10.Facta non verba
大切なのは、言葉ではなく、事実である。
その次の日。モーティスは姿を現さなかった。
ユキは暗くなるまで待っていたのだが、結局、彼は来なかった。
(そういえば、モーティスが「来た」のを見たことないな。いつも私が来る前に「いる」から……)
ユキはため息をついて立ち上がり、とぼとぼと家に帰っていった。
次の日も、その次の日も同じことが繰り返された。
一週間ほど経っても、まだモーティスは現れない。
(なんなんだろ?)
ユキはすぐに家に帰ってしまった。
ドアの鍵を開け、家に入ったユキは、迷わず自分の机に向かい、ノートを取り出した。
そして、まっさらなページの上に、題名を書き込んだ。
「アーティキュロ・モーティス」
しかしすぐに思い直し、それを消しゴムで消した。
「タイムトラベルについて」
そして、彼女はさらに続けた。
「1、想像力を使って、次元を超える」
しかし、そこで鉛筆が止まる。
「……って、結局、これだけ??」
ユキは思わず、独りで呟いた。どんなに記憶を辿っても無駄だった。モーティスが言ったのは、これだけだったのだから。
彼女は少々怒りを感じた。
「……あのおっさん、説明する気あんの!?」
ユキは鉛筆を放り出すと、背もたれに寄りかかって天井を見上げた。
「……想像力だけで、時空を超えるってどういうことよ……?」
イライラと呟いてみると、余計分からなくなっていくような気がした。
(もし、それが本当なら、私たち皆タイムトラベラーじゃん)
ユキは鼻を鳴らしたが、そういう事なのかもしれないと思った。それで、ガバッと体を起こし、鉛筆を取った。
「私たちが、自分の可能性に気付いていないだけだとしたら?」
しかし、またしても筆が進まない。ユキは鉛筆を持ったまま、頬杖をついて固まってしまった。
ボーっと鉛筆の「底」の部分を見ていると、それがなにやら愛嬌のある形に見えてきた。
(六角形の真ん中に丸って……なんか変なの!)
その時、ユキは何も考えず、片目で鉛筆を見た。
「……?」
真正面から見たとき、自分の手が鉛筆のどの部分を持っているのか、分からないことに気がついたのだ。
そして同時に、モーティスの言葉が思い出された。
(私たちが、直接移動するのと、移動したところを想像するのは、時間が存在する次元においては何も変わらないということだ)
こういうこと?と思った。
ユキは再びノートに書き込んだ。
「一つの方向から見ると、奥行きがあっても分からない」
そしてまた鉛筆を放り出して、腕組をした。
「感じることが全てなら、こういうこともありえるのかな……?」
ユキはしばらく考え込んでいたが、ガバッと顔を上げ、立ち上がった。
「ダメだ。考えたって分かる訳ない!」
そして、上着を引っ掛けると、またいつもの通りに繰り出した。
しかし、モーティスはいなかった。また、当然のことながら、“アーティキュロ・モーティス”もなかった。
「……やっぱりか」
ユキはガードレールに腰掛けた。
ユキはかなりきつい目で、通りの向こうをにらんだ。