使者たちが運ぶもの 3
「ほら! ただ乗りなんて都合良いものなんてないんだよ! とっとと運びな!」
「はっ、はい!」
ノアは慌てて木箱を持ち、荷台に積んでいく。隣で同じような積み込みをしている男は、ノアの倍の早さで行っている。
カーリナ・リクスシーは、武器商人だと言った。今は武器を売りながら、各国を周り宣伝をしているらしい。
荷台を繋げた馬車を引いて移動をしている。十数人の団員がいて、見かけるのは男ばかりだ。皆が同じ装いで頭に布を巻き、茶色のコートを纏っている。ただ、カーリナだけ、奇妙な仮面を着けていた。
カーリナが提案したのは、ライターンまでの道中、下働きをすること。そうすれば、付いてきても良いとのことだ。
安全に別の街に移動するために、出される条件をのむことはある程度仕方がないだろう。ただ、ノアにとって積み荷を運ぶことは重労働だ。額に汗をかき、息を切らして大変そうだ。
代われるものなら代わりたい。
そう思いながら、私は荷台の端に掴まり、ノアが終わるまで働きを見ていた。
「ちっ! こんな忙しい時に、足手まとい増やして、こんな怪しい奴をつれてくなんてよ・・・」
と、隣の男は愚痴つくように言った。最初に会った痩せた男である。
「すっ、すみません」
ノアは小さく頭を下げた。男は不機嫌そうで、まだ何か言いたそうではあるが、舌打ちだけして、また荷を積んでいる。
「あの、・・・ありがとうございます! 見ず知らずの私たちに、ご親切にしてくれて、・・私、がんばります!」
腕まくりをして、また一つ箱を運ぶ。
「いっ、いいから働けっ!」
男は少し慌てて言った。
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全ての荷を積み終え、次にテントを片づけ、馬に餌をあげ、言われたことは全てやった。
それが終わる頃には、ノアはヘトヘトになり、木を背に預けながら地面に座っていた。
「ははっ、フェニ、体を動かすのって大変ね。普段から城に籠ってばかりだと、やっぱりダメね」
大変だと言いながら、ノアの顔は清々しく笑みを浮かべていた。
「はあー、疲れるって。なんだか、いいかもね。生きてる気がする」
そんなことを話していると、一人の少女がやってきた。
「あのー、セイラさん。もう出発っす。
そいで、これよかったら着てください」
年端はノアと同じくらいか。同じ装いで、額にはゴテゴテとした眼鏡がかけられている。そして、ノアにコートと長い布を手渡した。
「はい。いま行きますね。えっと、これは着てもいいのですか?」
「ハイっす。むしろ着てほしいっすね。
国境超えていくので、その服だけだと目立つっす」
そう言われ、ノアは言われた通りにコートを羽織るが、手元の縦長の布をもて余していた。
「あの、これって・・・」
「あー、これ巻くの難しいっすよね。貸してください」
ノアから受け取ると、手際よく頭に巻いていく。長かった布がスルスルとまとまって、上手く丸まり鳥の巣のようになる。
「ホイっす、できたっすよ。それじゃ、ついてきてください!」
少女が歩き始め、ノアは慌てて私を肩にのせ、すぐに追いはじめた。
「あのー、これから、どこへ行くのでしょうか?」
「ふぇ? ああ、これから秘密洞窟を通ってジャクオン街に・・・! あっ! これ言っちゃダメだったっす!」
少女は「あちゃー」と頭に手を当てて、本当に失念していたのだろう。その挙動に、ノアは思わず笑ってしまった。
「あーいやー、すみません! 聞いたこと、黙っててほしいっす」
手を合わせて「この通り!」と、頭を下げている。
「ええ、大丈夫です。私は何も聞いてませんよ。・・・でも、カーリナさん、ライターンを通ると言っていましたが、ジャクオン街ですか?」
確かに、目的地へ行く途中のライターンまで私たちはついて行くはずだが、どういうことだろうか?
すると、少女は困った様子で何やら首を傾げさせ、さらにどうするかと考えていた。そして、「これも、聞かなかったことにしてくださいね」と周りを見て、声を潜めた。
「ジャクオンへは仕事で立ち寄り、その後にライターンへ行きます。
それで、・・・ジャクオンには駅がないんっすよ。だから、団長はライターンまでって言ったと思うっす」
なるほど、我々が駅を目指していたからこその提案でもあったのか。
「・・・そうでしたか。カーリナさんって良い人なのですね」
「そりゃあ、そうっす! 団長はかっこよくて、優しくて強い人っす。・・・でも、リンが言ったこと、内緒っすよ。怒られちゃうっす」
「リン?」
「ああっ、名前、言ってなかったすね。私の名前はリンっす。よろしくっす!」
「はい。リンさん。よろしくお願いします」
ノアは頭を下げ、その姿をどこかまじまじと見つめていた。
「なんだか、セイラさんってお姫様みたいっすね。雰囲気というか、・・・リンとは違う世界の人みたい」
その言葉には、どこかキラキラと憧れを含まれているようで、リンは健やかな笑みを浮かべている。
つられるように、ノアも笑顔になり、二人は馬車へと向かった。
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当然、席などがあるわけもなく、ノアと私は荷台の貨物と一緒に積まれるように乗っている。
荷台の中は、鉄と火薬の匂いで溢れ、頭が痛くなりそうだ。周囲は布で覆われて外の様子は何も見えない。下の方に、ほんの少しの隙間はあるが、なにがあってどこを通っているのか全く分からなかった。
「ねえ、フェニ。これからジャクオンっていう街に行くそうよ。どんな所なのかしら。私ね、実は生まれて一度も旅というものをしたことがないの・・・。
前に、機関車でガールディアに行った時も初めてだった。きっと、私って何も知らないのよね」
そうか。
思い返すと、ミストリアの城にいた時は、部屋で過ごすか、たまに敷地内の庭を歩くくらい、城下に行くことすらなかった。
毎朝、私の絵を描いていたな。
気がつけば、かなり昔のことのようだ。
「なんだか、ずっと遠くに来たような気がする」
思わずノアの顔を見た。
私の心の声が聞こえたのかと思ったからだ。しかし、今の私は人の声を持たない鳥のまま。
偶然、通じたのだな。そう思った。
荷台は揺れ、私たちを運ぶ。
ノアは気がつけば寝息をたて、私は静かに目を閉じた。




