第3話『はじめての無双』
砂埃からマシェリを守るエイル。
彼が顔を上げると、現れた少女は拳を突きあげ、土煙を吹き飛ばす。
「王女親衛隊スズ、殿下の危機に参上致しました! どちらにいらっしゃいますか!?」
「お姫様ならここにいます。もう少しやさしく着地したほうがいいかと」
少し古臭い口調の彼女に、エイルは手を振って答える。
するとスズは彼の声に気付き、二人の元へ駆け寄る。
「一般人? なぜ殿下と一緒に?」
怪訝な表情で質問され、エイルは答えようとする。
だがそれよりも早く、マシェリが彼の胸に抱きつく。
「エイル様が私を助けてくださったのです!」
「なんと! それは真ですか!?」
「俺も助けられたので、持ちつ持たれつですが」
素直に答えるエイル。
そんな彼にスズは引き下がり、深々と礼をする。
「王女殿下を救っていただき、感謝致す。そして親衛隊である私の不注意で、殿下共々危険に晒してしまったこと、謝罪したい」
「そういうことか……大丈夫ですよ、頭を上げてください」
エイルにうながされ、姿勢を正すスズ。
彼女の瞳は、今にも泣きそうなほど充血していた。
このまま話が終わったなら、美談として片がつく。
しかし、今度はスズの元へ歩み寄ったマシェリが、彼女の手を取る。
「それに彼こそが私の〝運命の相手〟なのです!」
「……え?」
マシェリの告白に、スズの顔色が一変する。
顔からは血の気が引き、早くなった呼吸が慎ましい胸を揺ら……しはしない。
「あの、エイル殿でよろしいか? 殿下の話は本当か?」
ギギギ、とさびた鉄のように首を向け、尋ねるスズ。
しかしエイルは、そのタイミングで気配に気づく。
バッドステータス『衰退』から反転した『成長』により、感覚すら強化された彼は、目を伏せて告げる。
「……しつこい追っ手だ」
直後、屋上のヘリを無数の黒い手が掴む。
マシェリを追跡していた男たちが、二人の居場所を見つけだしたのだ。
彼等は次々に屋根の上に登り、三人を包囲する。
スズはマシェリをかばうように立つと、鋭い視線を向ける。
「貴様ら、殿下に指一本でも触れられると思うな!」
忠告に男たちは無視すると、まず真正面から襲いかかる。
ナイフを握る大勢の男たちに、スズはガントレットで正拳を放つ。
その一撃で、前方から迫っていた男たちは蹴散らされていく。
「あの女……! 正面はダメだ、まわりから追い詰めろ!」
スズの力を目の当たりにし、男たちは対策をうつ。
一人のセリフと共に、彼等は一斉に攻撃を仕掛ける。
全方向から迫る敵に、対抗策のないスズは、それでもマシェリを守るために拳をかまえる。
だがそのとき、二人の前に立ったエイルが抜刀した。
横になぎ払われた『ヌエ』が、屋根にいる敵を一掃する。
「は……?」
刀が生んだ爆風のような衝撃に、スズは声を漏らす。
彼女たちを残し、屋根の上から男たちを片付けたエイルは、『ヌエ』を握ったまま振り返る。
「まだ下にいるな……倒してきます」
彼はそう言うと、返事も聞かずに屋上から飛び降りる。
眼下に広がる狭い道は、追っ手が埋めつくしている。
着地がてら足元の敵を斬り伏せ、エイルは建物を囲む彼らを次々に倒しながら、自分のコンディションを確かめる。
(これだけ離れると、お姫様の力も弱まるのか。だがプラスに働いていたものがゼロに近づいた程度だ)
追っ手をほんの一握りまで減らし、エイルは肩を回す。
(バッドステータスの時と比べれば、肩が軽くて仕方ない)
その感想に辿り着くと、彼は残る敵を殲滅した。
自身の力を確認し、『ヌエ』を鞘へ収めるエイル。
敵の全滅を感知した彼は、マシェリたちのいる屋上にジャンプして戻る。
そこで唖然としていたスズに、エイルは少し気まずそうな顔をしながら歩み寄る。
「ああ、申しわけないスズさん。少しはりきってしまった」
「い、いえ、それは構わないのですが」
スズはそこまで言うと、巨大なガントレットで自分たちの顔を隠し、マシェリを抜きにヒソヒソ話で質問する。
「王女殿下の話は本当でありますか?」
「反転のことですか? それなら」
手の甲をかざし、ステータスを開くエイル。
表示された呪いと、それら全てをバフに変える『反転』の文字に、スズの瞳が光る。
「これは……抱えた呪いもすごいですが……」
二人の近くに立つマシェリは、彼らのあやしい相談の様子に、笑顔のまま首をかしげる。
するとスズは、大きなガントレットでエイルの手を握る。
「申し訳ありませんが、ご同行願えるか?」
「同行って、一体どこへ?」
「……魔族国家『アークス』へ」
その名こそが、マシェリの父が統治する国の名前だった。
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