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要点だけ掻い摘まんで記してみた追放・ざまあなお話

作者: よぎそーと
掲載日:2021/02/02

「嫌だよ」

 荷物持ちは即座に断った。

「なんでお前らの所に戻らなくちゃならねえ?」

 そう言って呆れながら、目の前にいる連中を見る。

 そこには荷物持ちが以前所属していた集団の者達が揃っていた。



 戦士に斥候に治療術士に戦闘魔術師。

 模範的な迷宮探索者の集まりだ。

 もっとも基本的な職業の組み合わせで、だからこそ短所がない。

 その分長所もないが、隙間のなさが最大の強みとなる。



 しかもその集団、この界隈では有名人である。

 いや、この近隣だけでは無い。

 国で知らぬ者の無いほどの有名人だ。



 一行は国内最精鋭と呼ばれる者達である。

 最も凶悪と言われる地下迷宮に挑み、しかもその最も深い所まで潜入してるのだから。

 それだけでも実力が知れるというもの。



 だから彼らはこう呼ばれている。

『勇者』と。



 勇者とは、戦士や魔術師といった職業の呼び名では無い。

 功績優れた迷宮探索者者におくられる称号である。

 凶悪地下迷宮の最奥に近いところにいる彼らにふさわしいものだ。



 だが、それもつい先日までのこと。

 今は、その勇者の称号を失いかけてきている。

 理由は簡単だ。

 勇者としての力量を発揮し切れてない。

 これに尽きる。



「探索、行き詰まってるようだな」

 そんな彼らに荷物持ちが声をぶつける。

「今まで到達出来ていたところに行けない。

 それどころか、その手前の場所で足踏みをしてる」

「そうだ、その通りだ」

 勇者達のリーダーである戦士が頷く。



「モンスターは問題ないんだ。

 今まで通りに倒せる。

 だけど、そこから先に進めないんだ」

「ふーん」

「それで俺たち考えたんだ。

 どうしてこうなったかって」

「それで?」

「ああ、不調になったのがいつからなのか。

 どうしてこうなったのかを考えて。

 それで分かった事がある」

「なにが?」

「お前が抜けた日。

 その日からおかしくなったんだって」



 それを聞いて荷物持ちは肩をすくめた。

「だから?」

 それでいったいどうしたというのか?

 話を聞いてる荷物持ちにすればどうでもいい事である。

 目の前の勇者共がどうなろうと。

 だが、戦士はそんな荷物持ちの気持ちなぞ全く頓着せずに続ける。



「正直、何がどうしてここまで調子が悪くなるのか分からない。

 けど、お前がいるかいないかで変わってる。

 だから、そこに理由がるんだと」

「そうか」

 心底うんざりしながら荷物持ちは応じる。

「だからなに?」

 荷物持ちにすればどうでもいいことである。



「おい、なんだその態度」

 先ほどから戦士の後ろに居た斥候がすごんでくる。

「こっちは真面目に話してるんだぞ。

 そんな態度はないだろ」

「おい、やめろ」

 戦士がそれを止める。

「今、話をしてる最中だ」

 そういって斥候を下がらせる。

「すまない、気が立ってるんだ。

 許してやって……」

「ふざけんな」

 戦士の声を遮って荷物持ちは口を開く。



「臭い芝居してなに言ってる。

 そんななんでごまかすな」

「…………何を言って」

「善玉と悪玉だろ。

 わかりやすい芝居してんなよ」

 そう言われて戦士と斥候は顔をゆがめる。



 善玉と悪玉。

 わかりやすい交渉方法だ。

 片方がきつい事を言って、片方が甘い事をいう。

 そうやって相手を操縦する。

 使い古された手だが、それなりに効果的だ。

 だが、分かっている相手には通じない。

 今の荷物持ちのように。



「だいたい、お前らなんぞ相手にしてやる理由なんかないだろ」

 荷物持ちからすればそうとしか言い様がない。

 何せ、彼は目の前の勇者達から一方的に追放されたのだ。

「そんな奴のところに来てなんのようだ?」



 荷物持ちからすれば噴飯やるかたない。

 言いがかりとしかいいようがない理由での追放である。

 ふざけるなとしか言い様がない。



「まさか、また俺に加われとか言うんじゃないだろうな」

「その通りだ」

 戦士は即答する。

「お前に戻ってほしい」

「死ね」

 荷物持ちの返事もまた即座に、そして容赦のないものだった。



「俺はもう別の所で働いてる。

 そいつらと上手くやってる。

 お前らと一緒にやる必要は無い」

 それが答えの一つだった。



 今の荷物持ちは、別の者達と共に地下迷宮に挑んでいる。

 そこで他の者達と上手くやっている。

 別の所にうつる理由が無い。

 それに。



「俺はお前らが嫌いだ。

 なんで一緒にやっていかなくちゃならん」

 これが最大の理由である。

 つまりは気分や感情による理由である。



「お前らが勝手に俺を追い出したんだろ。

 だったら、俺が何しようが俺の勝手だ」

「それは……」

「少なくともお前らに言われる筋合いはない」

 その通りである。

 勝手に追放した。

 そして今度も勝手に戻ってくれという。

「どこまでも自分勝手だな」

 そこに荷物持ちへの労りや思いやりはない。



「まあ、そう言うな」

 後ろにいた治療術士が口を挟む。

「過去のことにこだわっていたら……」

「都合の良いこと言ってんじゃねえ」

「いや、都合の良いことじゃなくてだな」

「都合の良いこと言ってんじゃねえ」

「だからそうじゃなくて」

「都合の良いこと言ってんじゃねえ」

「あのな、話を……」

「都合の良いこと言ってんじゃねえ」



 何か口を挟もうとした治療術士に同じ言葉をかぶせつづける。

 丸め込もうとしてるのが見え見えだったからだ。

 相手にしてるのも馬鹿らしい。

 だから同じ言葉を繰り返す。

「都合の良いこと言ってんじゃねえ」

 それに気勢を削がれたのか、治療術士は口をつぐむ。



「だがな、お前がいると助かるんだ」

 戦士が再び口を開く。

「だから頼む」

「邪魔だ、消えろ」

 にべもない言葉を叩きつける。

「けど……」

 なおも言いつのろうとする戦士。

 そこに荷物持ちの後ろに居た者達が乗り込んでくる。



「いい加減にしろ、こいつは俺たちの仲間だ」

 軽装の斥候が声をあげる。

「だいたい、さっきから何様だ?

 俺たちがいる所に勝手に突っ込んできて」

「邪魔しないでくれ」

 勇者側の戦士はその声を遮る。

「今、彼と話をしてる」

「ふざけんな」

 斥候は何一つ引き下がらない。



「そいつは俺達の仲間だ。

 お前の勝手なんか通じるかよ」

 それが全てである。

 荷物持ちが仲間と一緒にいるところに勝手に割り込んできた。

 それは勇者の方である。

 しかも、仲間の前で勧誘をしかけてる。

 面白いはずがない。



「さっさと失せろ」

「話をしてる、それが分からないのか?」

「話は終わってるだろ」

 斥候は更に強く言う。

「荷物持ちはお前らを断ってる。

 それなのに言いがかり付けてるのはお前らだ」

 これまた事実である。



 荷物持ちはとっくに意思表示をしている。

 それを無視して話を続けてるのは、勇者達である。

 どちらが非礼で無礼なのか。

 その答えは言うまでも無い。



「それともなにか。

 勇者って言われてんなら、何やってもいいと思ってんのか?」

「話の邪魔をするな」

「いい加減にしろ」

 そう言って勇者側戦士の肩を掴む。

 そのまま勇者側戦士を放り出す。

「な?!」

 あまりの事に勇者側戦士が驚いた。



 戦士と斥候。

 単純な戦闘力を見るなら、その差は明らかである。

 戦士が文字通り戦うことを旨とする者であり。

 斥候は偵察や潜伏を旨としてるのだ。

 正面から戦えば戦士が勝つに決まってる。

 にも関わらず。

 今、荷物持ちの仲間の斥候は、勇者側戦士を投げ飛ばした。



 力量差がなければ出来ない事である。

 つまり、荷物持ちの仲間の斥候は、勇者側戦士を上回る戦闘力があるという事だ。

 その事をすぐに察した勇者達は、緊張を顔に走らせた。



「さっさと失せろ」

 斥候は静かに通告する。

「それとも、最後までやるか?」

「……町中での争いは御法度だぞ」

「だからなんだ?」

 斥候は気にするそぶりも無い。

「衛兵が飛んでくるとでも?

 かまわんぞ。

 一緒に蹴散らせばいい」

「な…………?!」

 あまりのものいいに、勇者達は絶句する。



 衛兵を呼ぶ。

 その意味は大きい。

 衛兵が強いからではない。

 その背後に政府が、そして国王がいるからだ。



 究極的には、衛兵は国王によって治安をまかされている。

 それに逆らうという事は、国王に楯突くのと同じだ。

 衛兵に非があるならともかく、そうでないなら、これは国そのものを相手にする事になる。

 そうなった場合の事を考えれば、無駄な争いは避けるのが無難だ。

 だから荒くれ揃いの迷宮探索者といえども、衛兵に喧嘩を売るような事は滅多に無い。



 それを荷物持ちの仲間の斥候は気にする事もない。

 それどころか挑発までしてきている。

 更に、

「言っておくけど、俺たちも同じだ」

「黙ってみてるつもりは無い」

「やるのか?」

 荷物持ちと一緒にいた他の者達も立ち上がってくる。



 いずれも、戦士、治療術士、戦闘魔術師だ。

 これまた模範的な迷宮探索者の編成である。

 攻守共に揃っており、隙がない。

 そんな彼らが荷物持ちの背後から立ち上がってきている。



「さっきから勝手な事を言ってたな」」

「いい加減、俺らも腹が立ってる」

「いつでもいいぞ。

 なんなら、ここを吹き飛ばすくらいはしてもいい」

 真顔でそんな事を言っていく。

 本気でそう考えてるのがうかがえた。



「本気で言ってるのか?」

 さすがに勇者も引き下がれない。

「俺たちは勇者だ」

「それがどうした?」

 答えは変わらない。

「勇者だからなんだ?」

 それは知っている。

 知っていてここまでやってるのだ。



「……失礼する」

 そう言ったのは勇者の方だ。

 さすがにここで騒動を起こすのは気が引けた。

「今日はこれで帰る」

「今日は、じゃねえよ」

 荷物持ちは苛立ちと怒りを隠さずに言う。

「二度と来るな」

 その声に答えはなく、勇者達は黙って帰っていった。



 その後しばらくして。

 こちらも探索者協会をあとにした荷物持ち達。

 その顔には、いまだに不満がくすぶっている。

 先ほどの勇者達の態度に、いまだに腹を立ててるのだ。



「本当にどうしようもねえな」

 斥候が呆れたように声を出す。

「追い出した奴って、どうしてああなんだろうな」

「まったくだ」

 戦士が隣で頷く。

「追い出したくせに、後から戻ってこいなんてな」

「どうかしてるよ」

 治療術士がぼやき、戦闘魔術師が無言で何度も頷く。



 ここにいる者達は、全員追放経験者である。

 いずれも、探索者として活動し、そして追い出された。

 その理由はほぼ共通。

『おまえはいらない』

『無能はいらない』

 おおむね、こんな所だ。



 その後、荷物持ちらと合流し、追い出された者同士で組んでいる。

 似たもの同士、上手くやっていこうと。

 あとは迷宮での稼ぎでそこそこの生活が出来ればと思っていた。

 しかし、そんな彼らの思惑は違った方向に裏切られる。



 確かに追放はされた。

 しかし、それが彼らの無能の証明にはならない。

 曲がりなりにも、世界最悪と言われるような場所で活動していた者達だ。

 最高ではなくても、相応の実力はもっている。



 最強の迷宮でも活動出来るくらいの能力はある。

 さすがに一番深いところまで行けるほどでは無かったが。

 それでも、そこそこの所までは余裕で踏み込むことが出来た。

 そこで研鑽を積み、今や彼らはかなりの実力者と目されている。

 それこそ迷宮探索者の上位に食い込まんとするほどに。



 そんな彼らだけに、古巣からの呼び戻しも度々あった。

 その都度、彼らは相手を突き飛ばしていった。

 不当に追い出しておいて、戻れとは何事かと。



 彼らの憤りはそれだけ大きかった。

 何よりも怒りに火を付けたのは、呼び戻しにきた連中の言い様である。



「なにが、

『お前も悪いところがあった』だよ」

「自分らに問題が無いと思ってんだろうな」

「ふざけやがって」

 これが一番の理由である。



 問題があるのは、追放された者達だ。

 これが、呼び戻しにきた連中の言い様である。

 納得が出来るわけがない。



「『そんな力があるとは思わなかった』だっけ」

「『なんでもっと早く言ってくれなかった』もあるぞ」

「『お互いのわかだかまりは水に流そう』なんと言ってたな」

「『大人になれ』も忘れちゃいけない」

 だいたいにおいて、こんな事を言われた。

 これらの言わんとするところは一つである。



 追い出された者に問題があった。



 ただその一点を形を変えて口にしてるだけである。

 また、喧嘩両成敗に持ち込もうとしてるのも腹が立つところだ。

 一方的に悪いのは、不当に追い出した方である。

 それがなぜ、お互いに、という事になるのか?



「俺たちが一方的に損してるじゃねえか」

 吐き捨てる斥候の言葉が全てを物語っている。



 非があるのは追放した方である。

 それが、お互いにとなれっば、追放された者達にも非がある事になる。

 なんでそんな事になるのか?

 まったく理解が出来なかった。



「そうやって、自分達は悪くねえって事にしたいんだろうな」

「ふざけやがって」

「誰が戻るか、バーカ」

 口々に思いの丈を述べていく。

 それでも憤りがおさまる事は無い。



 そんな仲間の言い分を聞いてた荷物持ち。

 彼はそんな仲間に、

「なあ──」

 一つの提案をしていく。



 それから一年。



「う……」

「ぐ……あ」

「な…………」

「…………」

 そんなうめき声が迷宮の奥深くであがっていた。

 声も出せず、荒い呼吸を繰り返すだけの者もいる。

 そんな彼らは、倒れ伏した床からここまでした相手を見上げる。



「ざまあねえな」

 這いつくばって見上げる連中を、荷物持ち達は見下ろす。

「それでも勇者か?」

 心底馬鹿にした口でそう告げる。

 実際、情けないものがあった。

「それでも、探索者最強かよ」



 勇者ならば、そう呼ばれるにふさわしいものを持っていなくてはならない。

 少なくとも、探索者全体で頂点に立つくらいの。

 だが、そんなあるべき姿を目の前の勇者達は見せてない。

 無様に這いつくばって、全滅を待つだけの姿。

 それは、勇者にあってはならないものだった。



「で、どんな気持ちだ?

 格下と思ってた奴にやられる気分は」

「ご……あ……」

 そういう荷物持ちは、倒れ伏す勇者側戦士を醒めた目で見下ろす。

 かろうじて苦悶の声をあげるだけの勇者を。



 それは一方的な戦いだった。

 戦いとすら呼べないものだった。

 虐殺や殲滅。

 そう呼ぶしか無いものだった。



 勇者側の戦士の攻撃は、敵に一切通用せず。

 身軽さで敵の死角をぬって接近しようとした斥候は遮られ。

 治療術士の回復すら追いつかぬ打撃を受け続け。

 戦闘魔術師の攻撃魔術は、より大きな攻撃魔術によって吹き飛ばされた。



 その他、何から何までかなうところが無かった。

 格が違うというのだろうか。

 土台となる強さが違う。

 それはもう、仲間の連携でどうにか出来るようなものではなかった。



 何より、仲間の連携という面でも敵に負けていた。

 攻撃にしろ守りにしろ、その動きのなめらかさは敵の方が上だった。

 勇者達が勝つ要素が全くない。



 そこまでした敵に、勇者は最後の力を振り絞って聞く。

「なん……で……」

 それが何についての疑問なのかは分からない。

 だが、それに荷物持ちは応える。

「お前らに攻撃をした理由か?

 お前らが俺たちの敵だからに決まってるだろ」



 一年前のあの日。

 勇者に復帰を強請されそうになったあと。

 荷物持ちは仲間に呼びかけた。

「これから迷宮にこもらないか?」



 町にいれば勇者などと顔を合わせる。

 仲間と一緒に行動してればいいが、単独でいたらどうなるか分からない。

 また、それは他の者達にも言える。

 全員、追放してきた古巣につきまとわれている。

 その古巣が何をしでかすか分からない。



「このまま町にいたら、どこで何をされるか分からない」

 強制連行、最悪の場合殺される可能性もある。

 奴らが逆恨みを抱いていたらそうなる。

 そして、その可能性は非常に高いといわざるえない。

 我が儘で自分勝手なのだから。

「だったら、町にいるより迷宮の中のほうがマシだ」



 普通であればありえない話として一蹴するだろう。

 だが、荷物持ちにはそれなりの勝算があった。



「────というわけだ」

 その説明をして荷物持ちは返事を待つ。

 仲間はその言葉に驚きはしたが、否定はしなかった。

「なるほど」

「確かに」

「まあ、それなら」

 いずれも乗り気にはなっているようだった。



 その案は即座に採用となった。

 そして、すぐに実行されていった。

 荷物持ち達は町にいる他の仲間にも声をかけていく。

 迷宮に出向いてるのは彼らだけではない。

 総勢85人に及ぶ仲間で挑んでる。

 その全てに声をかけ、一気に行動に移っていった。



 そうして夜のうちに地下迷宮に突入。

 そのまま最奥へと目指していく。



 以降、一年にわたり迷宮に入りっぱなしである。

 その間の食事は、倒したモンスターから得られる核石を用いていた。

 モンスターの生命源であるそれは、魔力の塊である。

 それを持ち帰って換金することで探索者は生計をたてる。



 だが、それだけではない。

 経験値という形でとりこんで、自身の成長を促す事も出来る。

 更に、こちらはあまり知られてない方法だが。

 食料として用いる事も出来る。



 厳密に言えば、食べるわけではない。

 核石に蓄えられてる魔力を、生命力として吸収するのだ。

 これにより、食事の必要もなく生きていく事が出来る。

 ただ、こういった用い方はあまり有名では無い。

 多くの場合、換金や経験値として利用されるからだ。



 荷物持ち達はこの方法を用いた。

 町に戻るつもりは既にない。

 ならば、換金なんて考える必要がない。

 食料として、経験値として核石を用いていけばよい。



 用途がしぼれた分だけ、より効率的に使えるようにもなった。

 食料として使うなら、さほど核石は消耗しない。

 その分、経験値として用いていく事が出来る。



 おかげでこの一年、荷物持ち達のレベルは格段に上昇した。

 日がな一日、ただひたすらにモンスターを倒し続けたのだ。

 得られる核石の数も相応に増えるというもの。



 唯一の難点は、衣服や装備品の消耗だ。

 また、体の汚れなども問題になる。

 ただ、衣類などは魔術による強化で耐久性をあげて対応する。

 体の汚れは、魔術で水を発生させてそれで体を拭くといった事で対処した。



 その結果。

 荷物持ち達のレベルは急激に上昇した。

 それこそ、勇者などをはるかに追い抜くほどに。



「それでもなあ」

 勇者達を見下ろしながら呆れる。

「ここまで弱かったか?」

 それが正直な疑問だった。

 それだけのレベル差があるのは確かだ。

 しかし、荷物持ちが言いたいのはそういう事ではない。

「こんな上層まで後退して……」



 勇者達が活動していたのは、かつての迷宮最前線ではなかった。

 荷物持ちが参加していた頃よりはるかに上層、入り口に近いあたりにいた。

 それでも、他の探索者達よりは深いところまで潜り込んでいるのだが。

 最盛期に比べれば後退している。



「何があったのかは、聞かなくてもわかるけど」

 そう言いながら、勇者の後方に目を向ける。

 そこには、勇者と共にやってきたであろう、彼らの仲間の無残な姿があった。



 荷物持ちが気になったのは、後方要員の少なさだ。

 一般的に戦闘要員と言われる戦士・斥候・回復術士・戦闘魔術師が多い。

 荷物持ちなどの後方要員はそれに比べて少ない。



「やっぱりあれか?

 戦闘力増強で戦闘要員を増やしたのか?」

 そうとしか思えないくらいの偏重ぶりだった。

 荷物持ちが最適と思える比率からかけ離れている。



 荷物持ちとは、探索者の雑用係である。

 文字通りに荷物を持っていくのが基本だが。

 それ以外にも、野外生活に必要な様々な部分を賄いもする。



 これは、迷宮の奥に行くに従って重要になる。

 何せ、迷宮の奥に行くとなれば、かなりの距離を進まねばならない。

 長期間にわたる野外生活を強いられる。

 それをどうこなすかで、迷宮探索の成否が変わる。



 荷物持ちが居た頃の勇者達は、そこを考えて部隊編成をしていた。

 というより、荷物持ちだけが適切な部隊編成をしていた。

 後方要員を重視し、長期的な展開を可能としていた。

 ただ、その分戦闘力は落ちるのは否めない。



 そこが勇者達には気にくわなかったようで。

 直接的な戦闘力を上げようとする勇者達とは、そこが折り合わなかった。



 これは、勝つことを重視する者達に見られる傾向になる。

 それは言うなれば次のようになるだろうか。



 常に全力────。

 休みをとらない────。

 効率を考えない────。



 いつも最大の力を出すよう求める。

 100メートルの短距離走で出す速度でマラソンをさせるようなものだ。

 そんな事出来るわけがない。

 やろうとすれば、最初の段階ですぐに潰れる。



 しかも、休みをとらずに延々と行う事を当たり前と思ってる。

 適度な休憩を入れねば人間はもたない。

 効率が落ちて、結局は無駄が増えてしまう。



 たとえば、人間の集中がもつのは、最大で二時間と言われる。

 この二時間というのが本当かどうかは分からない。

 だが、最大でこれだけというところが大事だ。



 最大で二時間としよう。

 ならば、それだけやらせるのがもう限界という事である。

 無理なく持続できる時間はそれよりももっと短い。

 それはもしかしたら、5分とか10分程度なのかもしれない。

 それを最大値で行えば、誰もがすぐに潰れていく事になるだろう。



 つまりは、効率的な動きを考えない。

 長丁場における力配分を考えない。

 常に全力を出すのを当然と思い込んでいる。



 この思い込みが勇者にもあった。

 常に最大最高を求める。

 全力であたる。

 だから持久力がない。



 短期決戦ならそれでも良いだろう。

 しかし、迷宮探索は短期決戦ではない。

 何日も、何十日にも及ぶ長丁場の勝負だ。

 一回一回の戦闘はそれほど長くはならなくてもだ。



 そして、短い戦闘でも、それが連続すれば疲弊は大きくなる。

 戦闘が終わった直後にまた戦闘となっては、疲れも大きくなる。



 それではダメだと荷物持ちは思っていた。

 口に出しもした。

 しかし、勇者が聞くことはなかった。

 それでも、どうにか継続した活動が出来るよう、後方要員は確保していたのだが。

 その後方要員がかつてより激減している。



「馬鹿だなあ」

 本当にそう思う。

 本気でそう感じる。

 心の底から、勇者といわれた者の愚かさを感じる。

「そんなんだから、何も出来なくなるんだよ」



 勇者はそれに何も言い返せない。

 言い返すだけの力がなくなってきている。

 大量の出血と、臓器すらも破壊されたせいで。

 それだけの傷を彼はおっている。

 それでも生きてるのは、レベル上昇によって能力が跳ね上がってるからだ。

 普通の人間なら、とっくにお陀仏になっている。



「まあ、安心しろ。

 すぐに仲間をあの世に送り込んでやる」

 どういう事だと勇者は思った。

「お前以外にも邪魔はいるからな。

 俺らにちょっかいをかけてた連中が。

 それもまとめて処分する」

 うめくことも出来ないほど疲弊した勇者は戦慄をおぼえた。



「あれから一年、みんなと話あったんだけど。

 やっぱりお前らが邪魔なんだわ」

 それを勇者は倒れ伏したまま聞いている。

「で、それなら根こそぎ無くすしかねえよなってなってね」

「そうそう」

 いつの間にかやってきた荷物持ちの仲間が続く。



「このまま帰っても、またやってくるだろうし。

 それならいっそ処分しちまった方が早い」

「衛兵とかが黙ってないだろうけど、それもついでに片付ける事にしたよ」

「なんなら、国一つ相手にしたっていい」

 恐ろしい事を平然と言ってのける。

 そんな事出来るわけがない、勇者はそう思った。



 いくら探索者がレベル上昇で強力になるといってもだ。

 それで国一つを相手に出来るわけがない。

 迷宮で鍛えてるのは探索者だけではない。

 王国の騎士団などだって、迷宮でレベルを上げている。



 そのレベルは、勇者達におよばないにしてもだ。

 一般的な探索者に引けを取らないくらいの強さをもってる。

 そんな騎士が何千と揃っているのだ。

 戦えるわけがない。

 戦って勝てるわけがない。

 そう思った。

 なのだが。



「この奥にいる魔王も倒したし」

 信じられない事が勇者の耳に入った。

 それは迷宮の奥に居る存在で、迷宮内で最強のモンスターである。

 それを倒したなど、簡単に信じられるわけもない。



 だが、そうであるならば納得も出来た。

 荷物持ち達の強さがだ。

 それは勇者達をはるかに凌駕するものだった。

 それを我が身で知った勇者は思う。

 もしかしたら、本当にそうなのかもと。



「それに比べれば、迷宮の外にいる連中なんて大したことはないだろ」

 確かにその通りだ。

 いくら何千という高レベルの騎士が揃っていてもだ。

 魔王にかなうとは思えない。

 そして、魔王を倒せるほどの者達なら、騎士団を一掃するのはわけないだろう。



「だから安心して死ね。

 仲間を後で追加してやるから」

 その声が人としての勇者の耳に届いた最後の言葉だった。



 その次の瞬間。

「じゃあ、これからは俺たちの為にがんばってくれ。

 ゾンビとして」

 勇者達の死体には魔術がかけられた。

 生命を死霊として操る術が。



 かくて勇者達の霊魂は死体の中に取り込まれ。

 死体の動力源として使われていく事になる。

 やがて霊魂が摩耗しきって消滅するまで。

 あるいは、何かしらの方法で霊魂が解放されるまで。



「さて」

 勇者達を始末した荷物持ちは、そこで仲間に振り返る。

「行こうか」

「おう!」

 元気の良い声が応えた。



 そこにいるのは様々な追放者だった。

 探索者から追放された者。

 村から追い出された者。

 商店から追い出された者。

 工房からたたき出された者。

 濡れ衣で武家から追い出された者。

 仕組まれた謀略で貴族からおい落とされた者。

 派閥抗争の巻き添えで、学問の府を追い出された者。

 ありとあらゆる追放者が揃っていた。



 そんな彼らの目的は一つ。

 不当な理由で自分達を追い出した者への復讐。

 その為に地下にこもり、魔王すら倒した。

 あとは、本来向けるべき復讐対象に、抱えてる憤りを叩きつけること。



 その為に彼らは進む。

 迷宮の出口に向かって。

 彼らにとっての凱旋をはじめる。



 それから更に一年。

 荷物持ち達の仲間は、全ての復讐を完遂する。

 その対象となった国は、広大な領土を不毛の砂漠とするほどに破壊された。



 今もその地に人はよりつかない。

 誰であろうと、接近すれば命を落とすからだ。



 だが、例外がある。

 不当な扱いを受けて追放された者達。

 そういった者達は受け入れられるという。

 そして、復讐者となって報復に来るとか。



 そうなるようになってから、追放は激減した。

 少なくとも、不当に追い出すような事はなくなった。

 そんな事をするくらいなら、さっさと抹殺するようになったからだ。



 だが、それすらもやがて無くなる。

 そんな事をしようとするとあらわれるのだ。

 どうやって察知するのか、それを阻む者達が。



 それ故に不当な追放はなくなった。

 理由がまっとうなものはこの限りではないが。

 それでも、理不尽な目にあうものは激減した。



「平和だねえ」

 世界でも最も最悪だった地下迷宮。

 その奥にある居室。

 かつて魔王がいたそこで、荷物持ちたちはダラダラと暮らしていた。



 時折起こる馬鹿げた事に応じて動く事はあったが。

 そうでない時はする事がない。

 生きていくだけなら、迷宮からあふれる魔力を吸収する事で生きていける。

 その為、生活のために働く必要がなかった。

 ついでに、寿命も大幅にのびている。

 何十年と時間が経過しても老化の気配がない。



 それは平和でよいことなのだが。

 やる事が無いと暇でしょうがない。

 迷宮の奥では娯楽もない。

「いっそ、世界でも征服しようか」

 そんな馬鹿げた事が口から出てくる。



 だが、そんな事をするような者はいない。

 やるのが手間だし、やる意味が無い。

 領土や資源が必要ないからだ。

 なので、国家存亡のために戦争を仕掛ける必要が無い。



 するとしたら、それこそ趣味でやるかどうかだ。

 幸いなことに、そこまで戦争が好きな者はここにはいない。



 というわけで、暇を持て余す事になる。

 これはさすがに誤算だった。

「どうにかならんかな」

 そんな事をぼやく毎日だ。



 彼らがそんな事を言ってる間は、世の中平和という証なのだろう。

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