第5話『妖刀使い、守護者になる』
エイルの宣言に、謁見の間の空気が変わる。
彼の言葉に開いた口がふさがらないアーク王。
そしてマシェリは、頬を真っ赤にして恍惚とする。
「そんなに私を想ってくださるなんて……っ!」
「や、やめろマシェリ! そんな顔をしないでくれ!」
乙女の顔をするマシェリに、アーク王は声を上げる。
自分を落ち着かせるため、ひときわ大きく咳こんだ彼は、エイルに疲弊した視線を向ける。
「我が輩はいま、とても混乱している」
感情を正直に語り、頭をかかえる王。
彼はまばたきを多くしつつ、胸の内をたとえる。
「我が輩の脳内ではいま、娘の幸せを願いたい天使と、娘を絶対に渡したくない父がいる」
困惑の内容を教えられ、王の本質を悟ったエイル。
同時に彼は、とんでもない地雷を踏んでしまったと理解した。
応援を頼めないかとマシェリを見るが、エイルの言葉にトリップした少女は、しばらく現実へ戻りそうにない。
味方はいないと悟り、エイルは王にいちおう尋ねる。
「ちなみに、天使の勝つ確率は」
「丸腰の天使に、我が輩はバスターソードを持ち出し……いま真っ二つに斬り伏せ、大消滅魔術を詠唱し始めた」
奇妙なたとえではあるが、要はオーバーキルである。
今のエイルを彼が許す可能性はゼロに等しいということだ。
しかしアーク王にも理性はあり、怒りに応じて漆黒のオーラをまとい始めた右腕をおさえ込む。
「な、ならぬ! 彼は我が輩の可愛いマシェリを救った男! 一時の情だけで、彼のような好青年を消し飛ばしてはいけん! 静まれ右腕!」
「アーク王……!」
「娘を連れて逃げろ! 本当に大消滅魔術を使わぬうちに!」
なぜかアツい雰囲気を漂わせるアーク王に、同じ熱量でうなずくエイル。
彼は浮かれるマシェリの手を取り、真剣な顔で伝える。
「お姫様、いったんお父さんから逃げましょう」
だが彼のウカツなセリフが、王に一線を超えさせた。
「誰がお義父さんだぁッ!」
叫びと共に、彼の腕から禍々しい光弾が放たれる。
触れるものを完全に消し去る、大消滅魔術だ。
目の前にせまる大魔術に、エイルは『ヌエ』を抜く。
そして――自分を飲み込もうとするソレを、一刀両断した。
「我が魔術を斬った……!?」
今まで見たことのない芸当に、アーク王は驚愕する。
切り裂かれた光弾は、霧のように散っていく。
それと時を同じく、謁見の間の扉が勢いよく開かれる。
大きな扉の外は、王宮の使用人が勢ぞろいしており、その先頭に立つ黒スーツを着た褐色の女性が、赤い大剣を掲げて指揮する。
「使用人たちはアーク王の制止! スズとミユウは姫の救助を!」
露出した大きな谷間を揺らし、彼女叫ぶ
すると使用人たちは謁見の間へ飛び込み、アーク王を数百人単位で取り押さえる
同時にスズが、スーツとミニスカート姿の少女・ミユウと共に、エイルたちへ駆け寄っていく。
その間に指揮を出した女は、身動きのとれない王のもとへ一飛びで移動する。
「ったく、何してんだ。天国の嫁が泣くぞ」
「よ、よく来てくれたブレア……ッ! 危ないところだった!」
「危ないのはお前だ」
あきれるように告げると、彼女は背後へ振り向く。
そちらではミユウが、左右で色の違う瞳をジト目にして告げる。
「普段は名君だけど、娘のコトとなるとこれなんだわ」
「話はあとに。今は逃げましょう!」
スズの言葉にエイルはうなずき、再びマシェリの手を握る。
四人が部屋の外へ退避する姿を、ブレアは見て安心する。
「あんなに強く手を握って。期待以上の男だな」
「ああ……彼の教育は、頼んだぞ……ッ!」
「任せな。お前は少し頭でも冷やしとけ」
そう言うとブレアはアーク王を蹴り、玉座ごと転倒させる。
同時に彼女含む使用人たちは、一目散に広間の外へ逃げだす。
「スズ、扉を閉めろ。全員で封印する」
言われるがまま、扉の向こうで立ち上がるアーク王を見ながら、スズは力任せに大きな扉をとじる。
そして使用人たちは息を合わせ、手を扉に向けて叫ぶ。
「「「『大封印』!!」」」
とたんに扉に緑色の光が走る。
次の瞬間、向こうからドゴォッ! 衝撃音が響きわたる。
しかし扉は壊されず、王宮全体が軽く揺れる。
使用人たちはみな力を使い果たし、息切れして床へ倒れた。
そんな中、ブレアはエイルを見ると、元気を振りしぼって立ち上がる。
「私はブレア。王宮の使用人頭で、王女親衛隊の隊長で……まあ、アークの右腕だ」
国王を呼び捨てにし、軽口ながら雰囲気を漂わせるブレア。
彼女は自己紹介を終えると、お辞儀をしてあやまる。
「アークの暴走は考えてはいたが、まさかここまでとは思わなかった。封印で一日は頭を冷やせると思うから、許してやってくれないか?」
「これに関しては、俺が地雷を踏んだのもいけませんし」
「フッ。真面目だな」
エイルの返答に、ブレアは笑って頭を上げる。
そして親衛隊のミユウとスズ、大勢の使用人たちを背に告げる。
「私たちの間に敬語は無しだ」
「それはどういう……?」
困惑するエイルに、ニヤリと歯を見せるブレア。
彼女は握手を求めるように手を差し出しながら、真意を語る。
「エイル・エスパーダ。お前を王女親衛隊において、姫をもっとも近くで守る役職『守護者』になってもらいたい」
こうしてエイルの、新たな生活は幕を開ける。
「姫にふさわしい男になれるよう、そばで勉強したいだろ?」
彼を見つめる使用人たちの目は、彼が本当に欲していた、仲間に向ける瞳だった。
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