機関車未征戦
案内された洞窟は、想像以上に広かった。出口に向けて慎重に馬を進ませていると、リンがこの洞窟について話し始めた。
「この洞窟は元々、トンネル開通の為に掘られたもので、ただ寸前に開発が中止になったその残骸なんっす」
そう話す通り、壁端には鉄材がそのまま残っていたり、錆びつき割れた線路が山積みに捨てられてあった。
「そういえば、ノアと出会った時に通ったあの洞窟とは別なのだな。
・・・お前達はこういった抜け道をよく知っているのか?」
「そうっすね。扱っている物が武器なので、普通に移動しようと思ったら面倒なことが多いっすから」
そう答えると、リンはどこか思案した顔を浮かべる。
「あのー、あなたは、何でノアさんと会った時のことを知っているっすか? それに、リンのことも・・・」
「私は、フェニだからだ」
隠すことでもない。だから自然に言ったつもりだったが、リンは驚きの声を漏らすと、すぐに首を横に振った。
「そんなまさか!? だっ、だってフェニくんは、鳥っすよ! そんな、ファンタジーみたいなこと、奇跡でも聞いたことがないっす」
「嘘は言っていない。信じなくてもいい。ただ、ノアを護りたいことだけは、真実だ」
リンはまだ納得しきれていないようだったが、それ以上追及することはなかった。
「・・・じゃあ、あなたのことはフェニくんと呼べばいいっすか?」
「・・・なんと呼んでもいい」
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「ほら! あれっすよ!」
リンが指差す方を見ると、確かに線路が伸びていた。
「まだ、通り過ぎてなければいいが」
「たぶん、大丈夫っす。この時間帯は、セーバレッソ方面に行く機関車と行き合いが重なるので、一回停まるっす。だから、もうすぐ来ると思います」
「セーバレッソ?」
「はいっす。っていう名前の国っすよ」
と、遠くから機関車の車輪が聞こえてきた。ガタンガタンと重そうな鉄の音が近づいてくる。
「あっ! 来たっすよ!」
私は馬を走らせタイミングを見計らい近づかせる。遠くで聞こえていたのが、次第に、あっという間に近づいてきて、すぐに線路に並走するように寄せた。横を機関車が駆けて進んでいく。
機会は一度きりだ。
鉄と風が轟音を響かせ、風圧の壁を押し退けながら、貨物扉の横にある取っ手のようなものを見つけた。
「おい、あれに掴まれ」
「ええ!?」
驚くリンを無視して、私は片手で掴みあげて軽く放った。
「わぎゃああ!」
奇妙な声を上げながらも、必死にそれを掴む。
私は馬を放して、飛び移った。馬は反動でそのまま崖側へと走り逸れていく。
リンの体を覆うように支えながら、落ちぬように機関車の繋ぎ目に体を滑り込ませ、扉に手をかけた。しかし、鍵がかかっていて開かない。
すぐに窓ガラスを肘で割ると、腕を突っ込み鍵のあたりを探り開けた。先にリンを押し込み自分も中入る。
「ノアを探すぞ。・・・もし、ガールディアの兵に遭えばすぐに接敵することになる。だから、私が見つけるまでそこに隠れていろ」
「そんな! リンも一緒に行きます!」
「駄目だ。私はノアを護るために動く。お前のことまで気に留めることはできない」
「いやっす! リンもノアさんに会いたいっす。それに、リンはこれでも戦士っすから、自分の身は自分で守れるっす」
リンはコートを捲ると腰に差した短刀を取り出し私に見せた。それは、磨かれた綺麗な刃をしていた。
「・・・分かった。着いて来い。ただし、私が優先するのはノアだ。それを忘れるな」
リンは頷き、私達は客席の方へと向かった。
席の並ぶ通路は思いの外、狭い。急ぎ足で前へ進みながら座る人の顔を逐一目を配らせた。
だが、私はここで、どこか違和感を覚えていた。
こんなに、狭かっただろうか。
私が初めて乗った時は、ノアの懐に隠れていて、よく見えていなかったが、それでも、席は数人が座れる程、広かったように見え、更に窓の大きさも同じく大きかった。
私が鳥であったから、そう感じているだけか?
そんな一寸の違和感を過らせながら、先へ先へと機関車内を進んでいった。
しかし、ノアは見つからないまま、先頭の車掌室という所まで来てしまった。
見過ごしたのか?
「え!? そ、そんな」
すると、後ろに着いていたリンが急に窓の外を見だした。
「どうした」
「・・・う、うそ、いや、えっ」
混乱しているのか、私を見て、また窓へ顔がつく程近づけ、そして、頭を抱えてしゃがみ込む。
「おい、どうしたんだ。何があった」
リンは、ゆっくりと私を見上げて、涙目になりながら言った。
「列車、間違えたっす・・・」
「なに?」
「こ、これ、ガールディアじゃなくて、セーバレッソ行きのやつっす!!」
な、なんだと。
無情にも、汽笛の音が響いた。




