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08.Videre est credere.

見ることは、信じること。

その瞬間、ユキのひざがガクッと折れ、床にしりもちをついた。


「痛!!」


床から湧き上がるような低い轟音と共に、二人は床に押し付けられていた。


同時に強烈な光が振ってきて、ユキはギュッと目をつぶった。


それでも、まぶたを通して、光が暴れているのが見える。


たくさんの鮮やかな色が、まるで狂ったように混ざり合い、上から下に流れていった。



音と光は、やってきたときと同様、唐突に消えた。


ユキは自分の腕の中でリュオがもがいているのに、はっと気がついた。


「ご、ごめん!」


「痛かったぁ……」


リュオは自分の腕をさすった。そして景色が目に入り、目を見開いた。


「お、お姉ちゃん……」


ユキはポカンと口をあけて、周りを見回していた。





そこは既に、恐竜の時代だった。





二人は小高い丘の上に立っていた。


眼下に広がる草原に、見慣れない巨大な生物がゆっくりと草をはんでいる。


ユキは依然として驚愕していた。


それが現実だと信じられなかったのだ。


それは、彼女が予想していたような、箱の中の四面に映像が流れる、といった類のものではなかった。





ユキたちには壁はもう見えなかった。




ユキは恐る恐る手を伸ばしてみた。


すると、何もないはずの場所で、手が何かに触った。


ユキは確かめるように指でそこをなぞった後、両手を当てた。


「……見るだけっていうのはこういうこと……?」


「そういうことだ」


モーティスの声がした。


「でもさ、これじゃあ、待ってるしかないの?その……なんだっけ?」


「「ティラノサウルス・レックス!」」


男二人の声が重なった。ユキは冷めた調子で言った。


「そう、それ」


「お姉ちゃん、ティラノも知らないの?」


「聞いたことはあるよ。あれでしょ?首が長い奴」


リュオは“信じられない!”というふうな顔をしたが、何も言わなかった。


「あ」


「どうしたの?」


「パラサウロロフスだ!!」


「はぁ?」


ユキにはそれが意味のある言葉には聞こえなかった。リュオはじれったそうに言った。


「あれ!あそこで群れになってるの!」


リュオが指差した先で、今まで見たこともない、へんな生き物が(ユキから見て、だ)草をはんでいた。


「何あれ?」


「恐竜だよ、恐竜!」


リュオは後のほうの“恐竜”をことさら強調して言うと、目を輝かせて見えない壁に張り付いた。


「リュオ君、そこに行きたいかね?」


モーティスがたずねると、彼は激しく頷いた。


「では、見えてるあの場所に立っている自分をイメージするんだ。簡単だろ?」


モーティスがいい終わるかどうかというタイミングで、二人は移動していた。瞬間移動(テレポート)と言ってもいい。


「ななな!?」


ユキは瞬間移動と、目の前にいる恐竜の大きさに度肝を抜かれていた。


「うわぁ……本物だぁ……」


リュオは心底嬉しそうだった。さっきと同じように、目を輝かせて、壁に張り付いている。


一方ユキは、反対側の壁に背中を押し付けていた。目の前の巨大な生き物は、確かに害はなさそうだったが、それでも恐ろしかった。ユキの体がずりずり下がり、最後にはすとんと腰を下ろした。


リュオはそんな彼女を振り向き、不思議そうな顔をした。


「??」


「……怖くないの?」


「怖い?何で?」


「……なんだか、大きすぎて……ティラノって、もっとでかいの?」


「でかいっていうかね……」


リュオの顔がさっと青ざめ、彼は口をつぐんだ。



大地を震わす咆哮が鳴り響いたのだ。



何も知らないユキでさえ、恐怖を覚えた。





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