを取り出し、僕の皮膚を切って血を取り出す。

 そして、僕の血液をスクロールに記載された魔法陣に垂らして魔力を込める。

 すると周囲が光に包み込まれる。


「また来世で!……必ず見つけるから」


 

 突拍子もなしに僕の意見を最後まで聞くことなくエミリアはスクロールを使った。


 ……僕は君を一度見捨てた。遠ざけた。

 それなのに君は僕を見限ることなく、僕を選んでくれた。危険を顧みず、僕といることを選んでくれた。


 なら、今度はその覚悟に答えるのは僕の番だ。

 エミリア、今度は二度と裏切らない。君のために……君と結ばれるために全力を尽くすよ。











 


  








「……本当に転生できるなんてな」


 結論だけ言えば俺は転生に成功した。

 身分で言えば片田舎の男爵家の嫡男だ。


 生まれもそこそこ。前世の記憶や経験から勉強に苦戦することはなかった。


 だが、目立つとそれなりの地位になってしまうので、爪を隠して平凡を演じる。


 権力に関わると碌なことがない。前世からの学びを生かした。

 まだエミリアからの接触はない。目立ちすぎるて高い立場になってしまったら今度は再び権力が邪魔をすることになるからだ。


 転生して十五年が経つ。

 僕は未来に転生したらしい。

 元いた時間軸からおおよそ数百年後の世界。


 この世界は魔法が発展していた。

 魔石の力を利用した蒸気機関や魔水晶をタブレット化した精密魔法など。


 一番驚いたことは未来の世界にも冒険者が存在しており、その冒険者証は便利になっていた。

 冒険者証一つで宿の寝泊まりや買い物も済ませられる。


 便利になった世の中である。僕もこの違いになれるのに時間がかかった。

 今も慣れていない面もある。


「アレスもついに明日から貴族学院に入学だな!」

「……ええ」


 夕食中、今世の父上に笑顔でそう言われると。

 貴族は成人したら学院に入らなければいけない。

 義務なのだ。

 別に嫌ではない。……一番嫌なのは。


「アレスも早くいい人を見つけて欲しいものですわ」


 母上も困り顔で言ってくるものの


 嫌なことは婚約者を作ることだ。

 僕も貴族ということで婚約をして、次代に繋げなければいけない。

 だが、前世でのエミリアとの約束がある。重すぎるかもしれないが、彼女のことが頭から離れずにいた、あとは転生魔法という不確定な要素が多すぎる魔法を使ってまで僕を選んでくれた……だから、作る気になれなかった。


「父上、母上、安心してください。必ず……良い人を見つけます!」


 僕は今世の両親が好きだ。幼子から一緒にいて……前世では分からなかった両親の温もりを感じた。

 家族愛……ここまでいいものとは。


「できたらあなたのことを想ってくれる可愛い子がいいですわ」

「そうだなぁ……アレスのことだ……絶世の美女だったりしてな!」


 母上、父上とそれぞれ言葉を発してくる。

 

 この二人は僕に愛情をくれた。だから、僕もこの二人に愛している。もちろん親愛だ。


 色々と不安要素が多すぎる学院生活。


 さてさて……どうなることやら。

















「エミリア……一体いつ現れるんだ」


 学院に入学して半年が経った。

 エミリアならば感じとられるであろう魔力の波を放ち続けている。


 だが、接触がない。つまりこの学院にはいないということだろうな。

 

 留学という手段もあるのでその手も考えたほうがいいだろうか?

 

 ここで僕の容姿について説明すると、前世よりも顔立ちは整っている。成績も上位をキープしている。

 こんなものかと手を抜いたつもりが周りの出来が思った以上に悪かったせいで、目立ってしまった。

 今はその調整をして、徐々に成績を落としているのに苦労している。


 目立ってしまったせいで、僕は優秀な部類に入ってしまったらしく、毎日毎日異性からお茶会の誘いがくる。


 ……だが、僕は家の付き合いのために言っているが、婚約までは行き届いていない。


 ………エミリア。


 もしかして、転生したの俺だけなのか?

 どうすりゃいいんだよ。このままだと両親に心配かけることになるぞ。


 そんなことを思いながら友人と約束しているため食堂に移動する。


「さすがはクリステル様!……今回も学年主席おめでとうございます!」

「入学してから一位を取り続ける……クリステル様素敵です!」

「さすがは白い至宝ですね!」

「もう……みなさんおやめください。……わたくしはまだまだ未熟の身ですので」

「なんと謙虚な」


 すると前から食事を終えたであろう……国の第四王女とその取り巻きたちが歩いてくる。

 僕はいつも通りに顔を少し下げ、話しかけることなく素通りする。


 第四王女クリステル。

 その容姿は王族特有の紫の瞳に綺麗な透き通るような銀髪。

 魔法も勉学よ優れているまさに完璧超人。


 僕は王族が嫌いだ。だから関わりたくない人物ナンバーワンだ。今まで近づかないようにしていたのだが、たまたま今日はすれ違ってしまった。


 ま、気にしすぎかもしれないが。


 僕はそのまま目の前の集団を横切ろうとして……あれ?

 何か懐かしい魔力を感じた?


 気になる少し反応してしまった。


 感じたのは魔力の波長。

 だが、今世の世界でこんな些細な魔力の波長を流せるのはいないはず。


「……見つけた」


 それから少し経ってぼそっと呟いたのが聞こえた。

 誰が言ったかは分からないが、おそらく王女がいた空間の誰か。


 振り返りたいが、今はできない。もしかしたらあっちから接近してくるかもしれない。


 今は自分から動かず待機しよう。












 結果だけいえばその波長はエミリアかもしれない。断言できないものの、アクションをとってきたのは彼女だった。

 その日、僕の机に手紙があった。


 その手紙には場所と時間が指定されていた。

 ……やっと会える。


 だが、期待半分、不安半分といったところだ。

 会えるのは嬉しいが、お互い容姿が変わったのと、今まで通り接せることができるかどうか不安で仕方ない。


「誰も……いない」


 指定されなのは空き教室であった。

 時間帯は夕暮れ。生徒たちは皆寮に帰って行ったのだが、僕は一人魔法を使って隠れていた。


 おそらくエミリアもそうしたはず。


「しばらく待つか」


 あっちから誘ってきたんだ。おそらく警戒しているのかもしれない。

 なら、僕は待つのが仕事だ。前世で約束した。必ず見つけ出すって。


「……リオン?」


 待つことすぐに僕の前世の名前が聞こえる。前世とは声が少し違うものの、その名を知っているのはエミリアだけ。

 後ろをガバッと勢いよく振り向く……すると。


「エミ……リ……ア?」


 見て驚いた。

 嘘だ……そう思った。……その人は透き通るような銀髪だった。髪を腰あたりまで伸ばし、特徴的な綺麗な紫の瞳……クリステル殿下がそこにいた。


「リオン!」


 いつもは気品に満ち溢れる模範生である彼女が落ち着きがなく、飛びついてくる。

 僕はそのまま抱きしめる。


「やっと……やっと会えた!」

「エミリア」


 彼女は満面な……咲き誇るような笑みをしていた。

 それほどまでに嬉しかったのだろう。僕も同じだ。だから、今は王族や男爵嫡男の立場を気にすることなく彼女を受け入れた。







 


 それぞれが再会を喜び会ったあと、少しだけお互いに会話をした。

 どのように過ごしていたのかを。

 そして、お互い自己紹介を済ませて、話始める。


「本当に会えてよかったわ」

「そうだな」


 一気に不安が解消し、お互いに再会を再度喜ぶ。





 だが……しばらく時間が経つと冷静になってくるもので。

 この光景はやばい。


 貴族階級トップの王族と貴族階級下位の男爵家……それが対等にタメ口で話している。


 許しを得たわけでもなく、最低限のルールすらない。


 まごう事なき不敬である。

 急に冷静になると焦り出してしまう。


「クリステル王女殿下……すいません。嬉しさのあまりあのような態度を」

「え?……どうしたのリオ……アレス、急によそよそしくしないでよ。……あ、別に先程までのことを不敬と取る気はないは。さっきと同じように接してちょうだい」

「わかった」


 急に態度が変わったことに僅かに首を横に傾げるクリステル、だが、すぐにわかったらしく、訂正してくれた。

 

 すると、クリステルは少し悲しげな表情をして話し始める


「……立場が違うと不憫ね」

「……ああ。そうだな」


 少し再会の喜びの熱が冷めてきたのか、お互い冷静になり始めた。

 

 ……気まずい。


「約束……覚えている?」

「ああ。……ひとときも忘れていないさ。今でも鮮明に覚えているよ」


 転生する前に約束したこと。


「また来世で、必ず見つけるから……だろ?」

「ええ。間違っていないわ。……それでその……気持ちは変わっていないわよね?」


 少し不安がっている彼女。そんなに不安がることないのに。

 僕は彼女に再び宣言をする。


「君を愛している。その気持ちは前世から変わっていないさ」

「……よかった。その……これからよろしくね。アレス」


 お互い転生できたことは祝うべきだろうが……王女と男爵では婚約はできない。


「それで、これからどうするつもりなの?あなたは男爵、私は王女……立場が違いすぎわ。それは理解しているの?……駆け落ちでもする気?」

「そんなの決まっているさ」


 前世も同じだった。

 僕がお供から英雄になったように。今世でも目指せばいい。

 英雄に。だが、やり方は戦いだけじゃない。領内を繁栄させる方法もある。


 その力を僕は持っている。

 かつて国民から賢者と認められた。そうなったのは自分のためではない。……一人の愛した女性のためだ。


 エミリアは僕を見つけてくれた。前世では僕と幸せになるために彼女は奮闘してくれた。その方法を見つけ出してくれた。

 ……なら、やることは一つ。


「今度も僕が君に相応しくなればいい」


 そう彼女の前で宣言する。

 僕は本当に大馬鹿者だ。それほどまでに彼女と離れていた時間は長すぎたらしい。


「それでこそアレスよ。……まぁ、変わっていないことはわかっていたけどね。学院に入学して半年前からずっと見ていたから」

「え?……半年前?ならなんでもっと早く声かけてくれなかったんだ?」


 あれ?なら、あの時の「見つけた」は幻聴か?

 でも、ならなんでもっと声かけてくれなかったんだ?


「見つけるのは簡単だったわ。私、魔眼持っていて、人の魔力の余波を見ることができるのよ。あ、半年間待っていた理由だったわね。そんなの決まっているじゃない……浮気しないか見ていたのよ」

「へ……へぇ」


 ……こ、…怖い。

 よかった。彼女を信じて待ち続けて。

 

「もしも、うつつを抜かすようなら心中してやろうかと思っていたくらいだわ」

「そ……そうなのか」


 彼女ならやりかねない。

 この場で絶対に浮気はしないと誓おう。今世こそは寿命をまっとうして死ぬんだ。


「あと、もう一つ言っておくわね」

「ん?……何かな?」


 心に誓ったあと、話しかけられる。


「私、貴族学院卒業したら、他国に嫁ぐように言われているの」

「………え?」


 ということはあと二年と少しだけ。

 彼女は少し悲しそうな表情をしていた。


 だから、僕はそれを安心させるために言葉を発しよう……として、その前に彼女に手で口を塞がれる。


「だから、今度は必ず私を奪ってね」


 その言葉は僕を信用して僕が必ず迎えに来る。そう信じて疑っていないようだった。


「ああ。……必ず」


 そして、再び僕は宣言した。

 どんな壁があるからわからない。それでも、僕は彼女のためにこの身を捧げよう。

 

 前世では僕を見捨てることなく、最後まで寄り添ってくれた。今度は寂しい思いはさせない。


 必ず……再び英雄になってみせる。

 愛しの君と一緒になるために。

 

読んでいただきありがとうございます。

次の連載版候補です。


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


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