第8話『テスト』
二日後。研修を終えたエイルは謁見の間に呼ばれた。
赤い絨毯に膝をつき、頭を下げるエイル。
そんな彼に、玉座につくアーク王が呼びかける。
「楽にしてよいぞ」
「はっ」
呼びかけられると、エイルはすぐさま立ち上がる。
背筋を伸ばしてまっすぐ玉座を見る彼に、アーク王はとても満足そうな表情を浮かべる。
「なるほど、スズの研修は大成功か」
呟きながら、頬杖をつくアーク王。
目を細めた彼は、まずは軽い話題から入っていく。
「ここでの生活は慣れたか?」
「はい。快適な生活を送らせていただいております」
「そうであろう? 我が輩の自慢の使用人たちのおかげだ」
得意げに胸を張って褒めたたえるアーク王。
彼の言葉に、謁見の間にいる使用人たちは、エイルも含めてとても誇らしげに礼をする。
するとアーク王は、エイルに少し気まずそうな顔をする。
「まあお前には、少々不満を抱かせているかもしれんが……」
苦々しく語るアーク王に、エイルもぎこちなく笑う。
あれだけ暴れたこともあり、王も反省していた。
少し気まずい空気が流れ、しんとする謁見の間。
それを打ち破るように、アーク王は姿勢を正して切り替える。
「ゴホン……改めてエイルよ、研修ご苦労だった。そんなお前に申し訳ないのだが、すこし試させてもらう」
低く威厳のある声に、エイルは拳をにぎりしめる。
アーク王が話しだした瞬間、その内容がマシェリの言っていた『テスト』であると、彼は確信した。
それを決定づけるかのように、アーク王は話を続ける。
「昨日、マシェリがもう一度あの国に行きたいと申し出た」
「あの国というのは、隣国ですね?」
「ああ、話が早くて助かる」
感謝を告げながら、なやましげに頭をかかえる王。
彼もエイルと同じく、マシェリの申し出に反対だった。
それでも一度、彼女にテストの内容を任せた以上、それを覆すこともできない。
暗い表情をする彼は、重々しくエイルに命令する。
「エイル・エスパーダ。守護者として、我が娘の護衛を命じる」
理解していた使命だが、いざ言われると緊張するエイル。
それでも彼は、のしかかる重圧を一切感じさせず、深々と頭を下げる。
「承りました。その使命、必ずや遂行させてみせます」
「エイル……すまぬ、貴様を少し舐めていたようだ」
即座にかえってきた返答に、アーク王も感心する。
一日前の晩にマシェリから直接頼まれたので、すでに覚悟は決まっていたのだが、それが知られたときのアーク王の暴走を予測し、エイルは口を閉じた。
そうとも知らず、王は何かに指示を出すように手を叩く。
するとエイルの背後にある大扉がゆっくりと開かれた。
扉の向こうから差す逆光の中に、二つのシルエットが浮かぶ。
「お呼びでしょうか、お父様」
普段の甘い声とは違い、凛とした口ぶりのマシェリ。
気品のあふれる彼女の姿に、エイルも思わず見とれてしまう。
エイルに歩み寄ってくる彼女のとなりには、彼とはあまり関わりのないミユウが続く。
そんな二人が彼に並ぶと、アーク王が改めて告げる。
「マシェリよ。お前の頼み、エイルは請け負うそうだ」
「そうでしたか。私は必ずや受けてくださると信じておりました」
返答しながら、マシェリはエイルのほうを向く。
彼女はアーク王に見えない角度で、お茶目にウインクした。
それに頷いたエイルが王を見ると、彼はミユウを指して続ける。
「初対面ではないと思うが、ミユウは今回の監視役だ。戦闘能力はほぼ無いに等しいが、いざという時はきっと頼りになるだろう」
紹介され、ミユウはエイルに握手を求める。
「あんまり絡みないけど、よろしく」
「ああ。今回の仕事、必ず成功させよう」
手をとり合った瞬間、ミユウのオッドアイが鈍く光る。
すると彼女は目を細め、小さな声で「なるほど」と呟いた。
意味深なその言葉に引っかかり、エイルは首をかしげる。
だがそれと同時に、アーク王は手を振り上げ、威厳たっぷりに声を張り上げた。
「馬車はすで用意してある。この任務、命に代えても遂行せよ!」
「「はっ!」」
王の勅令を受けた二人は、力強く返事をし、マシェリをエスコートして大扉へと歩きだした。
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