11.Vena tangenda est.
脈は実際に触らないといけない。
ユキは目を疑った。
いつの間にか、目の前に“アーティキュロ・モーティス”があった。
「……あれ!?」
「よう、ユキ」
“アーティキュロ・モーティス”から出てきたモーティスが、ユキに声をかけた。
「モーティス!?」
「何を驚いてるんだ?」
「だって、あんた、さっきまで居なかったんじゃ……」
モーティスはしれっと答えた。
「馬鹿たれ。“アーティキュロ・モーティス”を活用しただけだ」
「活用?」
「その気になれば、あの箱もろとも“時間旅行”出来るってわけさ」
「結局、あれはどういうもんなの?」
ユキの質問は、実に最もだ。しかし、まともな答えを期待してはいけない。
モーティスは答えた。
「まぁ、一種のタイムマシンだ」
ユキは「そーいうこと聞いてるんじゃないんだけど……」と呟いた。
「じゃあ一体何が知りたい?原理か?」
ユキは曖昧な声を出した。
「そんなもん知らなくても、車は動かせるぞ」
モーティスの言葉に、ユキは顔をしかめた。
「……てか、その前に、この前の続きは?」
「ああ、そういえばそうだった。どこまで話した?」
ユキは不機嫌な顔をした。
「想像力が次元を超えるってことだけ。あとは次元がどうとか……」
「あぁ。そうだったな」
モーティスは悪びれる様子もなく言った。それでユキは余計に怒りを覚えた。
「説明する気あんの?」
「もちろん」
しかし、彼は先を続けようとはしない。
「……もしも~し??」
「いや、ユキの様な「子供」に分かるような言葉を使おうとすると、なかなか難しくてな」
「……ざっけんな」
ユキはぼそりと呟いた。しかし、モーティスは聞いていなかったようだ。
「ユキ、この際、原理なんてうっちゃったらどうだ?」
「はぁ?」
「あぁ、「うっちゃる」っていうのは……」
「言葉の意味ぐらい知ってるって!!」
ユキは不機嫌に遮った。
「私が聞きたいのは、ここまでの前振りはなんだったのかってこと!」
「そうなんだがな。よく考えてみろ。私が数十年かけて考え出したものを、高々十年ちょっとしか生きてないユキが理解できるとは思えない」
ユキはモーティスをぎろりと睨んだ。
「つまり、私が馬鹿だって言いたいの?」
「い~や、違うね」
モーティスは笑った。
「「ガキ」なのさ。別にけなしてるわけじゃないがね」
「……」
ユキはかなりどぎつい目をしている。
他に何を言われようともかまわないが、「ガキ」扱いだけは心外だった。
モーティスは彼女がすねたり、むくれたりしているのではなく、本気で怒っているのを見て驚いた。
「……おいおい、お前、まだ十二、三才だろ?「ガキ」だろーが!」
「十四!」
「どっちにしても同じだろ」
モーティスは肩をすくめる。
「十四って言っても、「ガキ」は「ガキ」さ」
ユキは忌々しそうにモーティスを見ていたが、しばらくして皮肉たっぷりに口を開いた。
「……じゃあ、「ガキ」には理解できない、ご優秀な頭脳を持っておられるモーティス様々は、私のような「ガキ」に、一体何を教えて下さるのですか??」
「嫌なガキだよ、全く」
モーティスは諦めてるように笑った。