裏切りパーティの墜落(1)『新たな仕事と忠告』
王宮で多くの仲間をエイルが得た夜、彼へバッドステータスを押し付けたホプキンスたちは、薄暗い酒場で悪い笑みを浮かべていた。
ホプキンスは酒を片手に、二人の仲間に語る。
「呪いもすっかり無くなったから、さっそく仕事をとってきた」
「さすがリーダー! できる男は早いぜ!」
「なんの仕事なの? 早く教えてよ!」
せがむミザリーを制止し、ホプキンスは目を細める。
彼は口の前で指を組み、ひっそりとそれを明かす。
「匿名ではあるが、この国のある御曹司がモンスターを収集しているらしくてね。適当なモノを生きたまま百体ほど欲しいらしい」
「御曹司……誰だかわからねぇが、百体ってのは骨が折れるな」
眉をゆがめて不満そうに告げるババ。
しかしホプキンスは、そんな彼をバカにするように笑う。
「わざわざ俺が、面倒なだけの仕事を取ると思うかい?」
「じゃあどういうコトよ?」
「言っただろう、今回の依頼主は御曹司なんだよ」
得意げなホプキンスに、二人も察しがつく。
彼らは顔を合わせ、互いをギラギラと輝く瞳で見つめ合う。
ホプキンスはそんな彼らに口角を上げ、これまで以上に小さな声でつぶやく。
「報酬金は金貨千枚。しかも一人あたりだ」
彼の告げた金額は、ふつうの戦士が危険な依頼を一年は受けつづけなければ手に入らないような、莫大な金額であった。
報酬を明かされた二人は、思わずもれそうになる声を殺す。
彼らの反応を見たホプキンスは、言葉を続ける。
「うまくいったら、専属雇用も検討するらしい。どうだ、受けるか?」
「当たり前でしょう? 今からなに買うか考えないと……」
「一気に幸運が向いてきたって感じだぜ。やっぱアイツにバッドステータスを押しつけて正解だったな」
ババの発言に、ミザリーたちもクスクスと笑う。
エイルの不幸と自分たちの幸運を妄想し、それを肴に酒を飲み続ける。
するとそこへ、酒場のマスターが歩み寄る。
「どうしたんだい? もう注文する気はないのだけど」
「……あちらのお客様が、三人が気になると」
一言多いホプキンスを無視し、マスターは入り口近くの席を指す。
そこにいたのは、少し露出の多い占い師風の少女だった。
妖艶な雰囲気をかもす彼女に、ババは舌なめずりする。
残る二人も興味を持ち、彼らは少女のもとへ歩み寄る。
「どうしたの? 私たちが気になるって」
すると彼女は、伏せていた顔を上げ――オッドアイを覗かせる。
服装は変わっているが、少女は親衛隊のミユウであった。
彼女はやわらかな動きで頬に手をそえると、ミザリーの質問に答える。
「あなた達から、不思議な未来がみえたもので」
「未来? 占いってことかい? そうだね、ちょうど俺たちの運気は上がってきたところでね」
鼻高々に自慢するホプキンス。
しかしミユウは、彼の話に含み笑う。
「果たして、それはどうでしょうか?」
「……なに?」
「私がこの目で見たのは、あなた達の破滅の未来。いま引き返さないと、大変なことになりますよ?」
忠告するミユウの瞳が、様々な色で輝きをはなつ。
普通ではない彼女の雰囲気に、ホプキンスたちは委縮する。
だが彼は、反発するように無理やり笑い、ミユウを見下す。
「どうやらキミは三流占い師のようだね。俺たちは少し前に厄除けをして、大きな仕事が来たばかりなんだ」
「あら、そうでしたか」
「俺たちに不幸なんてありえない……わかったね?」
不機嫌そうに言い放つと、彼は酒場をあとにする。
置いて行かれた二人は、妖しい視線をはなつミユウをチラリと見て、ホプキンスのあとを追うように店を出る。
彼らの異様なやりとりに、店がシンと静まりかえる。
だがそのとき、ミユウは緊張の糸が切れたように背伸びをし、机に頬杖をついてうなだれた。
「もう知らないよーだ。ちょっとはマシな未来にしてやろうと思ったのに」
唇をとがらせ、不満げにつぶやくミユウ。
そんな彼女にマスターは冷たい視線を送る。
するとミユウは、自分が注文していないことに気づき、あわてて手をあげる。
「ジョッキでミルクと、あとビーフジャーキー!」
食べ合わせの悪そうな注文を受け、カウンターに入るマスター。
ミユウはそれにホッとすると、軽く視線をあげる。
「まあいいか。今は姫様の〝見えない未来〟を、エイルくんが切り開いてくれることを祈ってサポートすれば」
小さな声でつぶやくと、彼女の前にドガッ! と大きなジョッキになみなみと注がれたミルクが置かれた。
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