第13話『夜戦、妖刀使いVSキマイラ(中)』
夜更けの街に、高層の宿から身を投げた一つの影。
しがみつくマシェリを抱え、エイルは風を切って落ちていく。
「ひいいいいぃぃぃぃっっ!」
みるみる迫る地面に、情けない声をあげるマシェリ。
その悲鳴に、宿の近くを歩いていた人々が顔を上げる。
数はまばらだが、その中に一人、ミユウの姿もあった。
「アイツ何やってんの!?」
夜闇を切り裂くミユウの声。
街に降り注ぐマシェリの絶叫。
さらに二人の頭上から、キマイラまでもが飛び降りる。
『ギィギィィィィィィィィィッッ!』
翼を広げせまりくる怪物を見上げ、エイルは告げる。
「いったん斬るか……マシェリ、しっかりつかまってくれ」
「お、お待ちください、心の準備がっ!」
言いながら、エイルの首に腕を回して抱きつくマシェリ。
彼女の腰を抱きながら、彼はもう片方の手で抜刀する。
上空へ走る斬撃が、キマイラを縦に真っ二つにする。
エイルはそのまま『ヌエ』をおさめず、空中で離してその手をマシェリの足に回し、再びお姫様抱っこする。
「着地するぞ、舌噛むなよ!」
「は、はいっ!」
口をきつく結び、目を瞑るマシェリ。
眼前にせまった地面に、エイルはつま先から着地していく。
小さく砂粒をまき上げて、二人は無傷で生還する。
それに遅れて『ヌエ』と両断されたキマイラも降ってくる。
すぐにマシェリを降ろしたエイルは、地面に刺さった『ヌエ』を抜くと、彼女をかばうようにしてキマイラと距離をとる。
「あれでもまだ生きてるんだろ?」
「はい。複数ある命で、こちらの戦術を学習してくるのです」
エイルの背後でマシェリは的確な情報を与えていく。
そしてキマイラは再生し、首から上をサルのものへ変える。
「さっきより再生速度が速くなっているな……来るぞ」
復活したキマイラは、彼の声と共にマシェリへ襲いかかる。
当然エイルはそれを許さず、キマイラに刃を振り上げる。
いっぽうで怪物もエイルの斬撃を学びはじめ、間一髪で背中の翼を犠牲にし、背中へ回り込もうとする。
だがその時、離れた場所からミユウの声が響く。
「エイル! 五時の方向に斬り下ろし!」
右目を隠し、エイルを支援するミユウ。
彼は背後を見ずに刃だけを振り下ろすと、キマイラは指示された場所へ吸い寄せられるように動き、切り裂かれる。
「なるほど、これが『時間視』か」
ミユウの力を体感するエイルに、親指をたてる彼女。
彼はマシェリを守りつつ、ミユウのいる場所まで下がる。
「姫と飛び降りたのは報告しないでおいてあげる」
「ありがとう……ミユウ、ひとつ頼めるか?」
感謝を告げつつ、エイルはミユウを見て告げる。
「『時間視』は過去も見れると言っていたな。それならあのモンスターの過去も試しに見てほしい」
「いいけど、どうして?」
「アイツはなぜか、マシェリばかりに攻撃を仕掛けてくる」
何かを察したエイルは、立ち上がるキマイラに目を細める。
彼は二人をかばうように『ヌエ』をかまえ、告げる。
「俺が前に戦った男たちと何か関係があるかもしれない」
「……オッケー、そういうことね」
承諾の言葉と同時に、ミユウの左目がひかり輝く。
それと時を同じくし、キマイラが攻撃を仕掛ける。
今度のエイルは油断なく、襲いくる怪物を斬りはらう。
なおもキマイラが復活するたび、エイルは一撃で命を奪いつつ、マシェリとの距離をあけていく。
(離れすぎれば俺も不利になる……もどかしいな)
マシェリの能力範囲を理解し、ギリギリの位置で戦い続ける。
復活がどんどん早くなるキマイラを、エイルは丁寧に倒していく。
回転斬りにより、鷹の首が飛ばされる。
代わりに生えてきたのは、ニワトリのような顔だった。
「気をつけてくださいエイル様! その頭はコカトリスです!」
頭部の変化をみて、マシェリが注意をよびかける。
しかしコカトリスの頭は、エイルの動きより早く口から炎を放つ。
「エイル様っ!」
業火に飲まれたエイルを見て叫ぶマシェリ。
だが彼は炎を断ち、コカトリスの頭も縦にかち割る。
バナナの皮のようになったコカトリスの頭部から、また新しい頭が生み出されようとする。
エイルはそこに、刃先を前方にかまえて突きいれる。
「再生の早さが仇になったな!」
そう言いながら、彼はサルのような頭をつらぬく。
衝撃でふき飛んだキマイラをエイルは視線で追う。
優位に立っていたその時、彼の全身を悪寒がかけめぐる。
覚えのある感覚に、彼は手の甲をかかげる。
(まさか……!)
表示されるステータス。
そこにはもはや見慣れたバッドステータスと共に、新たな呪いが刻まれていた。
――――――――
『衰弱:永続的に体力を減らし続け、まれにダメージを与える』
『別離:探している人物と出会えなくなる』
『迷い:場所の感覚が無くなり、自分のいる場所がわからなくなる』
『死:呪いの発動から三分後に死亡する』
――――――――
シンプルかつ恐ろしい新たなバッドステータスに、エイルの頬は引きつった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、
広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークを押していただけますと幸いです。
執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。