裏切りパーティの墜落(2)『依頼者の正体』
エイルとミザリーの再接触から一時間。
ちょうどマシェリたちが、仕事として国を視察しているころ。
都市の郊外、街を割る河原のほとりにて、ホプキンスは捕獲したモンスターを、依頼者である御曹司の使いに受け渡していた。
ババがその取引を待っていると、ミザリーが戻ってくる。
彼女の姿を見るや、ババは気さくに手をあげる。
「おうミザリー、遅かったじゃねぇか。道草か?」
「うっさいわね! いま話しかけないで!」
しかし返ってくるのは罵倒に近い叫び。
エイルに見下され、マシェリの雰囲気に負けて凍りついたことが、彼女はどうしても許せなかった。
だがババがそんな事情を知るわけもない。
驚いた彼は、近くの岩にすわり込むミザリーに尋ねる。
「ど、どうしたんだよミザリー……?」
心配そうに眉を曲げ聞いてくるババ。
彼の目を見たミザリーは、吐き捨てるように語る。
「アイツと会ったのよ! エイルと!」
「は!? あ、アイツ生きてたのか!?」
「どっかで野垂れ死んでると思ったのに……腹立つのよあのツラ!」
怒り任せに地面を蹴るミザリー。
話を聞いたババも、エイルの生存を信じられずに固まる。
それでもミザリーの怒りは収まらないようで、ネチネチと言葉を続ける。
「アイツ……貴族のガキみたいな女の子連れて、姫様なんて呼んでるのよ? どこで拾われたか知らないけど」
「でもそうなると、ガキも可哀想だな。アイツといると不幸がうつるだろ」
「あんなガキ不幸になっていいのよ! 私のコト見下しやがって!」
駄々をこねるようにミザリーは地面を足踏みする。
マシェリをガキと言っているが、どちらが子供かわからない幼稚な行動である。
だがそこへ、交渉を終えたホプキンスがやってくる。
膨らんだズタ袋を持った彼は、彼女を見て尋ねる。
「……ミザリーは何をやっているんだい?」
「エイルと会ったんだと。しかもガキの召使いをやっていたらしい」
ババの返答に、ホプキンスは話に聞くエイルを想像して噴きだす。
「エイルが子供の使いかぁ! もう落ちるところなどないと思ったが、そんな場所へ転げ落ちるとは!」
心底楽しそうに笑い、転びそうになるホプキンス。
いっぽうで当のミザリーは、浮いた顔をしていない。
ホプキンスはそんな彼女の不機嫌に気づくと、持っていたズタ袋を彼女の足元へ置く。
「今回の報酬だ。金貨千枚に、追加で捕獲した五十体のモンスターを一体につき金貨九枚で買ってくれた」
袋を持ち上げたミザリーは、ぎっしり詰まった金貨を見て、イラつきはどこかへ吹き飛んだ。
現実離れした報酬金に、三人は笑いが止まらない。
そうしていると彼らの元へ、依頼主の使者が歩いてくる。
「追加のモンスターも捕獲してくれるとは、良い仕事だった」
「面倒でしたが、雑魚モンスター捕まえるだけでこれだけの金貨がもらえるなら、いつでもやりますとも」
「ほう、それなら主人に言っておこう」
ホプキンスの返答に、使者は黒い笑みをうかべて反応する。
あきらかに怪しい雰囲気だが、三人はそれに気づかない。
喜ぶ三人をよそに、使者は黒ずくめの男たち……マシェリを追っていた人々に似た彼らへ、モンスターを運ぶよう指示をだす。
そんな彼らの仕事を見て、ホプキンスは質問する。
「捕まえたモンスターは、いったい何に使うのです?」
使者はそれを聞いたとたん、目をカッと見開く。
威圧感ある不気味な表情のまま、彼は三人へ告げる。
「それを知ってどうするつもりだ?」
おそろしい声色に、興味を消し飛ばされる三人。
彼らは使者に「散れ」と言われ、その場をあとにする。
ホプキンスたちがいなくなり、モンスターの運搬は続く。
するとそこに、一人の男が使者の元へ走ってくる。
「ご報告です! 本日昼前、マシェリ・アムール・アークがこちらへ入国したと!」
「ほう……それは好機だ」
使者は企んだ笑みを浮かべると、その男に質問をかえす。
「魔獣の融合準備はできているか?」
「はい。万端でございます」
「ではそこに、前回採取したマシェリの髪も素材にするといい。そうすれば合成魔獣『キマイラ』は彼女を優先して襲うだろう」
彼の指示に、男は深く頭を下げる。
そんな中で使者は、運ばれていくモンスターを眺めて呟く。
「魔獣……モンスターも人型の魔族もみな同じ、純粋な人間には害悪である」
彼らが共通する思想をもらし、合言葉のように告げる。
「〝全ての魔族に、死の罰を〟」
ホプキンスたちは気付かぬうちに、魔族を滅ぼそうとする危険な集団に、協力させられていたのであった……。
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