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第12話『夜戦、妖刀使いVSキマイラ(前)』

 宿の壁を破壊して現れた謎めいたモンスター。

 天井に頭をこすらせる巨体を、エイルたちは見上げる。


 二人のうしろには、マシェリのいる大きなベッド。

 すると騒がしさに気づいた彼女は目を覚ます。


「ふはぁ、なんですか……?」


 あくびをして前を見ると、モンスターと視線が合う。


 背中にはコウモリのような翼を生やし、オオカミのような頭に鋭いクチバシ、さらに体の一部はスライムのように半透明。


 怪物の姿に放心した彼女は、ふたたび布団にもぐっていく。


「へんな夢ですね……」


「まって姫! これが現実でさぁ!」


 ベッドに振り向き、眠りを引きとめるミユウ。

 しかしマシェリは布団の中から寝言のように返す。


「現実に『キマイラ』を合成する残酷な人など、いるわけがありません」


 そうは言うが、エイルの目の前に怪物はいる。

 マシェリがキマイラと呼ぶそれは、喉をふるわせて叫ぶ


『ギギイイィィィィィィィッッ!』


 奇怪な声を上げたキマイラは、マシェリに突っ込んでくる。


 カウンター気味に抜刀するエイル。

 瞬間、怪物の首はいとも簡単にはねられた。


「生き物って、そんな簡単にスパっていくもの……?」


 前のめりに倒れるキマイラの体を見て、ミユウが声をもらす。

 だがエイルは、首のなくなったキマイラを睨む。


「……まだだ」


 次の瞬間、エイルの予感は的中する。


 首を落とされたキマイラは立ち上がり、断面から牛の頭部を作り出して復活した。


 怪物は再びベッドを目掛けて突進してくる。

 するとエイルは、再び剣をなぎ払う。


 両断されたキマイラを確認し、彼はベッドに駆け寄る。


「姫様、お目覚めを。緊急事態です」


 それでもマシェリの眠りは相当深いのか目覚めない。

 エイルは仕方なく彼女を布団で包み、そのまま抱き上げる。


「逃げるぞミユウ」


 その案に彼女がうなずくと、キマイラをまたいで部屋を出る。


 赤い絨毯じゅうたんの廊下に出て、走りだすエイルたち。

 それを追うように、彼らの部屋のドアが吹き飛ぶ。


「ひぃっ!?」


 悲鳴をあげるミユウたちを、たかの頭になったキマイラが睨む。

 そして怪物は廊下いっぱいに体を広げ、彼らを追いかける。


「なんでアイツ、私たちを追ってくるの!?」


 疑問をなげるミユウに、エイルは思い当たる。

 そしてそれを確かめるため、彼は提案する。


「二手に別れて、宿の下で落ち合おう」


「でも私のところに来たら、勝てる自信ないんだけど!」


「大丈夫だ、きっとアレは俺を追ってくる」


 確信があるような口調にうなずくミユウ。

 階段へさしかかった彼女は、迷わず下の階へ降りた。


 対してエイルが上を目指すと、キマイラは彼についていく。


(予想どおり……怪物のターゲットはマシェリだ)


 思考する彼の脳裏に、キマイラの行動がよみがえる。

 部屋に現れたキマイラが、自分たちではなく離れたマシェリを真っ先にねらった時から、彼は予測していた。


 だがいくら的中しても危機は変わらない。


 死なない怪物に追われ、彼は階段を登りつめた先にあったドアを蹴る。


 そこにあったのは、広い宿の屋上だった。


 隣国の発展した街並みが、ほとんど眼下に見えている。

 星空の下でふり返ると、キマイラの姿もある。


 ゆっくりと距離を詰める怪物に、後ずさるエイル。

 するとふいに、今まで起きなかったマシェリが目を覚ます。


「エイル、さま?」


 瞳に映る星空とエイルに、マシェリは見とれて声を上げる。

 しかし彼女は首をかたむけ、キマイラを見て固まる。


「すまないが、これは現実だ」


「そ、そんな……」


 悲鳴のような声をあげ、驚愕するマシェリ。


 彼女は目の前の怪物よりも、自身の知る〝残酷な手段〟により、ソレが生み出されたことを恐れていた。


 しかし状況は変わらず、マシェリは現実を受け入れる。


「ミユウに謝らなければいけませんね」


「大丈夫だ。アイツなら今ごろ宿の外で待っている」


「外……そういえば、ここは?」


「宿の屋上。場所的にはよろしくない」


 ジャリ、と音を立ててエイルが下がり、靴の半分が何もない空間に出る。


 抱えられたマシェリは建物の下を見て、息を飲む。

 だがエイルは諦めず、まっすぐ前に目を向ける。


「アレはなぜかマシェリを追っている。しかも切っても死なない」


「キマイラは複数の魔獣を合成させた存在。命は素材になった魔獣の数だけあるのです」


「やはり詳しいんだな。さすが魔族の国のお姫様だ」


 ニコリと笑ったエイルは、覚悟を決めた顔で告げる。


「姫様を守るために、アイツの倒しかたを教えてくれ」


「ええ、私をまもる守護者のためなら!」


 力強く答え、にっこりと笑うマシェリ。

 すると彼は――くるりとキマイラへ背を向けた。


 目の前には、地面がはるか下に見える、都市を一望する絶景。

 なにかを察したマシェリは、覚悟を一度ひっこめる。


「あのエイル様? 何をなさっているのです?」


「体格や床面積を考えたら、ここで戦うのは不利だろ?」


「そうかもしれませんがっ!」


 エイルの考えが手に取るようにわかるマシェリ。

 彼女の腕は、エイルの体を離さないようにつかまえる。


 無意識に二度目の決意を固めたマシェリに、彼は約束する。


「大丈夫だ。俺がお前を守ってみせる」


 すると彼女は、少しパニックになりながら、顔を赤くして返す。


「も、もう! わかりましたっ! エイル様にこの命、全面的に託しますっ!」


「ははっ、任せろ!」


 笑い声をあげて承諾しょうだくしたエイル。


 次の瞬間、マシェリを抱いた彼は、眼下に広がる都市へダイブする――!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。


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