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第11話『観測するもの』

 時間は夜、ところ戻ってエイルたちが止まる宿。

 マシェリはなぜか、シックなドレスの女性に抱きしめられていた。


「むごごごごごっ!」


 良質な黒い布ごしの立派な双丘そうきゅうが、マシェリの頭をうずめている。


 胸の中で彼女はさわぐが、解放される気配はない。

 謎の奇行に走る大人びた少女を指し、エイルはミユウに聞く。


「視察の時にいた、この国の第二王女だよな?」


「リンちゃんねぇ……マシェリが来ると、毎回プライベートでも会いに来てね……」


 二人が身分を語るとおり、隣国の第二王女ことリンちゃんは、抱きしめたマシェリの頭へ鼻を近づける。


 そして、吸う。


「すうううううううぅぅぅぅぅぅぅ……っ!」


 直後、光のない瞳をゆがめ、頬を赤らめるリンちゃん。


 彼女のいかれた行動に、エイルは妖怪でも見るような目で観察する。


 すると彼女は、マシェリの匂いを品評する。


「あはぇ……搾りたての牛乳のようなまろやかさと、桃に似た甘ぁい香り……やっぱ定期的にマシェリさんキメないと、国政なんてやれないわ……」


 体をビクビクと震わせ、恍惚こうこつな表情。

 それで満足したリンちゃんは、マシェリを解放した。


 地面に崩れ、荒い呼吸をする彼女に、リンちゃんは謝る。


「ゴメンね。この前キメられなかったせいで、ずっと我慢してたから」


「い、いえ、お世話になっているので……」


 乱れた髪とドレスをととのえ、返事をするマシェリ。

 するとリンちゃんは三人に頭を下げ、帰っていく。


「ありがとうございます。これでまた頑張れます」


「あ、ああ……」


 謎の感謝にとまどうエイルと、慣れた様子の二人。

 宿部屋を出ようとしたリンちゃんだが、その直前に振りかえる。


「そういえば、ミユウはいつ帰るの? おじ様が心配していたけど」


「いま少し大きいヤマ張ってるから、帰れるときに連絡する」


 ミユウが答えると、リンちゃんは「わかった」と返し、そのまま部屋を出ていく。


 彼女を見送るエイルの脳は、多くの情報に混乱している。

 しかしまずはミユウを見て尋ねる。


「お前、何者だ?」


「あとで説明するから、先にマシェリとお風呂入ってきていい?」


 そう聞かれ、エイルは色々あって疲れ果てたマシェリを見て、うなずいた。


 *


 全員が入浴を終え、身支度を整えた深夜。


 といってもエイルとミユウはいつもの黒スーツで、マシェリだけが寝間着になって、すでに大きなベッドで眠っている。


 二人は彼女の安全を監視しながら、夜が過ぎるのを待つ。

 本を読んでいたミユウは、先ほどの話の続きをする。


「何から話せばいい? 私がこの国の王家ってところ?」


「ぜひそこから聞きたい。ミユウはあの王女の血縁なのか?」


「うん。年上のいとこってやつ」


 本を閉じたミユウは、掛けたメガネをクイッと上げる。

 あやしく輝くオッドアイに映るエイルに、彼女は続ける。


「まあヘンタイだけど仕事ができるリンちゃんと違って、家もこの部屋より小さいし、血統としての知名度も低いけど」


「そうなのか……」


 エイルは返答するが、彼女のいう宿部屋は普通の家が四軒ははいる大きさだ。


 庶民感覚の拭えないエイルに、彼女の例えはわからない。

 それでも彼は話をミユウに投げ返す。


「どうして他国の貴族が親衛隊なんてやっている? 親衛隊はみな半分魔族とスズに聞いたが」


「そうだよ。私も同じ」


 答えながらミユウは眼鏡を外し、二色の瞳でエイルを見つめる。


「私の場合はイビルアイ。本当はでかい眼球みたいなグロモンスターだけど、私はその力が両目に宿ってるの」


「……信じられないな」


 説明を聞き、イメージするイビルアイとの差に驚く彼。

 その反応にミユウは一度メガネを外し、続ける。


「右目は壁も距離も無視できる『千里眼』、左目は過去や未来を見られる『時間視』。本当のイビルアイなら、片方しか所持できない能力でね」


「なるほどな。確かに監視役にはうってつけなワケだ」


「……あー、だから選ばれたのか私」


「気づいてなかったのか……?」


 エイルの言葉で、自分が監視役になった理由を知ったミユウ。

 しかし彼女はすぐに話題をもどす。


「王家じゃ影も薄いし、姫とは昔からのなじみだったし、姫のママに頼まれてせっかくだから力を有効活用しようと思ってね」


「そんな力をどうやって手に入れたんだ」


「ふふーん、それがまた不思議な話でねぇ……」


 誇らしげに左目を閉じ、ウインクして語りはじめようとする。

 だが彼女はそのまま、右目で何かを見つめたまま固まった。


「――盛り上げて悪いけど、いったん切り上げようか。いつでも戦えるように警戒して」


 ミユウの奇妙な言葉に、エイルも危機感を覚える。

 彼は『ヌエ』を抜刀できるように構え、彼女に聞く。


「何か見えるのか?」


「見たこともないというか、色んな見覚えのあるモンスターの合体したようなヤツが、ものすごい勢いでこっちに突っ込んできてる」


 目を細めて彼女がそう言った瞬間だった。

 二人の見つめるなんの変哲へんてつもない壁が破壊される。


 そこにいたのはミユウの言葉どおり、様々なモンスターの個性をあわせ持った、彼らも見たことがない謎のモンスターだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。


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