第2話『ベストマッチなふたり』
汚い路地裏に似つかわしくないドレスを着た少女。
そんなマシェリに、エイルは失礼のないよう言葉を選ぶ。
「お姫様が、どうしてこんなところに?」
「それが、お忍びの視察に来たのですが……」
マシェリが話している時だった。
彼女の話を遮るように、背後の細い道に、黒ずくめの男たちが現れる。
「いたぞ! ターゲットだ!」
男の一人がそう言うと、彼等はマシェリ目掛けて走ってくる。
道いっぱいに展開する男たちを前に、マシェリは告げる。
「エイル様! お逃げください!」
「そう言われても、アイツ等は一体!」
「わかりませんが、私を捕まえようとしているのは確かなのです!」
会話をしている間にも、男たちは手にナイフを握り、殺すいきおいで駆けてくる。
「私は一人で逃げられますので、早く!」
勇気を出して叫ぶ少女は、恐怖で体が震えている。
ホプキンスに裏切られ、絶望していたところを助けてくれた少女に、危機が訪れている。
目の前の状況に、エイルは考える間もなく抜刀した。
次の瞬間、刃から放たれた黒い衝撃波が、追っ手を一撃で吹き飛ばす。
「そんな、すごい……」
弱っているはずのエイルの力に、マシェリは驚いて声を上げる。
その声に、彼は刀を握ったまま振りかえる。
「困ったときは助け合いなら、俺があなたを助けてもいいですよね?」
投げかけられた質問に、驚きで答えられないマシェリ。
だがエイルは、彼女の後ろに迫る、もう一団の男たちに気づいていた。
さらに背後からは、倒した集団に続くようにあらたな追っ手があらわれ、エイルは状況を判断する。
「逃げましょう」
「逃げると言われましても、どちらへ!?」
前後をふさがれ、はさみ撃ちされている状況に、当然の質問をするマシェリ。
だがエイルは答えを示すように、彼女をお姫様抱っこした。
「な、何を!?」
「喋らないでください、舌を噛むと危ないので」
顔を赤くした少女は、言われたとおりに口を閉じる。
それを確認し、エイルは建物の上へ跳びあがった。
屋根の上に着地し、エイルは一瞬だけ思考する。
(本当にできた……やけに体が軽いから試してみたが……)
博打に勝ったような感覚に、自分の肉体に起きている変化を理解するエイル。
だが彼は足を止めず、屋根の上を走りだす。
地面では男たちが二人を見上げ、道を走って追いかける。
エイルはマシェリを抱いたまま、屋根から屋根へと飛び移り、逃げながら考える。
(やはりおかしい。バッドステータスが追加されたのに、以前より体が軽い)
軽やかな足取りで、最善の順路を知っているように彼は走る。
そのまま走り続けていると、いつの間にか追っ手は消えていた。
安全を確かめたエイルは屋根の上へ少女をおろす。
「すまない。少し荒っぽくなってしまって」
「い、いえ……助けてくださりありがとうございます」
「それは俺のセリフです」
感謝を言い合い、一息つくエイルとマシェリ。
少女は彼の顔を見ると、少し安心した様子で口を開く。
「先ほどよりも顔色が良いような気がするのですが、体調はいかがですか?」
「ああ、そういえば」
マシェリに質問され、体の異変を思いだす。
そうして何気なく彼がステータスを開くと、答えはあった。
―――――
『衰弱(反転:成長)体力を増やし、身体能力を上昇させる』
『別離(反転:出会い)自分にとって必要な人物と巡り合う』
『迷い(反転:正しき道)目指す場所へ必ずたどり着く』
―――――
押し付けられたバッドステータスが、真逆の効果になっている。
それらは全てバフへ変わり、彼を大幅に強化していた。
「なんだこれ……!?」
思わず驚くエイルのとなりで、マシェリも口元を隠す。
「もしかして、私の『反転』が……?」
「何か知っているのか?」
「私の固有スキルです、名前のとおり色々なものを真逆にできるのですが」
そこまで言うと、マシェリは少し恥ずかしそうに続ける。
「その……〝運命の相手〟以外には使えないと聞かされてきて……」
説明を終え、少女は恥ずかしさに顔を伏せる。
彼女はとろけきった表情をエイルに隠し、心の中で叫ぶ。
(私をお救いくださった彼が、運命の相手だなんて……! にやけてしまって、顔が上げられませんっ!)
甘い想像に沈みこみ、体をもじもじさせるマシェリ。
そんな彼女を、エイルは不思議そうに見つめる。
するとそのとき、上空から黒い影が迫ってくる。
警戒して『ヌエ』を構えるエイルだが、その正体であるスーツ姿の少女は、貧相な胸で風を切りながら叫ぶ。
「ご無事ですか、王女殿下ッ!」
巨大なガントレットを装備した彼女は、そのままエイルたちの前に墜落――もとい着地し、瓦礫と砂埃を巻き上げた。
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