最終話 旅立ち
トンガリ帽子の巨人は、亜光速で宇宙を駆ける。
その背後を三隻の宇宙戦闘艦が、決して逃がさぬと猛追していた。
「しつこいな。ちっとも振り切れない」
操作パネルに忙しなくタッチ入力しながら、アリィは独り言を呟く。ウィッカの軍との光に近い速さの鬼ごっこは、彼是もう三時間も続いていた。
「アリィ……」
「何?」
「ごめんなさい」
操縦室に二席あるシートのうち、もう片方にはアシスト程度には操作技術を身に着けたアスタが座っている。都市を襲撃したあの日から、およそ二ヶ月が経っていた。
「結局、あたしのしたことは、知りたくもない真実をあなたに突き付けただけだった。気付かなければずっとそこにあった希望を、あたしが粉々に壊してしまった」
自分の出自のことを言われている。細かな説明はなかったが、アスタが何について誤ったのかアリィにはわかった。
「敵艦の攻撃、来るよ」モニタから目を離さないまま、アリィが言う。「着弾まで後三、二、一――」
ガガガと、機体が大きく揺れる。敵の荷電粒子砲は電磁盾で防いだはずだが、それでも大きな衝撃があった。
「いいんだ、アスタ」
操作パネルに応戦のコマンドを打ち込みながら、アリィは言った。
「確かに、これまでの自分のゼロはどこにもなかった。――それなら、これからのイチをどうするかは自分自身で決めるよ」
ピレネーが放った粒子砲が命中したのか、後方で大きな光球が上がり、敵艦の一隻が宇宙の闇へと沈んでいく。
「――そのためにも、生き延びよう、アスタ!」
予想外なアリィの前向きな言葉に一瞬躊躇した後、アスタは笑顔を作って大きく頷く。
「ええ、アリィ。一緒に行きましょう。あなたとあたしたちがしっかりと生きられる場所まで」
トンガリ帽子の巨人はもう一段階スピードを上げ、徐々にこちらを追う敵艦隊を引き離していく。
人造人間を一人とジョシュ族の少女たちを体内に乗せた巨人は、宇宙の遥か彼方へ向けて進んでいった。
(了)