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第9話『妖刀使いのエスコート』

 魔族の国『アークス』と、その隣国をつなぐ街道。

 多くの人々が行きかう道に、エイルたちの馬車も走る。


 外見はふつうの乗用馬車だが、内装は豪華なものばかり。


 そんな馬車の中で、マシェリのとなりに座ったエイルは、彼女にお菓子を勧められていた。


「『アークス』でも人気なスイーツショップのマカロンです」


 説明しながら、マカロンをエイルの頬に近づけるマシェリ。


 かわいらしい菓子を頬に突きつけられ、少しはじらうエイル。

 するとマシェリは、予想どおりの言葉を放つ。


「エイル様、『あーん』してください」


 目を細め、恍惚こうこつとした表情のマシェリ。


 再びよぎるスズの教育〝マシェリたちの命令は可能なかぎり遂行する〟。


 彼はすこし頬を染めながら、対面に座るミユウを見る。

 眼鏡をかけ、本を読む彼女は、エイルの視線に気づいて顔をあげた。


「……ん?」


 オッドアイが二人の様子を観察する。

 だがミユウは片手をそっと前に出し、エイルの視線に答える。


「隣国までもう少しかかるし、好きにイチャイチャしてもろて」


 それだけ言って、彼女はふたたび本へ視線をもどす。

 だがエイルは、おかげでミユウが気にしていないと理解し、少しだけ肩がかるくなる。


 すると彼は、あらためて口を小さく開け、マシェリのお菓子を受け入れた。



 それから数時間後、馬車は無事に隣国へたどり着く。


 エイルは二人より早く馬車を降りるとエイルは、あとから続くマシェリにすかさず手を差し伸べる。


「大きな段差になっていますので、よろしければお手を」


「まあ、ありがとう」


 人目が多いからか、凛とした声で返答するマシェリ。

 エイルの手を取り、馬車を降りた彼女は、小さな声で評価する。


(とてもスマートです。勉強、頑張られたのですね)


 褒めながら微笑む彼女に、エイルも満足げに口元をゆるめる。


 彼がふたたび顔を上げると、ミユウが馬車から地面を見下ろしていた。


「……手を貸そうか?」


 躊躇ちゅうちょしているミユウに、エイルは手を差しだす。

 すると彼女はその手を取り、なんとか下車に成功した。


 ミユウは足元をふらつかせながら、エイルを見上げる。


「あんな揺れる中で本は読むモンじゃないわ」


「なんで親衛隊のミユウがグロッキーになってんだ」


 青ざめた彼女の顔に、エイルはやれやれと首を振る。

 ミユウが落ちついたところで、三人は改めて周囲を見た。


 隣国の首都に位置するだけあって、街はエイルたちも知るとおり多くの人々でにぎわっている。


 中には昔の彼のような冒険者もちらほらといた。


 不調から回復したミユウは、その様子を踏まえてメモを広げる。


「着いたら視察の予定だったけど、先に宿へチェックインに予定変更して大丈夫?」


「構いません。スケジュールはミユウにお任せします」


「オッケー、ありがとう姫」


 フレンドリーに返答し、メモに書き込むミユウ。

 マシェリもそんな彼女に、友達のように笑いかける。


 はじめて見るマシェリの顔に、エイルは視線をうばわれる。

 すると彼女は、笑みを浮かべたまま歩きだそうとした。


「そうと決まれば、さっそく向かいましょう!」


 ほがらかに告げるマシェリだが、そんな彼女にエイルは手を前へ出してさえぎる。


 突然のことに驚き、顔を上げるマシェリ。

 するとそこには、背を向けるエイルと数名の悪漢がいた。


「よぉ、お前達は貴族か?」


「俺たち貧乏でさぁ、お恵みしてくれね?」


 マシェリたちを貴族と誤認し、図々ずうずうしく言い寄る悪漢。

 隣国は発展しているが、そのぶん治安も良いとは言いきれない。


 彼らの物乞いに、無言で対抗するエイル。

 すると悪漢の一人が、ポケットに手を突っ込む。


「いいのかよ、そんな態度でよォ!」


 ポケットからナイフを取り出そうとする男。

 しかしエイルは、目にもとまらぬ速さで彼に寄り、腕を握ってささやく。


「……相手を間違えるな」


 地をうような声を告げられ、ぞわりとする悪漢。

 エイルはさらに耳元へ唇を寄せる。


「ナイフを抜くより、俺の抜刀でお前の首が飛ぶほうが早いぞ」


「ひっ!」


 怯える声をあげ、腰を抜かす悪漢。

 彼が一目散に逃げだすと、仲間らしき男たちもあとに続いた。


 敵を散らしたエイルは振りかえり、マシェリへ尋ねる。


「お怪我はありませんか?」


「は、はい……」


 スマートな彼の対応に、マシェリは瞳をきらめかせて見惚れていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。


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