05.Veritas liberabit vos.
真理はあなた方を自由にするだろう
次の日、ユキがその道に行くと、モーティスが待ってましたとばかりに声をかけた。
「おう、ユキ!」
「……で、昨日の続きは?」
モーティスは鼻を鳴らした。
「宿題が先だ」
「何を偉そうに」
「な、なにぃ!?」
ユキはケタケタ笑った。
「そっちが先。じゃなきゃ私の案、教えてやんないよ」
「……そっちのほうが幾分偉そうに感じるんだがな」
モーティスは怒りを抑えて、無理に笑顔を作っていた。余計に恐ろしい顔になっただけだったが。
「まぁまぁ。モーティスさん」
ユキはからかっているんだか、なだめようとしているのか分からないような口調で言った。
「私は原理を聞かなきゃ、私が考えた使い方が出来るか分かんないんですよ、モーティスさん」
「……馬鹿にしているようにしか聞こえないんだがな」
ユキはそ知らぬ顔で口笛を吹き始めた。モーティスはやれやれと目をぐりぐり回した。
そして、彼は話し始めた。
時間が異次元に行ったというところまで話したと思う。
異次元から来て、一瞬私たちの住む次元―――“世界”と言い換えてもいい―――を通り、また異次元へと消えていくのだ。
時間をものとして捉えるには、そうとしか説明できない。
私たちと親密なかかわりがあるのと同時に、全く別の世界のものなのだ。
しかし、この程度の説明は、おそらく、資料をひっくり返せばいくらでも出てくるだろう。問題はどうすれば説明できるかではない。
どうやって証明するかなのだ。
私はその日以来、異次元の入り口を探し始めた。しかし、そんなものがそう簡単に転がっているわけがなく、私は行き詰まりを感じた。
彼は話を切った。ユキは興味津々の目をしていた。
「それで?見つけたの??」
モーティスは頷いた。
「どうやって?」
「考えるんだ」
モーティスは自分の頭を指差した。
「私たちは大抵、真実を知っている。ただ、気付いていないだけだ」
「……?」
このなぞかけの様な言葉に、ユキは首をかしげた。
「分からないか?時間も、空間も飛び越えるものだ。私たち皆が持っている……」
「え……?」
ユキは驚いたように言った。
「それって……」
「ほう」
モーティスはうれしそうだった。
「分かったか。流石はユキだな」
「でも……ホントなの?」
モーティスは穏やかに微笑んだ。
「言ってみなさい。たぶん、正しい」
ユキはためらいながらも口を開いた。
「……想像力?」
モーティスは力強く頷いた。
「正解だ」
「でも……」
ユキはまだ信じてはいなかった。
「想像力は想像力でしょ?私たちを他のどこかに連れて行けるわけじゃない。ただ、頭の中で考えているだけでしょ?」
「じゃあ逆に聞くが、考えているのと、空間的に移動しているのと、何が違うというんだ?」
ユキは言葉に詰まった。身の回りにあふれている事象ほど、説明しにくいものも少ない。
「……そりゃ、実際に行っているし……」
「私たちの住む次元上ではな」
モーティスはまたしても謎めいた口調で言った。
「?」
「つまりだ」
モーティスはにやりと笑った。
「私たちが、直接移動するのと、移動したところを想像するのは、時間が存在する次元においては何も変わらないということだ」
「??」
ユキは余計に分からなくなったようだった。
それは我々も同じである。
モーティスのような科学者が、どんな風に考えているかなど、我々にはわからない。
しかし、彼が言っているように、我々は知っている。