使者たちが運ぶもの 2
「でだ。つまりお前は駅に行きたいと、それは分かったが残念ながらこっからは行けない」
カーリナは、そう言いきると私の頭を乱暴に撫で回す。その度に私は首を振り、避けようとしているのだが、カーリナは余裕そうに笑いながら、しかし、ガッチリと体を掴まれて逃げられなかった。
ノアは心配そうに、そんな私を見ている。
「そ、そうですか。道をまちがっていたのですね。・・・そっか」
「なあに、落ち込むことはない。ただお前が方向音痴なだけだ!」
「うっ」
ノアは短い声をこぼして、しょんぼりと俯かせた。
それを見て、カーリナは豪快に笑っている。
先ほどまで殺伐とした空気のテント内だったが、今ではどこか柔らかく、和んでいるようで、それは、カーリナの威圧的だった雰囲気が変わったからだろう。
今こうして撫でられているが、不快な気分なのと同時に、直感的にこの女は猛者だと感じるものがあった。
「あっ、あの・・・。そろそろフェニを返していただいてもいいですか? その、フェニも、少し疲れてそうというか」
「んん? いや、もう少し」
「え! あ、返して」
「あっはは! 冗談だ。ほら、主人にお帰り」
カーリナは私をテーブルに置いた。
体に解放感があって、すぐに跳ね歩きながらノアの元へ行き、手に飛び乗った。
ノアも安心したように、ホッと息をついた。私を顔に寄せて小声で「ごめんね」と言った。
「よしっ! それじゃあ、お前に選択肢をやるか」
「選択肢? それって」
「言葉通りの意味だよ。
いいか、ガールディアの駅にはここからじゃ行けない。お前たちが来た道を戻らない限りな。
そして、まあ距離は遠いがライターンっていう街には行ける。
それでだ。私たちが向かう目的地は、そのライターンが通り道でね。一緒についてくるか。
それか、自分で山を越えてガールディアに引き返すか。どっちか選びな」
「え!? あ、あの、私たちを連れて行ってくれるのですか?」
「おいおい。ちゃんと聞きな。連れていくなんて言ってない。お前が私たちについて来るか聞いただけだ。都合の良い乗り物だと思ってるなら勘違いだ」
「・・・」
ノアは考えて込んでいて、しばらく黙った。手の上の、私を見ている。
どうしよう。そう聞かれているようだった。
山を引き返すのは、体力的にも、自分たちの物資的にも厳しいと思う。だが、このカーリナという女が信じられるのか、それに、まだこの集団がなんの組織であるのかも分かっていない。
どちらが安全で、どちらが危険なのか。
どちらを選べば、ノアを護ることができるのか。
「わかりました。・・・その、ライターンという街まで、私たちもついて行かせてください」
そう、力強く言った。
この決断が、どう左右するのか、それはまだ分からない。
「よしっ! いいだろう。よく決めた!
いいか、これから決断する時は、早く、正しいものを選びな!」
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ガールディア城 王の間
実に滑稽だと、神の目には映る。
なかなか自身を神と自称しないのだが、その方が分かりやすいだろう。
【クカカ、いや、しかし滑稽だ】
このガールディア帝国の国王だったゴートという者は死んだ。殺され、今はキッパーという男が王の椅子に座っている。
王の椅子の前には二列向かい合うように長いテーブルが並ぶ。そこには数人の違う顔が座っている。
「何をしているのか!!
まったく無能な者ばかり、たった一人の女と男を捕らえることもできないとは!」
椅子の手すりを叩き、激昂するが、一番近くに座る一人が、落ち着かせるように言った。
「国王代理、落ち着いてください。
厳戒態勢は敷いています。それよりも七日後の緊急大陸会議の件、どうするかを考えないと」
「ふんっ! 分かってる。だがそんなもの、どうとでもなるだろう!
世論はゴート王、いやゴート前国王を殺したノア・フィーンデルテと従士の処刑を求めている。さっさと捕まえろ!
私の前に連れてこい!」
キッパーはそれだけ言うと、憤りを隠すことなく、椅子から立ち、王の間を出ていった。
残された者たちは、その姿を見送ると、肩を落とした。
「まったく、あれはただの代理だろうに、やはり権力は人を狂わせるな」
手を開き、お手上げだと呆れ顔で言うのだが、対面する若い男はそれを睨みつける。
「おい、それでも今の王はキッパー様だ。その不服そうな発言、たとえ王がいなくても慎め」
「王? 国王代理だ。
ふん! お前は以前奴の部隊だったか。・・・それで信頼してるかもしれんが、今後の外交は奴が担うんだぞ、それなのに罪人を捕まえることに躍起になって」
「それはっ! ゴート王の死を惜しむ者もいるのだから。民の無念を晴らすために、力を入れるのも当たり前だろう!」
「・・・死を、惜しむねえ」
【クカカ】
ゴート王の死後、城内権力者から選出された数名の中で、代理を務める者の投票が行われた。
さらに、その中の有力候補であった。
『キッパー・ジャダン』
『ワルカ・ロトプ』
この二人が票を競り合った。そして、辛うじてキッパーの票が多く集まったことで、国王代理として決まったのだ。
ただ、決まりはしたが、そこは人間、いや神であっても同じようなものか、すんなりと、まとまるかといえば、そう上手くはいかない。
王という絶対権力が、宙に浮いた状態の今、我こそはと狙う者は確実にいるのだから。
【クカカ、しかし、興味本位で奴に目をつけて、機会を与えてやったが、思いの外、楽しませてくれそうだな】
この大陸を分かちながら担い合い、納める勢力国家、その四ヶ国の王が集まる。
『大陸会議』それが来週に差し迫る。
【さて、あいつらはどうなるかな?
・・・いや、何も関わらず過ぎていくかもしれない。しかしこの、分からないことが、楽しみだよ。
クカカ、やはり穢れの中に娯楽はあるのだな】




